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これが私のステータス

 苦笑いを浮かべた私に思うところがあったのだろうが、彼女はそこには触れずに自己紹介から始めてくれた。


「私はナタリー・コンラッテリア。隣の森にあたるユートレッド森林の奥に住まう魔術師で、王宮からの召喚により王都に向かっているところだったの。ここはテスタ山の中腹で、王都から徒歩で二日くらいの場所になるかな。えっと、もしかするとセンバマユミは私に引っ張られてしまったのかもしれないのよ」


 彼女が言いにくそうに説明してくれた。

 今頃、王宮では勇者の召喚が行われているはずで、異世界から渡り人を強制的に呼び出すことで特別な力を付与して勇者に仕立てるそうだ。そうして呼ばれた勇者をある程度訓練した後、魔族との最前線に投入するらしい。国民の被害を最小限に抑えるため、他所から力ある者を呼びつけて肩代わりさせる。そんな風にぶっちゃけられると、何と答えてよいものなのか判断に困ってしまう。

 私のこの状況はと言えば、彼女が魔術によって移動したタイミングと私の召喚のタイミングがかち合ってしまったが故に、王宮ではなく此方に落ちてしまったのではないかとのことだった。


「過去、勇者として呼び出された渡り人は必ず複数人がまとまって呼ばれていてね、乗り物に乗っていたり同じ部屋に居たりするらしいの。だから、そこから零れてしまったセンバマユミを引っかけてしまったんではないかと……」

「真由美、で良いですよ。実は私、乗り物に轢かれそうになっていたんです。もしかすると、その乗り物に乗っていた人に巻き込まれたのかもしれません。それで、特別な力って私にも有るものなんでしょうか。こっちで生きて行けるだけの何かを、貰えているのでしょうか」


 元の世界に戻ったとしても、待っているのは孤独だけだ。

 両親を早くに亡くして祖母に育てられた私だったけれど、その祖母も高校の入学を控えたこの冬に亡くなってしまっていた。その後は親類が相続したと言って家に乗り込んできて、入学した高校には通わせてもらっていたけれど、完全に邪魔者扱いの居候だった。私は容姿のせいで小学校から虐めが続いていて、高校に入っても尾を引いていることもあって、2ヵ月経たず既に挫けてしまっていた。

 詳しく教えてもらえなかったけれど父は外国人だったらしく、私の瞳は翠が強くて髪は栗色をしている。彫も日本人にしては深いほうなので、特段目に付く容姿だったのだろう。そのうえ両親がいないとくれば、さぞや虐めの対象にしやすかったのだと思う。

 目の前にいるナタリーさんは色白で欧米人並みに彫が深く赤毛に蒼い瞳で、此方の標準的な容姿だとすれば私の容姿もそれほど浮かないのではと思う。だったら、無理して戻る必要なんてどこにもない。


「ステータス・オープン、って唱えてもらえるかな。もし、視界に文字が浮かんだのなら召喚者の可能性がとても高いの。此方の者や渡り人の一部は唱えても何も見えず、スキルを確認するには神殿に行く必要があるわ」

「ステータス・オープン」


 《仙波真由美》

 【種 族】 人族(渡り人)

 【ジョブ】 錬金術師(アルケミスト)狙撃名手(シャープシューター)

 【ギフト】 能力隠遁(ステータス・フェイク)

 【スキル】 真贋、創製、遠見、速射、必中、収納

 【魔特性】 火・水・土・無


 言われるがまま唱えてみれば、視界の端に文字が浮かび上がる。これが多いのか少ないのか分りもしないので上から順に声に出せば、ナタリーさんは目を見開いて口をパクパクしている。どうやら普通とは言い難いようだった。


「えっと、何処から突っ込もうかしら。まずはジョブだけど、これは身体能力から求められる最適解の職業を示していて普通は一つしかないものなの。ましてや錬金術師(アルケミスト)魔術師(ソーサラー)の更に上位職だし、狙撃名手(シャープシューター)弓名手(アーチャー)の上位職よ。どちらかひとつだって稀なのに、ふたつもなんて在り得ない事だわ。ギフトが有るってことは渡り人である証だけど、それを隠す能力って聞いたこともないし。スキルは有るだけで熟練度が桁違いに高くなるものよ。最後の魔特性は使える魔法の特性だけれど、こればっかりは練習してみないと何とも言えないわね。もっとも最低限の能力だったとしても、冒険者に成るなら有利に働くでしょう」

「普通でないのはなんとなくわかりました。で冒険者って言うのは、ギルドに登録して魔物を狩ったりする職業の事ですか」

「えぇ、そうよ。資金もコネもない者が流れ着く職が冒険者。それさえ務まらない者は、スラムに流れて犯罪者に落ちるくらいしか道がない感じかな。マユミの選べる選択肢のひとつよ」

「ほかの選択肢は?」

「王宮に名乗り出て勇者の一角を担う事もできなくはないの。おすすめはしないけれどね。あとは工房を構えるって選択も無きにも有らずだけれど……」

「問題でも?」

「その能力如何によっては、まず間違いなく国に監視される。最悪は城に監禁なんて事もあるかもね」


 前線に送り出されて戦うだけの日々になるのも冒険者と変わらないように思うけれど、生殺与奪を国に握られてしまうのは好ましいことではない。冒険者として細々と生きていくなら、危険度も最前線よりは遥かに低いだろうと想像がつく以上、選択肢には成り得ない。

 着る物を何とかして、こちらの人間としてギルドに登録してしまうのが今の最適解だろう。

 自分で材料を集めてきて錬成すれば足も付きにくいだろうから。




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