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移動式の作業場

 無事にDランクに上がった私は、少ない報酬と危険手当名目で馬を貰った。

 ダンジョン専門の冒険者では邪魔だろうけど、遠征が多くなるような王都の冒険者には重宝するというので乗馬の練習に励んでいる。

 これまでの稼ぎで懐が温かいのも有るけれど、今回の討伐クエストではレベルが上がらなかったことも影響している。いくら悪党だろうが、人を殺しても経験値に変化が無いようなのだ。野生のウサギなどでは多少なりとも経験値に変化があることから、『魔石を取る、取らない』は影響しないことも分かっている。人殺しが横行しないようになのかもしれないけれど、神様の考えていることはちっとも分からない。


 馬にはルビーと名付けた。

 盗賊が所有していた馬の内の1頭で、足は速くないのだけれど丈夫で力強い個体を選んでもらった。実は馬車を買ってキャンピングカーの様に改造しようと考えていたので、それを引かせるのに良い馬が欲しかったのだ。もちろん乗馬も出来た方が良いので鞍も新たにあつらえてある。

 馬車(キャンピングカー)のアイデアは向こうで読んだラノベにあったものだけれど、簡易ベッドを持つ荷馬車が売りに出ていたのを見て思い出した。馬車が有れば狩ったオークの肉を持ち帰ることもできるし、野宿で体がいたくなることも無くなるだろう。大きさは1頭引きの小型な荷馬車で十分だろうし、それだって軽トラックより少し大きいくらいのサイズがある。


「この荷馬車の幌枠、もう少し丈夫にすることって出来たりしますか」

「どのくらい丈夫にするんだい? それによっては重量が増えて馬が引ききれないよ」

「大人1人が見張りに立てるくらいの、板張りの屋根が欲しいんです。私は冒険者をやっていて、獲物を探すのに登れたらって思って」

「それくらいなら大丈夫だろう。そこ以外は幌掛けで良いんだろ? 中はそうだなぁ。嬢ちゃんは小柄だから、ベッドは少し高い位置に固定してしまうか。そうすれば物を吊ることもできるし、棚が欲しけりゃ作り付けで用意してあげるよ」


 金貨1枚と大銀貨4枚ほどの全財産を持って、馬車の加工を請け負っている工房にやってきた私は、程度の良い中古の荷馬車を前にオヤジさんと話し込んでいた。

 相場を聞いたら、小型の荷馬車でも新品なら金貨一枚になるのだそうだ。そこに枠を付けて幌を掛ければ倍近くなってしまうと聞いて、中古を探してみることにしたと言うわけ。それで行き着いたのがこの工房で、佇まいは古めかしいけれども作業場も商品も清掃が行き届いていて、私みたいな小娘を邪険に扱う事もなくって気に入った。


 こちらの荷馬車は浅い箱から張り出す様に4個の車輪を取り付け、前部に座るために板が貼ってあるだけの物がベースとなる。そこに背凭れだの幌だのを付けていくから、二つと同じ物が無いくらいだ。フルオーダーだと考えれば、割高なのは仕方がないと思う。

 ところが、工房にあった荷馬車は小さめの車輪が付いたフレームの上に板バネを置く、箱馬車と同じ構造を持った特注の荷馬車だった。なんでも、水を零さずに運ぶために試作されたのだけれど、踏み固められただけの道では効果が見られずに流れてきたのだと説明された。中古と言ってもほぼ新品で、中に水が零れたと言っても既に乾いているし板が腐っているわけでもない。それでいて大銀貨6枚で良いと言われれば買わない選択は無いと思う。


 乗馬の練習に2週間かかり、その間には馬車の改造が終わって預り所に移動してもらっていた。幌掛けなので耐寒性や防護性は低いけれど、空間収納(ストレージ)に荷を入れてしまうので荷の盗難は気にする必要が無い。特殊な構造をしているので、馬車ごと持ちだそうにも目立つこと請け合いで、そこも盗難防止に一役買っている。

 御者の練習はこの前の討伐遠征時に教えてもらったので、ルビーが慣れさえすれば問題なく移動できるだろうと、試運転(?)に森まで走らせてみる。さすがにサスペンションが付いているだけの事はあって、乗り心地は前回の馬車とは比べようもないほど快適だった。


 森に沿って少し進み、気配感知の範囲内に人が居ないことを確認して馬車を停めた。

 今回のもうひとつの目的は魔法の練習で、人目に付かない場所で行いたかったのでここまでやってきた。

 魔法はイメージが大事なのだけれど、正しい詠唱も成功するための大事な要素だ、普通だったら。それなのに私は、どうもジョブの関係からか普通ではなかったらしい。

 私の魔法は物質変化と付与系、自身に対する身体強化や生活魔法のみを使うことが出来たが、全て無詠唱でできるのだ。ナタリーさんが「ユーミは規格外だから」なんて言葉で消化してしまったのには、ちょっと思う所もある。


 真贋や付与、収納をとにかく頻繁に使っているせいか、錬金術師(アルケミスト)のレベルは上がってはいないのだけれども個々の能力は高くなっていた。

 収納量の増加もそうだし、物を詳しく鑑定しようとすれば等級以外に素材まで解ってしまうくらいで、想像しただけである程度の素材とその量が分かってしまう。その内に他人のステータスまで見えてしまいそうな気もしなくもない。


 実は魔道具屋を覗いた際に錬金釜を見つけていた。店主のおばあさんが「中古だが先祖が使っていた本物だよ」って見せてくれて、錬金術だけでなく魔法薬を作るのには釜が必要かなって気付いたとたん、その材料と作り方が解ってしまったので作ることにした。

 材料の大半は鉄なので中古の剣を買ってきていて、ここに来るまでに必要な魔石も狩ってきている。作る環境が『魔力の淀んでいる場所』なので、前に見つけたポイントにやって来たというわけだ。

 防水布を敷いた上に材料を並べ、魔力を練ってイメージを固めていくと、ものの数分で立派な釜が出来上がった。馬車に常設するのであまり大きくは無いのだけれど、これが正しく機能すればポーションなんかも作れるだろう。まさに本格的な錬金術師(アルケミスト)としてのデビューを迎える。




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