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Side 服部圭介

 NPCに反撃されて重傷なんてありえない!


 そんな言葉が出てくるほどに連れてこられた彼らは、この世界をゲームだと未だに思っているのだと窺い知れた。仮にそうだったとしたって、ここで死んだらそれで終わりの可能性が高いって思いもしないのだろうか。でなければ、今頃ログアウトして家のベッドで寝ているはずなのだから。


 期末考査を控えた週末の金曜日、駅前の店は何処もテスト勉強に勤しむ学生であふれていた。そんな僕も、友人と2人で対策ノートを写しあう場所として期待していて、無理そうだからと別れてバスに乗ったのだ。

 いつもはバスなど使わないのだけれど、今朝は雨が強かったことに加えてちょっと前に自転車での傘差し運転を注意されたばかりだったこともあって、電車とバスを乗り継ぐ必要があった。


 バスには高校生が多く乗っていて、それ以外は年寄り夫婦が一組居るだけだったが、夕方の早い時間はこんなものなのかと漠然と受け止めていた。

 そんな中で定刻通りにバスが発車したが、ずいぶんと乱暴な運転に思えた。立っていた者の中には慌てて吊革や手すりに掴まる者もいて、吊革に掴まるようなアナウンスが後追いで流れたことに、みながムッとしているように見て取れたからだ。

 そんな中で減速しないまま差し掛かった交差点で、信号が黄色から赤に変わって急ブレーキでもかけられるのかと力んだとたん、加速をした感覚に驚き体が投げ出された。不思議なことに、衝撃は有れども一切の音が全く聞こえなかった。


 気が付くとそこは芝生の上で、無造作に寝かされていることに救出されたのだと思ったものの、サイレンの代わりに聞こえてきた不可解な会話に気絶した振りをした。


「使い物になるジョブが少なくないか?」

「仕方ないさ。こっちの世界に呼び込んでみない事には、恩恵が発現しないんだからな」

「使えない輩の処分も楽ではないんだがなぁ」


 他にも数人が歩き回っているようだが、近くには会話を続ける2人しかいないようだ。その2人が僕の脇にしゃがみ込み、右手を何か丸いものの上に乗せた。


「お、こいつアタリだ。魔法剣士(マジックナイト)解毒(リリーブ・ポイズン)のギフト持ちだぞ」

「解毒があるなら、麻痺ガスも効かないんじゃないか?」

「かもしれない。気絶しているだけなら早く移動させないと」


 直ぐに担架に乗せられて、個室のベッドに寝かされた。人の気配が消えてからそっと扉を開こうとしたが、カギがかけられていて開かない。窓も小さく出入りは不可能で、逃げ出すことは出来ないのだと悟らされた。


 どれくらい時間がたったのだろうか、窓から見える空が赤く染まり始めたころに白いローブを纏った男がやってきた。

 その男の話では、僕ら10人は救世主としてこの世界に召喚されたのだと知れた。もっとも、10人以上の人間がバスに乗っていたはずで、数に入ってはいない人たちのことが気になったわけだが、召喚されたのは10人のみで他は知らないと言われてしまった。

 そうこうする内に食事が運ばれてきて、併せて大きな水晶玉も運び込まれた。指示されるがまま手を翳せば、紙に何かを書きつけて驚いた表情を浮かべた。戦うに相応しい能力を与えられているのだと歓迎されたが、嘘くささが滲み出ていて素直に喜べない。


 それから2日間をその部屋で過ごし、連れて行かれた先は軍隊の訓練施設のような場所だった。聞くと王都にある軍の施設で、エリートしかここには立ち入れないのだと説明された。そこでやっと他の召喚者に会うことが出来たが、見知った顔など居る筈もなく、僕も含め皆が軍服っぽい物を着ていることから違和感しか湧かなかった。

 僕らの役目は侵略してくる魔族や魔物を駆逐することなのだとお偉いさんが言っていて、男子の一部は「異世界ハーレム」だの「宝剣を寄こせ」だのとはしゃいでいる。それとなく見れば、壁際に立つ兵隊たちの目に歓迎の意思は見て取れない。


 訓練を開始して剣を振れば、ジョブやギフト、スキルなどの影響なのか違和感なく使いこなせる。自分のステータスが見て取れるなど、アニメなんかで見るフルダイブゲームの世界さながらなのだから、馬鹿な連中が羽目を外すのにさして時間は必要としなかった。

 訓練中には魔物を殺すこともした。オオカミやウサギの他に、緑色の小型の人型モンスターも殺すこともあった。ゴブリンだと言われれば、確かにそんなモンスターがこういった世界にはよく雑魚として出てきたことを思い出す。


 そして、仕上げとして殺すことを強要されたのは人間だった。


 犯罪者なのだから構う事はない。殺さなければ殺されるぞ、と街へ連れ出されたものの、早朝なだけあって人ごみに紛れて逃げることもできない。結局は馬車に揺られて街を出ることになった。


 馬車の中で、冒険者の1人が日本人だと言い出した女がいた。同い年くらいの子はいたけれど、黒目黒髪ではなかったので目も腐ったのかと思った。休憩の時に付き添いの女性に問い質していたのは、言い出した女の他に男女2人も混じっていたけれど、笑われて終わりだった。


 それなのに、その男が件の女の子に夜這いをかけて、燃やされた。


 首から上は焼け爛れていて見るに堪えない。それを見せられて吐く子もいるし、NPCだとこちらの人間を下に見ていた男共も、肝が冷えたようで静かになった。


 そう、ここは異世界。

 今までの常識など通用しない、問答無用の世界なのだと改めて思い知らされた。




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