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晴れる疑いとランクアップの試練

 オークロードを倒したことで経験値が大きく伸びて、早々とレベルが2桁に乗った。


 《仙波真由美》(仮名:ユーミ) Lv10(3862/5767)

 【種 族】 人族(渡り人)

 【ジョブ】 錬金術師(アルケミスト) Lv3

       狙撃名手(シャープシューター) Lv5

 【ギフト】 能力隠遁(ステータス・フェイク)

 【スキル】 真贋、創製、収納、整理、保存、付与

       貫通、遠見、速射、必中、探知、経穴、俊足、多重

 【魔特性】 火・水・土・無


 レベルアップで上がった能力故か、街まで走る速度が行きより早くて楽になった。結果、3人を大きく引き離して北門に到着したので、門番に3人への言伝を頼んで本店へと赴いた。


 日が沈むにはまだ早い時間なのも有って、冒険者ギルドの本店受付は閑古鳥(かんこどり)が鳴いていた。受付も半分が無人になっていて、カティアさんは受付には立っていなかった。仕方がないので会議室の予約とカティアさんの呼び出しをお願いした。


「あれ? 【月の雫(ムーンドロップス)】のメンバーはどうしたの?」

「付いて来られないので置いてきました。こっちに来てもらうように門番の方に言伝をお願いしてありますから、まずは査定の方をお願いします」


 会議室に入って魔石を取り出したところで鑑定係のヘイルさんが、肩で息をする【月の雫(ムーンドロップス)】メンバーを連れて入ってきた。黙って牙を取り出せばオークを狩ってきた事は察せられたようで、カティアさんに睨まれてしまった。


「オークロードの魔石と牙が混じっているな。お嬢ちゃんが出したって事は、致命傷を与えて権利が発生したって事か?」

「いえ、居ないものとして行動するようにと言われました。全てソロでの戦果です。詳細は同行なさった彼女たちが証言してくれると思いますよ、たぶん」


 彼女らの他に目撃者などいないのだから、自分たちも手を出したと言われてしまえばそれまでで、彼女たちのプライドの有りよう如何でどうにでもなる。

 もっとも、オークロードの件は別に証言してくれなくて良いと思っている。私が集めた魔石が横流し品だとかの疑惑が付きまとうのならば、他の街へ行ってもいいし国を出たってかまわない。ナタリーさんには申し訳ないと思うけれど、所詮は異邦人(ストレンジャー)であるのだからそれなりの付き合いが出来れば位と思っている。


「彼女が持ち込んだ魔石ですが、見る限りは今回のソロでの成果に間違いありません。彼女はその全てを弓矢で遠方から仕留めていましたが、その距離はこの目で見ても信じられないもので……」

「森の中で300m離れたゴブリンを一撃で沈めていました。多少の集団だろうが、こちらに気付かれる前に始末してしまうほどです」

「オークロードに放った矢は3本で、その全てを向こうが50m走り切る間に射て、その全てが急所を射抜いていました」


 同行者3人がそれぞれ正しく説明してくれたのだけれど、前に座る2人が果たして信じてくれるだろうか。そう思ったところで、ヘイルさんの視線が弓にあることに気付いた。

 彼の鑑定眼にはこの化合弓(コンパウンドボウ)はどのように映っているのだろうか、とっても興味が湧いてしまった。


「その弓はヘグィンバームの作か? 以前召喚された勇者が使ったという、特別な弓に酷似しているが」

「そうです。田舎で使っていたものが駄目になってきていたので、工房を訪ね歩いて行きついた先で譲り受けました。ヘグィンバームさんが勇者の使っていた弓を参考に、試行錯誤してきた集大成です」

「お嬢ちゃんは、勇者の縁者なのか?」

「両親は幼いころに亡くなっていて、猟師の伯父に育てられました。詳しく聞いたことはありませんが、先祖に勇者がいたとかは聞いたこともありません」

「嬢ちゃんのジョブは?」


 後ろに立つ3人をチラッと見て、ため息をひとつ吐いて届け出てあるものを答えた。


「ジョブは弓名人(アーチャー)で、スキルに遠見と必中に俊足があります。水の魔特性を持ちますが、コップに飲み水を出すくらいしかできません」


 じっと化合弓(コンパウンドボウ)を見ていたヘイルさんが、顔を上げて私の目をじっと見てくる。もしかすると私のスキルを覗き見ているのかもしれない。まぁ、偽装前を見られたとしても口外はしないだろうと思うだけの信用は有るので、とりとめて焦りなどは抱かなかった。

 見ていたのは2分ほどだろうか、1度ゆっくり目を瞑ると【月の雫(ムーンドロップス)】メンバーに退室を促した。


「ユーミは、人を殺すことについてどう思う」

「してはならない行為と思います」

「相手が盗賊などの犯罪者だったとしても?」

「人とは理性を持つ生き物です。己の欲求のままに他人から物や命や尊厳を奪うものは、もはや人とは言いません。それら獣は魔物同様、駆除すべき対象です。もっとも生きる術すら知らない子供ならば、酌量の余地はあるかもしれませんが」

「実際、犯罪者を殺したことは?」

「ありません。良くも悪くも、田舎とはそう言う所ですから」


 それまで黙って成り行きを見守っていたカティアさんだったけれど、ヘイルさんに促されて一旦部屋を出て行った。もっとも直ぐに戻ってきたので、ヘイルさんと2人きりで何かあったとかはなく、2人して黙って座っていただけだ。

 戻ってきたカティアさんがテーブルに置いたのは討伐依頼書。未だに読むのが苦手な私は、必然的に読み上げてもらう事になる。


「これはDランクに上がるために試験のようなものよ。Dランクに上がるためには犯罪者を躊躇(ためら)わずに殺せる事が条件となるの。護衛任務とかを受けられるランクで、いざ襲われた時に躊躇いがあっては被害が拡大するのでね。この依頼は犯罪者の討伐です」


 そう言って話し始めた依頼内容は、西の森に盗賊が根城を構えたことが分かり、その根城に奇襲をかけて盗賊を殲滅するものだった。盗賊の生死は問わず、ただ生かしておく場合は相応の拘束が義務付けられる。大抵の場合はアキレス腱を切ってしまうらしい。犯罪奴隷として売られた先で治癒されるそうだけれど、時間が経ってしまっては元通りにはならずに逃げることが出来ないそうだ。

 私には急いでランクを上げる必要は無いのだけれど、上がればそれだけ珍しい素材を手にすることもできるので、錬金術師(アルケミスト)のレベル上げには必要ともいえる。


「依頼は受けさせてもらいます。ソロで、というわけにはいかないのでしょ?」

「憲兵隊から五名、冒険者から15名が任に当たります。相手は30人ほどなので気を付けてください」


 こうしてまた、自由の効かない依頼を受けることになってしまった。




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