第6話 王都へ
「うわぁぁぁぁぁぁー! さっきより早いいいぃぃぃ! 落ちるぅぅぅぅ!」
俺は今、ジョージの絶叫と共に空を飛んでいる。確かに急いでるけど、ちょっと叫び過ぎじゃないかな?
向かう先はもちろん王都。リーナさんから【念話】が届いたからだ。詳しくは聞けていないが、事件発生と言われたら戻らない訳にはいかない。
1人で急いで王都に向かおうと思ったら、異邦人の所に行くと聞いたジョージが俺も連れて行って欲しいと言ってきたので、この状況である。
「ジョージ大丈夫だよ。落とす事はないから安心して! 多分 (ボソッ)」
「今、多分って言ったぁぁぁ! 凄く小さな声で多分って言ったぁぁぁぁ!」
あ、聞こえてたのか。凄く小さな声で言ったのに。
「分かった。分かった。絶対落とさないから安心して!」
「ほ、ホントか? 絶対だぞ! 絶対落とすなよ!?」
「え? それは芸人さんの振りみたいな?」
懐かしいな。前世ではお笑い番組をいつも楽しくみていた。
「いやいやいやいや、振りじゃない! 振りじゃないから!」
そんな感じで1時間前後飛ぶと、眼下に王都の街並みが一望できるところまで来た。
「リョーマ、俺たち今は透明なんだよな?」
「うん。人間が飛んでたら目立つでしょ? 某王女様みたいに二つ名を付けられてもたまらないし」
「な、なるほど。飛行姫とかイヤだしな。
しかし透明で空を飛べるとか、お前ステルス戦闘機だな。
空から魔法で空爆とかしたら、1人で王都を破壊できるんじゃないか?」
え? 飛行姫ってカッコいいのに、ジョージは何を言ってるんだろう。
けど、そう言われると確かに人間ステルス爆撃機とか、できなくはなさそうな気がする。
「いや、やらないよ」
「できない、じゃなくて、やらないなんだな……。リョーマ、恐ろしい子っ」
「なーんて、王城は結界が張られてるから無理だけどね。多分 (ボソッ)」
一般的に知られていないけど、王城には結界が張られている。俺は探知系スキルのレベルが高いので、たまたまその事に気付いたんだけどね。
外部からの攻撃魔法を弾くタイプのもので。物理的な攻撃を防ぐものではなさそうだ。
「え? 王城って結界が張られてるのか? そしてまた多分って言ったか? もしかしたら結界も壊せるのか!?」
「まあ、そこはやってみないと分からないけど、やる訳にはいかないって事で。
さて、このまま目的地の屋敷まで行っちゃうね。門で並んでたら入れるのいつになるか分からないし」
ちなみに、ダイダの街も門を通らずに飛んで出て来た。まあ、事件発生だし仕方ないよね!
「そう言えば、ちゃんと聞いてなかったけどどこに向かってるんだ?」
あれ、説明してなかったっけな?
「ゼムス神官長の屋敷だよ」
リーナさんの屋敷に集まる訳にもいかないので、何かあった時はゼムスさんの屋敷に集まる事にしている。
「え? 神官長? 王都の神殿で一番偉い人?」
「そう、ゼムス神官長も異邦人なんだ」
正確には神官長は巫女と同列に扱われる。当然、王都の神殿にも巫女様は居るのでどちらが偉いと言うのはない。
「そ、そうなのか……。今日は色々あり過ぎて頭がパンクしそうだぜ」
そんな話をしながら、透明化を解きつつゼムスさんの屋敷の庭に着地する。
高めの塀に囲まれているので、外から見られる事もない。
着くとすぐに、俺の気配を察知したミルクが飛び出してきた。
「リョーマ! 待っていたのっ!」
「ミルク、大丈夫かい? 何か事件発生だって?」
「えっ! 妖精?」
ミルクをみて咄嗟にジョージは身構える。そうだよね。一応妖精は魔物のカテゴリだった。
「大丈夫だよ。この子がさっきジョージの部屋で話をしていたダンジョンから出て来た従魔だよ」
「ミルクはミルクなの。よろしくなの。
貴方の事は知ってるの。リョーマの友達のジョージなの」
ミルクは自己紹介をして、かわいくお辞儀をする。
「あ、ああ。俺はジョージ。よろしく? けど、なんで俺の名前を知ってるんだ?」
「実はミルクは学園の寮に住んでるんだよ。たまに授業とかも覗いてるらしい。
さっき使ってた透明化の魔法もミルクに教えて貰ったんだ」
「マジか……全く気付かなかったぜ」
ジョージに気付かれるようなら、戦闘系の教師とかにも気付かれちゃうかもだからね。その辺りは抜かりないよ。
屋敷の方を見ると、丁度リーナさんが、その後ろからゼムスさんが出てきた。
「もう、ミルク。さっさと出て行かないでっ!
お疲れリョーマ。早かったのね」
「いえ、お待たせしました。事件と聞いて飛ばして来ました」
「それと、さっき【念話】で少し聞いたけど、そのジョージ君ね。……4人目」
「え、えっと、こうして挨拶をさせて頂くのは初めてになります。
リョーマの友人をやっています、ジョージと申します! コードネームは暴食です」
リーナさんを見たジョージが、普段見ないくらい真面目に挨拶を始めた。普段が普段だけに違和感半端ない。
「私は貴方がリョーマと一緒にいるところをよく見てたから、初めてって感じではないんだけどね。
後、同じ異邦人なんだからそんなに畏まらなくていいわよ。リョーマと話をするような感じで話してくれて構わないわ」
「いやいや、それは無理です。年上ですし、せめてリョーマと同じくらいの丁寧語で話させて下さい」
「まあそれでいいわ。よろしくね。
じゃあ、ジョージ君の話は後にして、さっそく本題に入りましょう」
「待て待て。こんなところで立ち話もなんじゃろう? 屋敷に入るといい」
早速話を始めようとしたリーナさんをゼムスさんが止める。
たまにみんなで集まって内密の話をする為に、ゼムスさんは屋敷の部屋を1つ提供してくれているので、今回もとりあえずその部屋に向かう。
「ゼムスさん、お邪魔します」
そう言いながら屋敷に入ると、執事服に身を包んだ鈴木さんが出迎えてくれた。
「いらっしゃいリョーマ君。待ってたよ」
実はこの1年、鈴木さんはゼムスさんの屋敷で執事として働いている。ゼムスさんは客人として持て成すと言っていたけど、鈴木さんがそれだと悪いからと働かせてもらう事にしたそうだ。
いつもの部屋に入ると、手慣れた手つきで鈴木さんがお茶を入れてくれた後、同じテーブルに座る。
「さて、どんな事件が発生したのかな? ミルク教えてくれる?」
「もちろんなの! 多分みんなにも関係のある話なの!
それじゃ話すの!」




