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力を見せつける

 いつもの事ながら、日の出と共に支度を済ませて朝食を取る。

 いつもと違うのは、空間収納(ストレージ)にしまうものが少ないことだ。


 襟付きの長袖ブラウスにスキニーパンツ、保護具代わりのレザーコルセットを巻き、編み上げのロンブーツは膝上までの物。防具は革の片胸当てと鉄心入りの小手を着け、腰に吊った矢筒の邪魔にならない腰丈のケープを羽織ってフードも被る。

 武器はヘグィンバームさんに組んでもらった化合弓(コンパウンドボウ)が主装備で、今日は魔法付与無しの矢を持ってきているが、専用サイズで錬成したものだ。矢筒に隠れるように短剣(マンゴーシュ)も吊っていて、こちらは近付かれた際の牽制用となる。

 ワンショルダーのバッグには水袋と昼食を入れ、解体用ナイフを吊ってある。魔石を運ぶのが主体なので小振りなバッグを使っている。機動性重視だ。

 相変わらず宿に物を置かないようにしているので、残りの持ち物は全て空間収納(ストレージ)に入っている。テントや寝袋、調理器具、食材にお金や服など。もう、そのまま夜逃げすることだってできる程の荷も準備できている状況だった。


 朝食を終えて北門支部の食堂を覗けば、同行してくれる【月の雫(ムーンドロップス)】メンバーがお茶を飲んでいた。


「おはようございます。今日はよろしくお願いします」

「おはよう。よろしくも何も、ウチ等はちゃんと狩りが出来ているかを見るだけだからね。よっぽどのことが起きない限り、手は出さないからいつも通りで」

「すぐ出られるなら行きましょうか」

「私たちは居ないものとして行動しなさいね」


 正直な感想を言い当てれば、「なんで私たちがこんな新人と!」って感じかな。それとも不正を暴いてやるって意気込んでいるのか。どちらにしても面倒くさいのが付いたなと思ったけれど、居ないものとして扱って良いのならば望みどおりに接してあげればいい。


 黙ってひとつ頭を下げて、そのままギルドを出ると北門までゆっくり歩いて移動する。門番に挨拶をしてギルドカードを提示し、森に向かう道から外れて平原を森に向かって走り出した。ここ最近のそれが通常ルートで、森の奥まで入る最短のルートでもあった。

 いきなり走り出した私に、それでもちゃんと付いて来られるのは流石だと思う。なにしろこのスピードで移動すると、同年代の冒険者は驚いた顔で道を譲ってくれるのだから。もっとも、スフィアさんは腰の長剣(シュートソード)がガチャガチャ五月蠅く鳴っているし、背負った手盾(バックラー)が重そうだ。マーリンさんは息遣いが荒いように感じ取れて、最後までついて来れるか不安がある。

 森の縁に着いたところで立ち止まって水を1口飲む。その間に彼女たちは追い付いて来て肩で息をしているのが見て取れる。私は慣れたもので、息を乱すことなく気配を探知しながら森へと進んだ。


 後ろの3人が殺気を漏らしているのが気になるけれど、魔物がそれを感知する前に仕留めてしまうので問題視はしない。森の中でも300mは余裕で射止められるので、見つけ次第サクサクと狩っては魔石を取り出してゆく。森に入って2時間で、亜種を含めてゴブリン18匹を屠っていた。今日最大の見せ場は九匹の集団に対して、相手が此方を視認する前にその半数以上を屠った事だろう。


「いつもこんな狩りをしているのか?」

「はい」

「ペース配分もあったもんじゃないが」

「ルーティーンです」

「あの距離を仕留めるなんて、どういった仕掛けが?」

「ステータスを明かせと?」

「いや、言わなくていい」

「殺気が漏れすぎですよ」

「「「……」」」


 向こうでも大勢見てきた種類の人たちなのだと、態度や会話で確証を得た。

 同じ価値観のグループを作り、その偏った価値観の中で優劣を作って上位に自分たち置き、下の者が伸びようとする行為の邪魔をする。まったくもって胸糞の悪い先輩たちだ。


 レベルが上がって、スキルに経穴が現れてから狩りは格段に楽になった。経穴はツボの事だけれど、要は急所が見えるようになったことで、一撃必中で倒せるようになっていた。それまで眼球を狙うことで倒していた魔物も、この急所に1撃射ることで仕損じることも無くなったし、背後からも射殺すことが出来た。


 だから、決定的なマウントを取ることにした。


 少しゴブリンの集団を迂回して森の奥に進むと、オークの生息地に足を踏み入れることになる。その中にはオークロードを中心とした7匹の群れがあって、時間のある時に行動をよく観察していた。

 今回の得物に定めて余計な戦闘を回避して群れに近づいていくと、【月の雫(ムーンドロップス)】メンバーが明らかに動揺し始めた。なにしろ、オーク自体がDランク以上を推奨とする魔物で、集団となればDランクパーティーによる討伐か、Cランクのソロでないと厳しいと言われている。そこにCランクパーティー以上推奨のオークロードがいるのだから、逃げ腰になっても可笑しくはない。

 気持ち距離を取ってくれたので遠慮なく群れに接近し、手前のオークから射殺してゆく。その距離250mから無造作に歩いて接近していくと、距離150mを割ったあたりでこちらの存在に気付いたようだが、既に5匹を仕留めているので楽勝だろう。

 走り寄ってくる2匹共に急所を晒しているので、先のオークを一撃で沈め、ロードには速射で3本の矢を急所に叩き込む。残り距離50mを残して倒れこんだロードに、ためらいもなくナイフを突き刺して魔石の回収を始めた。


 オークは肉と牙が買い取り対象だけれど、肉は諦めざるを得ないだろう。ソロで来ていれば空間収納(ストレージ)に放り込んでおく事もできるけれど、さすがに彼女らに知られるのは支障がある。

 バッグもいっぱいに成った事もあって、魔石と牙を回収しきったところで森から出るために歩き出した。


「ちょっと! あれはどうするの!」

「肉なら要りませんよ。持って帰れる術が無いですから。今日の狩りはこれで終わりですから、あとはお好きになさってください」


 打ち捨てられている魔物とは言え、格下が狩った獲物の一部でも拾おうものなら笑ってやろうと思っていたのに、唇をかみしめ耐えて付いて来たのには称賛を送ってあげよう。そう心の中で称賛を送りつつも、ニヤッとしてしまって怒りに油を注いでしまったかもしれない。




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