第11話 ダンジョンの入口で
ダンジョンの前でミルク達が出てくるのを待つ間、ダンジョンから出てくる人たちの様子を伺っていると、たまに怪我をした人たちもいた。
「怪我をしてる人も多いですね。やっぱり、変異した魔物のせいですかね?」
「そうでしょうね。このダンジョンの低層で怪我をするような人は基本的に冒険者にならないわ。普通の魔物だったらね」
入門用ダンジョンに指定されているだけあって、このダンジョンはとにかくゆるゆるだ。通常であれば低層にはレベル10以下の魔物しか出ない。
初心者とは言え、冒険者になった者たちは最低限の戦闘能力はあるので、その人たちが怪我をするような凶悪な魔物は滅多に現れないのだ。
怪我人がそれなりに出てくると言う事は、間違いなく魔物が変異しているんだろう。死者が出ていなければいいけど。
「僕ちょっとダンジョンから出て来た怪我人の治療をしてきますね」
待ち時間で手持ち無沙汰という事もあり、ダンジョンから怪我をして出て来た人達を魔法で治療することにした。
思ったよりは重傷者は少ないみたいだ。やっぱり低レベルの魔物は変異してもそこまで強くならないのかな? とか思っていると、
「いやー、助かったよ。急に魔物が強くなって、もう駄目だと思ってたんだけどな。
どこからともなく、支援魔法なのー。って聞こえてきたと思ったら急に体が軽くなって、何とか逃げ出すことができたんだ。
一体、何だったんだろうな? 空耳ではないと思うんだが」
治療した冒険者がそんな話をしていた。どう考えてもミルクです。
通りすがったついでだとは思うけど、良い仕事してくれたみたいだ。
この後しばらくの間、ダンジョンから生還した冒険者の間で、支援魔法を使う謎の存在が噂になったとか、ならなかったとか……。それはまた別のお話だ。
しばらく治療をしていると、神殿関係者と思われる人たちが来て交代してくれた。ゼムスさんが冒険者ギルドに居る時に神殿に早馬を走らせていたから、それで指示を出したんだろう。
治療がひと段落したらジョージが話しかけてきた。
「治療が忙しそうだから黙ってみてたが、リョーマお前【回復魔法】まで使えるんだな。かなりのレベルで。
ホントに何でもありで羨ましいぞ」
「うん、【スキル早熟】ってスキルもあってね。大抵のスキルはサクサク覚えられて、サクサクレベルが上がるんだよ」
「勇者がどんなスキルを持ってるか分からないが、お前の方がよっぽどチートだと思うぞ」
ジョージがそう言うと、リーナさんまでウンウンと頷いて同意している。
うーん。そんな事はないと思うけどな。……ないよね? まあ、でも勇者が強くて手が付けられない状況になるよりはマシかな?
〈リョーマ! もう少しで出口なの。お待たせなの!〉
そんな事を考えていると、ミルクから【念話】が届いた。よかった、途中で(お菓子の)ピンチは有ったけど、無事に出て来たみたいだ。
「ミルクがそろそろ出てくるみたいね。どうする? ここはちょっと人が多いから、妖精やガルム隊が出てきたりすると、騒ぎになりかねないわよ」
確かにそうだ。今ここにはダンジョンが閉鎖されたことを知らずにやってくる冒険者や、ダンジョンから出て来た冒険者、ダンジョンを封鎖しているギルド職員に救助の準備をしている冒険者たち、更に治療に来た神殿関係者まで居る。
「そうですね。確かにここは目立ちますね。ダンジョンの中の広場で顔合わせしましょう」
〈ミルクお疲れ。こっちは今、人がいっぱいだからダンジョンの中で待ち合わせをしよう。
入口から近い行き止まりの広場分かるかな? そこに集合だ〉
そう【念話】を送ると共に【マップ】のイメージも送信する。
〈分かったの! そこなら後5分もあれば着くの〉
結構早いな。俺たちも急いで向かわないと。
救援隊がダンジョンに入る前にパパっと顔合わせだけして、出る時は透明化したらいい。役割分担して、リーナさんが王城に行くフォローをしてもらわないと。
「すみません、ダンジョンに入りたいんですが」
「ん? 何だいボク。ここは子供が女連れで遊びにくるところじゃないよ?」
ダンジョンに入ろうとしたら、止められてしまった。
冒険者ギルドでも結構顔が売れてると思ってたんだけど、うぬぼれてたみたいです。ごめんなさい。
最近忘れ気味だけど、見た目は7歳の子供だからね。
獣人の中には見た目がかなり若くても実は成人していて実力もある。みたいな人達もいるので、前の世界ほど見た目が全てって訳じゃ無いけど、それでもどうみても子供だから仕方ない。
「お、おい! その方達はいいんだ。お通ししろ!
すみませんリーナ様、リョーマさん。こいつ新人で……」
と、思ってたら別のギルド職員が慌ててやってきた。あ、新人さんだったんだね。それは仕方ない。
「いえ、こんな見た目ですからね。むしろちゃんと仕事されていてスゴイと思いますよ」
「あ、えっと、すみませんでした。それでは念のため、代表者だけでよろしいのでギルド証を確認させて頂けますか?」
そして更に自分の仕事をする新人さん。その仕事の姿勢は素晴らしいと思います。残念ながら、顔パスとはいかなかった。
「はい、これで良いですか?」
俺は先ほど更新された真新しいギルド証を見せる。
「見た事ない色のギルド証ですね……。
……えっ? え、Sランク!? し、失礼しました!」
Sランク冒険者のギルド証は見た事なかったみたいだけど、書いてある内容をみて思わず叫んでしまったみたいだ。その叫びを聞いて、周りもザワザワし始めた。
「おい、あのガキSランクらしいぞ」
「あんなガキが?」
「ああ、あの2人の見た目には騙されるなよ。何人も絡んで痛い目にあってるんだ……」
なんて聞こえてくる。スキル効果で耳が良いのも考え物かな? でもSランクの噂が広まってくれた方が、後々楽になりそうだから放置しておこう。
「リョーマさん、ついにSランクになったんですね。おめでとうございます」
先輩ギルド職員の人が祝福してくれる。
「ええ、ありがとうございます。先ほどSランクに昇格しました。
それでは入っていいですかね?」
「はい、失礼しました。お気をつけて!」
俺たちは2人のギルド職員に見送られながらダンジョンに入るのだった。
しれっと冒険者登録もしてないジョージが一緒だけど、危険はないから、まあいっか。
誤字報告いつもありがとうございます!




