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受けた恩は他で返す

 矢の回収も忘れずに行い、2人の前を歩きながら森を抜けた。気配の感知はしていたものの、やはり森の中よりも草原に出てしまった方が気も安らぐ。ウサギでも狩れれば足しにしようと思いながら見渡したけれども、どうやら近づいてはくれないようだ。


「自己紹介がまだでしたね。名はユーミ、見ての通り弓使いです。昨日Fランクに上がったばかりで、無理しないことを条件にゴブリン狩りをアドバイザーのカティアさんに認めてもらったんです」

「あなたもカティアさんに付いてもらっているのね。私はモーリンと言います。アルテと組んで半年の冒険者です。長剣(ショートソード)で前衛なんですけどこの有様で」

「アルテイシアです。回復魔法と身体能力向上の補助魔法が使えます。モーリンとは同じ孤児院で育った仲で、少しでもお金を稼ぎたくて冒険者になったんですが、また暫くは街中の雑用になりそう」

「装備代の貯えが無いから?」


 あくまでも送るだけのつもりでいたのだけれど、孤児院出で苦労していると聞かされると身につまされるものがある。向こうでの環境もそうだけれど、こちらでも天涯孤独の私は、ナタリーさんに助けてもらっていなければ如何なっていたか分からないのだから。

 買ってある長剣(ロングソード)は錬金術の練習にでも使うつもりでいたけれど、格安でも構わないので譲ってしまおうと思った。ここでする話でもないので、ギルドで少し相談してみよう。


「やっと装備がそろってバンバン稼ぐぞって思っていたのにね、どうも見る目が無いのかハズレの剣だったみたいで」

「高品質の中古だから、中程度の品質以上の性能だって言われたんだ。けどいざ使ってみたら切れが悪くって、棍棒を受けたら折れちゃった」

「えっと、お店に騙されたんじゃないのかな。私の鑑定(みたて)だと、低品質の粗悪品だって結果よ。ギルドでも相談してみた方が良いんじゃないかな」


 王都での注意すべき場所や安くて美味しいお店などを聞きつつ、順調に王都までを歩き切った。裏を返せば、今日の稼ぎは魔石2個だけと言える。

 ギルドの本店にやって来ると、ちょうどカティアさんはカウンターで暇そうに欠伸を噛み殺していた。3人そろってカウンターに近づくと、ビックリしたのか目を見開いてしまう。


「少しお時間を頂いてもいいですか? できれば部屋を使わせていただきたいのですが」

「えぇ、大丈夫よ。3人一緒でいいのかしら」

「はい」


 登録の際に通された部屋を開けてもらい、ソファーに腰かけて出会った経緯を話す。

 そして話は件の長剣(ショートソード)に移り、装備を買いそろえた武具店がギルドおすすめの店で、若い店員に勧められるままに剣と軽鎧を買ったこと、剣の品質をぼかして説明されたが嘘っぽいことも説明した。


「ですがこの通り折れてしまっていますし、私の見立てでは低品質の長剣(ショートソード)だと言い切れます。この状態で正しい鑑定が出来ていないのかもしれませんが、命を懸ける冒険者に売っていい品ではなかったのではと思うのです。ですから、どうにかできないものかと」


 ナタリーさんは折れた片手剣を持って、「少し待っていてね」と言い残して部屋を出て行った。

 しばらくして男性を連れて戻ってきたナタリーさんは、鑑定部門の責任者だと男性を紹介してくれた。


「ヘイルだ。一応、ここの鑑定責任者をしている。で、訴え通りに品質の悪い剣だと俺の鑑定でもハッキリした。それで、買値はいくらだった?」

「買ったのは1ヵ月前ほどで、剣が銀貨8枚で軽鎧が銀貨4枚でした。アルテの(ワンド)は銀貨3枚だったよね」

「そうです。ギルドでもらった割引券も提示してその金額でした」

「3週間ほど慣らしを兼ねてグレイウルフを狩っていて、切れが悪いなって思っていたけど中古だしって思って」

「鎧の調整はしてもらったのか?」

「先に鎧を選んで調整中に剣を選んだので、鎧を勧めてくれた店員さんとは違う人に剣を選んでもらったんです」

「だろうな。鎧は妥当な金額だが、ワンドは若干高い。剣は言うべくもない。この件はギルドで預からして貰えないだろうか。返品代金は全額ギルドが先払いしよう」


 やはり詐欺まがいの行為があったとギルドでも判断したようだ。今お金を貰えるならばこの後装備を買いに行くことも可能だろうし、目利きとして付いて行くこともできるだろう。ただ、銀貨8枚で買える剣に命を預けることが良いかは別だ。

 モーリンもアルテも異存はないようで、頷きあって返事をするところで横やりを入れさせてもらった。


「ギルドおすすめのお店で被害が出たのですが、ギルドからの謝罪は無いのでしょうか。言っては何ですけど、私が居合わせなかったらこの2人、ゴブリンに殺されていましたよ」


 カティアさんにはゴブリン3匹と相対していたと話してあり、その状況下で剣も無しに生きて帰ることは無理だとわかってもらえるだろう。


「ギルドから2人にはそれぞれ、銀貨2枚を慰謝料として出させていただく。申し訳ないがこれ以上は難しいので、これで収めてもらえないだろうか。それと弓の嬢ちゃんには、救出依頼の報酬として銀貨一枚を、後で手続きさせてもらおうと思う」

「合わせてひとつお願いがあるのですが、この場で仲介をしていただけないでしょうか」


 突然の仲介依頼に、この場にいる4人は怪訝な症状を浮かべた。




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