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初めての買い物

 独りで王都に行くのは無理だ。

 こちらの常識も分からないままで行動することは出来ない。


「もしお邪魔でなかったなら、私を王都まで連れて行ってもらえませんか? できるなら冒険者として生きて行こうと思うのです。渡り人としてではなく、こちらの世界の人間として」

「そうだね、それが良いかもね。なら先ずは、着る物を何とかしましょう。この先に少し大きな村があるから、とりあえず向かいましょう」


 2時間ほど歩いただろうか、道の向こうに開けた場所が見え始めた。目を凝らせば木造の柵が見える。

 手筈通り私は道から外れ、少し森に入ったところでしゃがみ込む。ナタリーさんが私用の服を村で調達してきてくれることなって、着替えを済ませてから一緒に村に入る予定になっている。

 1時間も待たずに戻ってきたナタリーさんは、彼女の着ているものに近いローブやマントを買ってきてくれた。急いで着替えを済ませると、着ていた制服を渡された頭陀袋(ずだぶくろ)に畳んで入れ、襷掛(たすきが)けにして村へと入った。


 少し大きな村、と言っていたけれども小さかった。

 向こうの端が見えるくらいだからサッカースタジアムくらいだろうか。建物のほとんどが木造の平屋建てで、かろうじて店らしき建物にのみガラス窓が嵌っている。

 唯一ある2階屋が宿屋だということで、2人部屋を1部屋借りてもらう。


「こっちの常識を教えてあげないとね。実は私、王都に呼ばれた理由が勇者への教育係なのよ。主に魔法に関することなんだけど、予行練習だと思って聞いてね」


 そう言って、いろいろなことを教えてくれた。


 この国はユール大陸の西に位置するアセルラ聖王国。アセルラ教を国教としてその本山を有する宗教国家だそうだ。国の南を広大な森に接していて、この森から魔物が多く溢れ出る。なんでこんな危険な場所にと思ったら、アセルラという女神がこの地で魔物を押しとどめて人々を救った神話があるそうだ。

 王都に行けばこの辺の村より物価は上がるが、それでもパンが銅貨一枚、食堂に入れば1食で銅貨5枚から大銅貨1枚。宿で一泊二食付きが銀貨1枚でお釣りがくるらしい。

 各10枚で上の硬貨に代わり、銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨と上がってゆく。その上に大金貨や白金貨があるそうだけれど、まず庶民が見ることはないらしい。銅貨が百円、銀貨が一万円だと覚えておけばいいだろうか。

 ギルドの登録料に銀貨3枚かかるそうだが、装備もある程度揃えておかなければ依頼もこなせないので、大銀貨2枚は最低必要になると教えてくれた。錬金術をしようと思ったら、その費用も十倍は必要だろうとの事。


「でね。あなたの持ち物で不要なものが有ったら、私に買い取らせてもらえないかしら。大事なものまで売る必要はないけど、異界の物にとっても興味があるのよ」


 王都への旅費として金貨1枚が支給されているけれど、魔法でその工程のほとんどをジャンプしたのでお金がかかっていないのだとか。だから高値で買い取るわよ、なんて言ってくれた。

 お言葉に甘えて祖母から貰ったお守りとポーチ以外を、制服も含めて金貨1枚で買ってもらった。破格だとは思ったけれど先行投資だと言われ、厚意に甘えさせてもらった。


 買い物に行く前にステータスを隠してしまい、こちらの人に見えるようにした。


《ユーミ》

 【種 族】 人族

 【ジョブ】 弓名人(アーチャー)

 【スキル】 遠見、必中

 【魔特性】 水


 これくらいならステータスを見られても問題にならないだろうとのことだった。神殿以外でも、他人のステータスを覗き見ることができるスキル持ちが居るそうだ。それでも、ギフトで偽っていればおそらくバレないだろう、とはナタリーさんの推測だ。


 付き添ってもらって服と下着を複数枚購入する。服は冒険者として動きやすいよう、ブラウスに短めのチェニックを羽織ったパンツスタイルを選び、ニーハイのロングブーツを合わせる。剣士寄りの服装になってしまったけれど、矢筒を背中ではなく腰に吊るので妥協できるスタイルだろう。

 武器屋はないものの、道具屋に行けば剣なども置いてあった。自衛のために村の人が買いに来ることも有れば、冒険者が武器を壊してしまって買っていくこともあるそうだ。もっともそんな冒険者は駆け出しらしく、売っている武器自体は安物しか置いてはいないそうだ。


 これまで触った事など無いはずなのに、手に取ってみればその善し悪しがなんとなく分かってしまうって、スキルが大いに影響しているのだろう。これかなって感じた小振りの複合弓(コンポジットボウ)と矢筒に入った矢、服が引っ掛からないように革の胸当てを買った。胸は小振りだけれど念のために、ね。

 旅装用のマントと背負い袋や保存食を買えば、大銀貨2枚チョットの出費となった。贅沢に買ってしまったけれど、ゼロに等しい持ち物なのだから致し方ないと思っている。王都に着いたら追加で買うものも出てくるだろうけれど、それまでには空間魔法を使えるように練習しておきたい。


 宿に戻って魔法を習うことになった。

 適性があっても使い方がわからなければ意味がないので、ナタリー先生の特別教室を開いていただいたのだけれど、思いのほか簡単に操ることができた。理科や生活の知恵が備わっているので、いろいろとイメージしやすいのが良い影響を与えているらしい。

 水に至っては、ナタリーさんの出す魔法の水より私の方が美味しいのだ。多分、ミネラルとかって考えているから土魔法も若干発動しているのだろう。ナタリーさんの出す水は純水になるから味気ないのだと思う。



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