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初指名、初護衛

 冒険者の友人と呼べるのはモーリンとアルテだけなのだけれど、話をするくらいの付き合いは少しずつ増やすようにしている。一緒に食事なんてことはまだまだだけれど、待ち時間に話したり、依頼を受けるにあたっての情報交換は出来るようになってきた。

 けれども好ましくない二つ名をいくつか頂いてしまったので、親しくなるのは前途多難なのも事実だったりする。


必中必殺の弓姫(ボゥ・プリンセス)】【豪炎の魔王(フレイムデビル)】【強弓の闇討ち師(ダークスレイヤー)


 弓姫はまだ許せるけれど、勇者を焼いたからって魔王は無いだろうし、視認される前から射ているからって闇討ち師はありえないと思う。明らかに避けて歩く冒険者、特に男性冒険者はこちらから願い下げだし、年上なのに敬語を使ってくるなんて論外だろう。そんなわけで、普通に話ができるのはまだ数人しかいない。


 そんな私を心配してくれていたのか、カティアさんから指名依頼が舞い込んできた。

 商隊の護衛で、期間は10日間。Dランクパーティーの【ワルキューレ】と一緒に受けるのだと言う。


「【ワルキューレ】の構成を教えてください」

「全員女性で、剣士が2名に魔術師と回復師と斥候の5人組よ。商隊の護衛は幾度も経験しているので心配はないわ。ただ今回のルートはサンダーパンサーの生息地を始め、集団行動をする魔物が多い所なの。魔術師のプリシラは広範囲魔法が不得意でね、近づかれる前に仕留められるアナタが付いてくれると安心感が上がると思って」

「先方が受け入れてくれると良いのですが」

「それは大丈夫。不安解消にどうかなって話したら、是非にって言ってきたくらいだもの。それで文句なんか言う子達ではないわ」


 手持ちの馬車を引いて行っても良いと言うことで、釜を空間収納(ストレージ)にしまって野宿用品をまとめて出しておく。簡易ベッドを足して完全にキャンピングカーの様相になったけれど良しとしよう。

 彼女達との初顔合わせは馬車の預かり所、私の幌馬車(キャンピングカー)の前でとなった。


「こうして話をするのは初めてね。【ワルキューレ】リーダーで剣士のナターシャよ」

「私はシーア。双剣使いよ、よろしくね」

「魔術師のプリシラって言います。馬車を持ってるなんてすごいね」

「回復役を担っているミラです。移動時は御者をすることが多いのよ」

「ナディよ。斥候や後衛のガードをしてるわ」

「ユーミです。護衛依頼は初めてなので、いろいろ教えてくださると助かります」


 自己紹介を済ますと、馬車の中を見てもらう。食料や各種ポーションを積んでも余裕が出そうで、食料を多めに持って行くことになった。

 水に関しては私とミラが生活魔法で出せるので、備え付けの小さな瓶で足りるだろうとの結論に至ったゆえだ。水魔法が使えないと、期間が長くなるほど荷に占める水が馬鹿にならない。その点、2人もいれば予備だって持つ必要はない。

 装備で嵩張るのは私の矢くらいなものらしく、それもあって弓使いの冒険者は少ないのだと教えてもらった。もっとも空間収納(ストレージ)などと言う裏技があるので、武器を変えるつもりは全くない。


 出発の朝は集合時間前に馬車を移動させたけれど、集合場所には既に商隊が準備を終わらせて待っていた。慌てて挨拶をすると、「まだ時間前だから気にする必要はない」と笑って迎えてくれた。気のよさそうな商隊リーダーにちょっと安心感が持てた。

 私のを含めて馬車が5台あって、ミラが私の馬車を操ってくれて先頭を行く。最後尾の馬車にはプリシラが同乗し、残りの3人はそれぞれが馬に乗って並走する。

 私は見張り台に腰かけて哨戒に就くのだけれど、今日はおそらく出番は無いだろうと言われていた。


「この馬車、快適過ぎない!?」

「乗り合いの箱馬車と変わらないと思いますけど」

「いやいや、おかしいよ。街中のと比べちゃだめよ」

「試作品だったそうですから、たしかに普通の荷馬車ではないです。さすがにアレの屋根で見張りは難しいですから」

「そうよね。ねー、ナターシャ! 私もこれと同じの欲しーぃ」

「安く手に入るなら良いよ。出せても金貨2枚までだけどね」

「金貨5枚でも買うべきよ! 次乗ってみなさい!」


 その日は4回の休憩を挟んで、予定通りに宿営地へと辿り着いた。休憩の度に御者が変わると言う予定外の事はあったものの、順調すぎる初日だった。

 そうそう、今回も宿営地に入る直前にスモールボアを1頭仕留めていた。宿営地が目と鼻の先だったので、騎乗の3人に解体と回収をお願いし、私たちは先に宿営地に入って野営の準備に入っている。回収組が戻ってきたら夕飯として焼いて食べることになる。商隊には男女5人がいて、宿営地には別の商隊と護衛が8人いたけれど、みんなで食べれば食べきれるだろう。


「戻ったよー」

「あの距離で仕留めるなんて、オーガの噂も本当だったんだって納得できるよ」

「それより、この矢ってどうなってるの? 頭蓋骨を打ち抜いてなお曲がりもしていないなんて」

「矢は特別な伝手があって、この弓専用で作ってもらったんです。それくらいの強度が無いと、この弓では飛ばせないんですよ。高かったですが、回収できれば損にはならないかな?」

「そっか。なんか全部が規格外って感じだね。さすが必殺の弓姫」

「(あれが【豪炎の魔王(フレイムデビル)】か! 躊躇ないらしいぞ!)」

「それよりー。早くご飯にしよーよー」


 ボア肉のお裾分けが効果を発揮したのか、あちらの護衛と混合で見張りのローテーションを組むことが出来た。けっして【豪炎の魔王(フレイムデビル)】の二つ名が効果を発揮したわけではない。

 四交代で組んだローテーションでは、私は最初の番となった。見張りの時間は気配探知をしつつ星を眺めて過ごしたのであっと言う間で、その後の睡眠は馬車のベッドを使ったので熟睡できた。




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