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第3話 緊急依頼

 部屋のドアがノックされる。


「はーい。どうぞ」


 ジョージがそう言うと、ドアが開きメイドさんが入ってきた。可愛いお姉さん……ではなく、中年のおば様だ。


 部屋に入ると丁寧なお辞儀をする。


「ご歓談中失礼します。

 ジョージ坊ちゃん、旦那様がお呼びです」


「親父が? 何だろう。また選択を悩んでいて俺に選ばせる気かな?

 すまないリョーマ。ちょっと席外すな」


 ジョージの父親には昨日挨拶をした。なんて言うか、恰幅が良くて、ヒゲを蓄えている。そこまでは成功した商人って感じだった。しかし、残念なことに頭が……。うん。きっと苦労したんだろう。ジョージの将来もちょっと不安だ。


「申し訳ありません。リョーマ様もご同行をお願いしますとの事です」


「え? 僕もですか?」


 てっきりジョージだけ呼ばれたのかと思ったら、俺も一緒にとの事だった。何だろう? 新しい商売の話とかしたいのかな?



 俺とジョージはメイドさんに連れられて執務室と思われる部屋に案内された。メイドさんがノックすると、中から「入ってくれ」と声が聞こえる。


「失礼します。旦那様、坊ちゃんとご客人をお連れしました」


「親父おはよう」


「失礼します。おはようございます」


 俺とジョージも部屋に入りながら挨拶をする。


「ああ、おはよう。よく来てくれたな」


 挨拶を返したジョージの父親の頭は窓から差し込む朝日が丁度頭に当たり、綺麗に輝いていた。大きな商会の頭取と言う事で、立派な服を着て真面目な顔でこちらを見ているのに、つい笑いが込み上げそうになるのを必死に堪える。人の身体的特徴で笑っちゃいけないって分かってはいるんだけど、この正直な7歳の体が恨めしい。


 ふと横を見るとジョージも必死に笑いを堪えていた。いや、キミの実の父でしょ。笑っちゃダメだよ。


「来てもらって直ぐで申し訳ないんだが、早速本題に入らせてもらっていいかな?」


「ああ、親父何があったんだ?」


 変わり身の早いジョージはさっきの笑い顔はどこへ行ったのか真面目な顔になり聞き返す。器用だな。


「ついさっき、早馬が届いた。うちの商会の農場に魔物が現れたそうだ」


「何だって!? それってミベの村の?」


「ああ、雇っている護衛では対応しきれず早馬を走らせたそうだが、今から冒険者ギルドへ依頼を持って行っても時間がかかる。一応街の門番にも伝えたようだが、兵隊を街の外に派遣しようと思うともっと時間がかかる」


 ジョージの父親は、そう言いながら俺の方をみる。この流れはきっと……。


「リョーマ君。昨日の話だと君はその歳でAランクの冒険者だとか。

 無理を承知でお願いしたい。依頼の処理は後付けになってしまうけど、農場に現れたという魔物を退治してくれないだろうか?

 もちろん、指名依頼として報酬も弾ませてもらう」


 ですよね。でも、まあ断る理由もないかな。


「ええ、僕で良ければ手伝わせて下さい。けど、そのミベの村と言うのは?」


「この街から南に10キロほど行ったところにある村だよ。最近ではお前にお菓子を作ってもらう為の牛乳とかもそこで作ってるんだ。俺が案内するから、すぐに行こうぜ!」


 ジョージが案内してくれるんだったら話が早い。すぐに出かけよう。


「分かった。ジョージ案内頼むよ。それでは言って来ます」


「親父、行ってくる。大丈夫、俺のスキルでも俺とリョーマが行くのが最適と出ている。心配はいらない」


「うーん、そうか、二人とも気を付けて行ってくるんだ。特にジョージは足を引っ張るなよ」


 ジョージの父親は、ジョージを信頼しているのかジョージのスキルを信頼しているのか、少し悩んだがジョージの案内を止める事はなく、送り出してくれた。あ、報酬の交渉とかしてないけど……ま、いっか。



 ☆



「うわあぁぁぁぁぁ!!」


 俺とジョージは今、空を飛んでいた。ジョージの実家から飛び出した後、そのままジョージを抱えて文字通り空に(・・)飛び出したのだ。もちろん、周りから見えないように魔法で透明になる事は忘れない。


 実はこの1年でリーナさんの飛行魔法に近い魔法をマスターした。残念ながら【魔法創造】スキルは習得できていないけど、【魔法改変】スキルを駆使して『浮遊』の魔法を改造したんだ。


「と、と、と、飛ぶなんて聞いてないぞぉぉぉ!」


 ジョージが何か叫んでる。うん、言ってないからね。さすがに急に時速50キロ以上で飛んだらこうなるよね。


「今は一刻を争うんでしょ? 僕の移動手段の中でこれが一番早いんだよ。

 で、方向はこっちであってる?」


「あ、あってるぞ。そのまま真っすぐだ。このペースなら10分もかからないな……。

 リョーマお前、どこまで非常識なんだよ!」


 そう言われるのに最近慣れてきたよ。そんな感じでやり取りをしている間に、街道から少し外れた場所に小さな集落が見えてきた。その周りは広く柵で覆われていて、如何にも牧場といった感じになっている。


「ジョージ、あそこかな?」


 そう言いながら俺は探知系のスキルを最大距離で発動する。【サポーター】さん解析を!


《解析します……。魔物を探知しました。キラーアント系の変異種と思われる魔物が10体ほど確認できます。

 護衛が何とか家畜を逃がしながら耐えているようですが、防戦一方です》


 キラーアントか。キラーアントとは読んで字の如く、殺人蟻だ。最大で体長50センチほどになり、通常は単体でランクD程度、集団で現れるとランクC~B程度になる。大きな商会の農場を護衛している人たちがそこまで弱いとも思えないから、変異種との事で最低でもそれ以上の脅威度の魔物だろう。


「魔物を発見した。ツッコむよ!」


「え、ちょ! このまま!? せめて俺は離れた場所に……」


───ドーーン!


 ジョージの言葉は無視して、護衛とキラーアントの間に盛大に着地する。キラーアントをこちらに引きつける意味でも大きな音を立てて着地した。


 土煙に覆われている間にジョージを投げ捨て、【収納】から剣を取り出して構えて、透明化を解除する。キラーアントも何が起きたか分からず、様子を伺っているようだ。空気を読める魔物で助かる。


 そして土煙が晴れると同時に、呆然と立ち尽くしている護衛の人に言った。


「お待たせしました。ワトソン商会の依頼で助けにきました!」

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