期間契約のパートナー
初の護衛依頼からしばらくの間、森の奥に入って行う狩りの依頼を中心に受けていた。
馬車の材料、特に可動部分については鉄を加工しようと思っていたのだけれど、馬車工房のおやじさんが「魔物の素材には鉄より硬いのもあれば、丈夫でしなやかな物もあるぞ」なんて教えてくれた。確かに弓の材料で使われている物でも流用できる素材は有りそうだし、その内のいくつかは近くの森でも狩ってこられる素材だったので、安全マージンも取りつつ訓練もかねて2人組で潜っている。
相棒は1つ年下の女の子で、名前をアリスというハーフドワーフを買ったのだ。
奴隷契約になっているので買ったと言ったけれど、どちらかと言えば人助けの面が強いかもしれない、短期間の強制雇用契約だと言った方がしっくりくるだろうか。
弓工房のヘグィンバームさんの所に顔を出したら、工房の様子がどうもおかしい。
ヘグィンバームさんの代わりに何度か見かけた事のある女の子が居て、強面のおじさんに問答無用で詰め寄られていたのだ。聞こえてきた会話から借金取りだと思われる。
「すみません。ヘグィンバームさんはいらっしゃいませんか」
「なんでぇ、取り込み中だぞ。あとで出直して来い」
「支払いなんですけど。分かりました、後の方が良いなら出直します」
「ちょっと待ちな。オメェの用件、先に済ましちまいな。こっちは時間がかかるからよ」
「では工房から出ていてください。金額が金額なので、他のお客さんの前でする話でもありませんしね」
Dランクのギルドカードを見せたうえで、そんな感じで強面をとりあえず追い出し、同年代の女の子に安心するようにと話しかけた。
アリスと名乗ったその子はヘグィンバームさんの姪に当たり、冒険者だった両親を早くに亡くしてここに引き取られているのだと言う。肝心のヘグィンバームさんは不在で、いつ帰って来るかもわからないのだと言われた。
「さっきの人たちは借金取りか何かじゃないの?」
「そうなんです。伯父さんがこの工房の維持のために、あの人たちからお金を借りたようなんですけど。そんな話は伯父さんから聞いたことないし、利子を含めた金額が金貨1枚だと言っていて、期日も過ぎているから今払えなければ私を売ってお金を作るって」
「借用書とか誓約書とか見せてもらった?」
「さっと見せられましたけど、そういったのって詳しくなくって」
「なら、頼れる人にお願いしないと」
「伯父さんも偏屈なところがあって、親しい人と言っても……」
そんな感じだったので、乗り掛かった舟だものなぁってな感じで交渉に付くことにした。
場を冒険者ギルドに移し、ヘイルさんに仲介してもらって借金取りとの交渉を進める。相手が用意していた借用書は正規の物で、偽造等は見受けられないと証明されたことから、他にはないのか尋ねてみると「これ1枚だ」と確認が取れた。
「なら、私が全額この場でお支払いします。冒険者ギルドで仲介していただけますか」
「いいけど、ちゃんと手順を踏もう。まずはアリスをユーミの奴隷として紋を施す。アリスはユーミにその身を売って金貨1枚を得、伯父の借金を返して金貸しとの関係は清算される。アリスは奴隷となったことから、今後は伯父であるヘグィンバームが買い戻さない限りは他との縁は切られたものとする」
「解りました。ヘグィンバームさんが買い戻しを要求してきたのなら、相応の価格で応じることとします。が、他からの交渉はヘグィンバームさんから直接「干渉はしない」との言葉を頂かない限り行わないこととします」
「私はご主人様になるユーミさんから許可を得ないまま、いかなる契約にも従いません」
ヘイルさんは多分、私がお金を払っただけではアリスを悪意から守れない事を知っていて、あえて私の奴隷とすることでアリスを守ろうと考えたのだと理解した。そんな訳で、一切の干渉を排除することを宣言した訳だ。アリスがどこまで理解しているかは不明だけれど、私の奴隷になることに不満は無い様で助かった。
借金取りは不機嫌そうだったけれども、私がギルドカードからお金を引き出してアリスに渡し、返済を行って直ぐにヘイルさんが奴隷紋を施したので、借金取りは黙って部屋から出て行った。
「さて、ユーミ。奴隷の扱いについて説明は必要か?」
「要らないですよ。ヘグィンバームさんが戻ってくるまで預かっていれば良いのでしょ?」
「だな。アリスを連れて歩くなら、冒険者登録をしてしまうか? ヘグィンバームには世話に成った事もあるから、アリスの登録料は俺が出しといてやるよ」
奴隷もカードが作れることに驚いたけれど、アリスも身分証代わりに持っていた方が良いだろうと、ヘイルさんの厚意に甘えて登録を依頼した。
《アリス》
【種 族】 ハーフドワーフ
【ジョブ】 枢機卿
【スキル】 調整、補佐、回復、解毒
【魔特性】 水
【制 約】 ユーミの借金奴隷、紋による行動制約付き
「さっきの三文芝居は、これが原因かもな」
「「……」」
アリスのジョブもかなりレアだそうで、少しはまじめに保護をしなければと気持ちを改めた。そして是非、レベルを上げてステータスを伸ばしてもらいたいと思う。それが身を守る術になるし、庇護を受けるにしても相応な立場を得られるだろうから。




