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気安い先輩冒険者

 こちらの世界にある魔術は、より鮮明なイメージが必要と言われている。もっとも、完成形のイメージをよりしっかりと言うことで、原理云々は重要視されはしない。私はあちらの世界で少なからず科学的な知識を得てきているので、こちらの魔術師よりも精度の高い事象を起こせるようだ。

 例えば、飲み水はミネラル分が入って美味しくなるし、青い火が出せるので火力を上げられる。分子結合なんて漠然とした知識も有るので、私が錬成した矢は加工精度が高いうえに考えられないほど強固だ。

 逆に不得手なこともあって、最たるものが攻撃魔法だった。ファイヤーボールを掌に出すことは出来ても、それが目標に向かって飛んでゆくイメージができないのだ。『初速を生むために投げるか?』とか思ってやってみたけれど、無意識に重力とかを意識しているようで放物線を描いてしまう。解決策が(やじり)に付与することだったけれど、これがまた他でやっている話をとんと聞かない。

 ナタリーさんに「難儀だねぇ」なんて言われてしまったけれど、だからこそジョブが錬金術師(アルケミスト)だったのだと妙に納得してしまった。


 盗賊の討伐依頼を受けた日、Eランクをスキップして仮のDランクに認定されて引き合わされたのは、Bランク冒険者のアスターシャさんだった。アスターシャさんは三十代後半の女剣士で、二十年以上のベテランだそうだ。


「おや、ずいぶん可愛いお嬢さんじゃないか。嫌いじゃないよ、その気の強そうな視線はさ。まぁ、適当に宜しくしようじゃないか」

「こちらこそよろしくお願いします。なにしろ、右も左も拙い新人なものですから」

「そうかいそうかい。それじゃ景気付けに1杯付き合ってもらおうか」


 こちらでは15歳になれば大人として独り立ちする。無料で1度だけステータスを見てもらえるのも15歳の春で、仕事に付けばお酒を飲むのも誰も止めはしない。

 あちらでは祖母が梅酒を作っていてよく飲んでいたこともあって、たまに水で薄めたものを飲ませてもらっていた。もちろん法に触れるのは知っていたけれど、コップにチョットを舐めるように飲んで、どちらかと言えば祖母のお付き合いだ。

 こちらに来てからナタリーにも勧められて、少し飲むことも覚えた。


「ユーミだっけ? 奢ってあげるから好きなのたのみな。私はエールとステーキ」

「チーズにベーコンと白パン、あと白ワインをグラスに半分お願いします」

「半分なんてケチ臭い事言わなくていいのに」


 笑って誤魔化しつつ引き合わされた経緯を聞いてみると、もともと私の稼ぎが多すぎると噂になっていて、ソロだったこともあって注目されていたらしい。そこに【月の雫(ムーンドロップス)】が調査同行を名乗り出たので心配をしていたそうだ。

 彼女らは思った通りの(やから)で、下の者には高飛車に接し格上の者には従順な振りをする。特に異性へのアピール度合が看過できないほどで、同性冒険者には受けが悪いらしい。

 頼んだ物が揃ったところで「乾杯」ってなるが、ちょっと待ってもらって魔術を使う。ワインのグラスに炭酸水を錬成して注いで薄めるのだ。大気中から水と二酸化炭素を取り出すだけなのでわけはない。飽和水蒸気量とか蒸留を意識してしまうからか、出来上がった炭酸水は程よく冷えている。お酒に強くない者向けにワインの水割りが普通にメニューに載るこちらで、私でも飲めるものとして考えたものだ。


「なんだいそりゃ。変わった飲みかたするね。水? いや、泡が出ているねぇ」

「そんなに飲めないので。水割りも普通に頼めるのですけど、温いんですよね」

「へー。私にも作ってくんない」

「いいですけど、まずは乾杯しましょう」


 乾杯して食べ始めれば、あっと言う間にエールを空けてしまってワインを頼んで差し出すので、炭酸水を注いであげた。殊のほか気に入ってくれたようで、そのあともう1杯作ってあげた。


 今回の討伐は野宿で5日を想定しているそうだ。それも踏まえ7日分の食料を用意することや、ポーションと毒消しなどの準備、私の場合は多めに矢を用意しておくなどのアドバイスをいただいた。ちなみにアスターシャさんの所属するパーティー【銀翼の剣(サルべーションソード)】も同行し、昇級を目指す11人の面倒を見ると教えてもらった。

 【銀翼の剣(サルべーションソード)】はリーダーで魔術師のジーク、盾使いの重戦士ボーズ、剣士のカイル、回復役のソランにアスターシャを含めた5人組だと聞かされた。PT名の由来は救済の剣らしいけれど、古語をあてる際に救済神の象徴である銀翼を用いたそうだ。そう言った感性は私なんかには理解しにくい。


 酒場で別れてたっぷり睡眠をとり、昼過ぎから店を回って野宿に必要な物を買って回った。今回はギルドで荷馬車を用意してもらえるので、荷の重さに気をつかう必要は無いものの、今後を考えれば嵩張るのも好ましくないそうだ。水は用意してもらえるそうだけれど、食料は個人で用意するように言われている。食べる量が違うからか、試されているのかは分からない。基本は日持ちする黒パンに干し肉、乾燥野菜に塩だそうだ。焚火が許される場合は個々でスープくらいは作るのだろうと、材料からは推測できる。

 明日早朝の出発に向け、食材の購入のみに抑える。テントや寝袋は嵩張るので排除し、その分厚手のマントを一枚追加で持って行くことにする。食材は基本と言われたものの他に炒ったナッツを多めに用意した。ナッツはカロリーも高く腹持ちも良いので、行動食や非常食に良いし日持ちもすると教わったのだ。




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