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Side ナタリー

 時は少し戻り、ナタリーが王宮に出向いた日のこと。


 ユーミと別れたナタリーは、その足で王宮へと向かい召喚状を門兵へと手渡した。すると、すぐさま騎士団の制服を纏った数人に拉致されるように、王宮に併設されている軍司令部のある建物に連れて行かれる。

 召喚された勇者と言えば聞こえも良いが、要は前線に投入する強制徴収した超人的な傭兵でしかない彼らは、召喚されて直ぐにこちらの兵舎に部屋を割り当てられていた。その教育係となるナタリーもこちらに部屋を与えられるのだと、騎士団の者に説明されながら建物内を案内されることになった。

 連れてこられた部屋には先客がおり、侯爵を賜っている今回の総責任者だそうだ。名は聞く必要もないのか、家名さえ教えてはもらえない。


「ナタリー・コンラッテリア、召喚状により参上いたしました」

「少し遅かったが、よく来てくれた。そなたの師が召喚には耐えられぬと言うのでな、推薦されたそなたに来てもらったのだ。要件は聞き及んでいるであろうが、先日の召喚により勇者を13名呼び出すことができた。この内、戦闘に適さないジョブを持った者3名は別任務を与えられるため北の砦に移されている」

「残った者の内、魔術の適性を持つジョブ持ちは何名いたのでしょうか」

「今回は少なく、2名が魔術師(ソーサラー)の、1名が司祭(プリースト)のジョブ持ちであった。珍しい所では怪盗(ファントムシーフ)聖騎士(ホーリーナイト)なども居ったが、こちらは騎士団預かりとする予定じゃ。今日の晩餐で顔合わせを行い、明日からよろしく頼むぞ」


 否はありえないので、与えられた部屋に案内された後は宿に戻って荷造りをし、最後だからとユーミと夕食を共にした。寂しくないのだろうかとも思ったけれど、強かな面も持ち合わせていそうなので再会を約束して別れた。

 宿舎に戻ればメイドが1人付き、身の回りの世話をしてくれることになった。もっとも、独りで森の中に住んでいる魔女が手伝って貰わねば出来ない事など、舞踏会のドレス姿くらいのものか。コルセットを絞める予定など無いので、精々お茶でも入れてもらおうか。


 晩餐には私の他に、前衛職の教育係なのだろう騎士団から3名の騎士が参加していた。教会関係者は選定が遅れているとかで、当面は私が3名の面倒を見ることになるらしい。

 勇者のメンツはどの子も若いというのが初見の感想だった。ユーミも若いけれど、ここに居る子らもそれほど変わらない年のようだ。教えがいのある子が生徒になりますようにと、思わず神に祈ってしまったのはここだけの秘密だ。


 翌朝、日の出とともに支度をして朝食を取る。昨日とは違うメイドが食事を持ってきてくれたので、それを食べて座学のための会議室に赴く。

 部屋には男子1名に女子2名が既に来ていて話し込んでいた。


「おはよう、諸君。今日から君らに魔術を教える事になったナタリーだ。まずは1人ずつ自己紹介をしてもらおうか」

「三枝幸奈です。魔術師(ソーサラー)のジョブ持ちで、火の属性に適性があります」


 右端に座っていた赤毛の女の子が先ずは声を上げた。


 《サエグサ ユキナ》

 【種 族】 人族(渡り人)

 【ジョブ】 魔術師(ソーサラー)

 【ギフト】 詠唱短縮(ショーテッド・シング)

 【スキル】 速射、連射、紅蓮

 【魔特性】 火


不貞腐れたような茶髪の男の子が続く。


「大石省吾。魔術師(ソーサラー)。火と風の属性持ち」


 《オオイシ ショウゴ》

 【種 族】 人族(渡り人)

 【ジョブ】 魔術師(ソーサラー)

 【ギフト】 精密(プレシジション)詠唱(・シンギング)

 【スキル】 爆裂、炎舞、

 【魔特性】 火、風


 最後の黒髪の子は、対照的に丁寧な感じで答えた。


「稲葉妙子と言います。ジョブは司祭(プリースト)らしいです。無属性っていうんですか? それを持っています」


 《イナバ タエコ》

 【種 族】 人族(渡り人)

 【ジョブ】 司祭(プリースト)

 【ギフト】 並行詠唱(パラレル・シング)

 【スキル】 降臨、広域、再生

 【魔特性】 無


 事前に聞き取っていたステータスの書かれた紙も渡されていて見比べ、各々が魔法について殆ど理解していないことが窺えた。ユーミもそうだったけれど、魔法の何たるかから教える必要があるだろう。


「重ねて問う。魔法とはなんだ」

「呪文を唱えて相手を吹っ飛ばすもんだろ」

「不思議な力?」

「ファンタジーの世界」


 私だって無詠唱くらいは出来るので、指先に火を灯してみせる。


「詠唱の有無は今は置いておくとして、体に籠った魔力を引き出してイメージした事象を起こすのが魔法だ。人を殺すことできれば癒すことも可能だ。生活を豊かにすることも出来る便利なものだが、適性のある者しか使うことができない。君らが担うのは人々に牙をむく魔獣の駆逐だ。離れた所から一撃で多くを屠り、前衛職をサポートする事をこれから学んでもらう」

「勉強なんてまっぴらなんだが? 簡単に使えるようにならねぇのかよ」

「使うには魔力を意識し、より明確なイメージを魔力に乗せられるかだ。私の知り合いの女の子はあっと言う間に使いこなせたが、はたして勇者として呼ばれたお前はどうだろうなぁ。出来なかろうが戦場に送られるだけだが、まぁ勝手にすればいいさ」


 タエコは私の言葉で怯えてしまったようだが、ほかの二人は堪えた様子もない。まぁ、初日から舐められない様にと高飛車に接しただけだから、これからジックリと躾けていこうか。




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