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盗賊の殲滅作戦

 今日の野営地少し手前、大型の荷馬車が傾いて止まっているのが遠目に見えた。見えたと言っても私にはって感じで、同じ遠見のスキルを持つジークさんに詳細は見えてはいない。


「前方に荷馬車が見えますが、傾いています。車輪が壊れたか(わだち)にはまったかですが、男が脇で座り込んでいるだけで、修理らしい作業はしていません」

「そうか。そろそろ出てくるとは思っていたけど、そうやって止める算段かな」

「そうでしょうね。馬車の外に2人、中に8人の気配を感じます。それと、後ろから近づいてくる気配も多数」


 挟み撃ちにする計画なのか、しばらく前から後方に気配を感じるようになっていて、それがここに来てスピードを上げて迫ってくる。

 想定内の行動なので、こちらもそれに合わせて配置を変えることになった。私の乗る馬車を後に配置し、砲台として後方の殲滅をジークさんと担うのだ。

 距離を空けて前に出た馬車にはカイルさんもボーズさんも居るので、接戦になったとしてもある程度のフォローは期待できるのだろう。なにせ初日にウサギを仕留めた腕前を買われ、ボーズさんが提案したフォーメーションだもの、手が足りませんでは示しがつかないはず。


 手を振って馬車を止めようとする輩に、カイルさんが1人先行して声を掛けに走る。馬車なんて直ぐには止まれないから、走って状況の把握をするのだ。

 私は準備のために幌の枠に登り、作戦通りに止まっている荷馬車の方に矢を射た。

 矢はけたたましい音を立てて手を振る男の頭上を通り過ぎる。いわゆる鏑矢(かぶらや)と呼ばれる物で、音に驚いた盗賊たちが慌てて荷馬車から転がり出てきた。

 先手必勝とばかりにカイルさんが剣を抜き放ち一太刀浴びせたところで、私は次の目標をとらえるべく後ろを振り返った。


 馬車が止まって剣戟と叫び声が響き渡る中、400mを切った後方から接近中の盗賊を右端から順に射倒してゆく。総勢20人の馬上の敵は100mを切るまでに3人までに減っていて、反転も許されずに横を抜けて逃げるところを、ジークさんが馬ごと風魔法で切り刻んでゆく。

 倒れこんだ人馬の血だまりを避けるように、乗り手を失った馬が駆け抜けてゆくが、既に勢いはほとんど無い。留まってくれれば帰りの足にでもなりそうだ。


 後ろは片付いたので前はと見れば、2対1の優勢を保って切り結ぶ勇者の剣士が目に映る。後衛の2人は盾持ちの勇者に守られながら、魔法とボウガンで応戦しつつ成果を上げていた。

 取りこぼしがないか気配を確認し、問題なさそうなのでジークさんの後について射落とした盗賊の所に歩み寄る。指示通りに2名ほど急所を外したので、馬に踏まれていなければ息をしているはずだ。

 近寄ってみれば片方は肩と足に矢を受けて生きていたけれど、もう一方は落馬時に折ったのか首がそっぽを向いている。そこまでは責任は取れない。


「さて、お前さんのお仲間は全滅だと思うんだが? おとなしくアジトの情報を吐いてもらおうか」


 声を掛けるジークさんではなく、矢を番える私が怖いのか震えながらも私から目を離さない男に、威嚇を兼ねてニッコリと笑いかけてやったら、ズボンにシミを作って武器を手放し両手を上げた。この先の尋問はジークさんに全てお任せしよう。


 程なくして前方の戦闘も終わり、こちらの負傷者はソランさんが全て治癒してしまった今、被害ゼロと胸を張れる成果をあげられた。相手方の被害は、負傷者五名の他は穴の中だ。ご丁寧に私たちを埋める穴を掘っていてくれたのだが、これが本当の「墓穴を掘る」というものなのだろうか。手間が省けた事には感謝したい。塩漬けで持ち帰る頭の処理だけでも重労働なのだが、あちらの大人たちがやってくれている。


 どうやら情報が洩れていて、人も殺せない新人冒険者が混じった討伐隊なのを知って、総出で歓迎に来てくれていたそうだ。まさかあの距離で射殺されようとは、思いもよらなかった事だろう。勇者との情報が出てこないのは、ギルドの職員が怪しいと言うことになるそうだ。

 馬車一台に【銀翼の剣(サルベーションソード)】メンバーだけを乗せ、無人だと言うアジトの確認に赴いている間は休憩となった。もっとも街道の真ん中で休憩など出来ないので、野営地までは馬車を進めたうえでのことになる。


 集めた馬の世話を手伝っているところに、少し浮かない顔のナタリーさんがやってきた。

 騎士に一言断りを入れ、2人して少し離れた所に隣り合って座った。


「目を見張る活躍だったわね。でも、大丈夫? 無理とかしていない?」

「大丈夫ですよ。魔物を殺すことで慣れてしまったんでしょうね、直接切りかかったわけでもないですし、大丈夫です」

「そう。王都に戻ったらDランクの、一人前の冒険者ね。あっと言う間に抜かされそうで、正直なところ末恐ろしいわ。今後はどうするの?」

「Cランクまでは上げようかと。素材がある程度揃ったら、錬金術の方も進めてみようかと思ってます。王都にずっと居るつもりはありませんが」


 王都から通える場所にはダンジョンが無く、ダンジョン産の素材は王都では高くて手が出ないものが多かった。そんなわけで、ダンジョンに近い街に移ることも考えてはいた。それに、王都にいつまでも居て渡り人だとバレるのも好ましくはない。

 香織たちが余計なことを言いふらしたら、どうなるかの予測がつかない危機感も、王都を早く出ようと思った理由のひとつだ。


「ナタリーさんには居場所がわかる様にしようと思います。ですから、王都の仕事が終わって暇が出来たら、ぜひ訪ねてきてください」

「そうね。その時はユーミの奢りで飲み明かしましょうね」

「はい。楽しみにしています」


 こうして、初めての昇級クエストは幕を閉じた。




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