第14話 自称神様
赤い光が俺を包み込む。眩しい光に目を開けて居られず、思わず目を閉じる。
その瞬間、俺を謎の浮遊感が襲った。
それと同時に、光を全く感じなくなる。普通は目をつぶっていても、多少明るさの変化は分かるものだ。
その事に疑問を感じ、直ぐに目を開ける。……が、目を開けても辺りは真っ黒だった。
「えっ!?」
思わず声が出たが、何も見えない。余りの眩しさに目がおかしくなったのかとも思ったけど、目に違和感はないから、多分大丈夫。本当に目の前が真っ黒なんじゃないかと思える。だけど、ここまで深淵が広る光景は初めてだ。
「やあ、ようこそボクの世界へ」
不意に、後ろから声が聞こえる。俺は慌てて振り向いた。
「いやぁ、キミをここに招待するのは本当に苦労したよ」
振り向いた先に居たのは、中性的な見た目の人物だった。目の上まで伸びた黒い前髪。着ている服も真っ黒だ。真っ暗な場所の筈なのに、その人物だけはスポットライトでも当てたかの様に浮かび上がっている。
「忌まわしき女神たちの加護に守られているお陰で、全然コンタクトを取れなかったけど、#ボクの__・__#ダンジョンに入って来てくれて良かった。お陰でコチラから仕掛けることができたよ」
この人は一体何を言ってるんだろう? いや、何となくは理解できる。こいつは多分……
「ああ、初めまして。お察しの通り、ボクは自称神様だよ」
やっぱりか。多分、師匠の話にあった人だ。
「師匠? うーん。
あ、コードネーム傲慢の子だね。そう、その通り。あの子はキミに話しちゃったのか」
まあ、師匠は俺を仲間だと早合点して、勘違いしただけだけど。
それにしても、またさも当然のように心を読まれた。もうそれくらいでは驚かないけど。
「あははっ、7人の仲間だと勘違いしたのか。なるほどね。
さて、時間もないからサッサと本題に入らせてもらうよ? キミをこの空間に繋ぎ止めるのはとても大変なんだ」
そう言うと俺の返事を待たず、話を続ける。さて、どんな話が飛び出すか……。
「まず、キミの望みだけど……。従魔に会いたいんだよね? 犬っころの従魔」
「!? ポ、ポチの事!?」
予想を遥かに超える話に俺は驚愕する。何故、この人? 神様? はそんな事を知ってるんだ!
「ふふふ、動揺してるみたいだね。驚いてくれるとボクも嬉しいよ。
さて、何故知ってるかって? それはね……」
「それは……?」
「秘密だよ」
「なっ!?」
やっとポチの手掛かりが掴めるかと思ったのに……。いや、こうなったら力尽くで……。
「ああ、暴力に訴えても無理だよ。そもそもここはボクの精神世界だからね。何もできないよ。
後、ボクも意地悪で秘密にしている訳じゃないよ。言える事と言えない事がある、不便なんだ。言いたくても言えないこともあるんだよ」
うーん。上手くはぐらかされてる気がしなくもないし、納得は行かないけど、力尽くで聞き出すこともできないなら、どうしようもないな……。でも、じゃあ何故ここに俺を呼んだんだ。
「そう、本題に入るんだったね。
実はね、キミにお願いしたい事があってここに来てもらったんだ」
お願い……。絶対ロクでもない事な気がするぞ。
「ふふ、そう構えなくていいよ。簡単な事だよ」
「簡単? 何でしょう?」
「ボクが準備した7人が、これからやろうとする事。それの邪魔をしないで欲しいんだ。それだけ。簡単でしょ?」
何かをしろ。じゃなく、するな。文面だけを捉えたら、確かに簡単だ。
「何故そもそも僕が邪魔をすると? それに、僕に何か利点でも?」
「うんうん、ごもっともな疑問だね。でもボクが言える事はただ1つ。
ポチ君に会いたいのなら、7人の邪魔はしないでね。それだけだよ」
7人の邪魔をしない事と、俺がポチに会える事。何の関係があると言うんだろう……。
「ふふふ、悩んでるね。若い内は大いに悩むといいよ」
いや、その台詞はこう言う時に使う言葉ではないと思うけど。
「んー。じゃあ、大サービスだ。1つだけ教えて上げよう。
ボクはとある場所に閉じ込められているんだ。そして、ポチ君もその場所に居る。おっと、これ以上は禁則事項にあたりそうだ」
なるほど! 今まで点と点だった情報がちょっと繋がって来た気がするぞ。
この自称神様は、女神様が言っていた封印された古代ダンジョンと言う場所に閉じ込められているんだろう。ポチもそこにいる可能性が非常に高いとの事だったし。
だけど、女神様はこうも言っていた「何が封印されているかは聞かないで下さい」と。つまり、その何かがこの自称神様である可能性がかなり高い。そして7人の転生者・転移者を使って、その封印を解かせようとしているんだろう。
「あはははっ! いいね、キミいいよ。中々に頭がいい! 正解かどうかまでは教えることができないけどね」
けど、そうなると非常に厄介な話になってくるな。確かにポチに会いたければ、7人の邪魔をしないで封印が解かれるのを待てばいい。全員揃うまで2~3年って話だったから、そこから封印解除にまた数年かかるとしても、俺が学園を卒業するまでには封印が解かれる可能性は高い。
しかし、この自称神様がなぜ封印されていたのか、それによっては話が変わってくる。もし、世界に災厄をもたらす存在だったとしたら……?
「うーん。キミは心配性だね。大丈夫、キミは7人がやることを見守っていたらいいんだよ。邪魔はしないとここで誓ってくれたらイイ。
封印が解けたらポチ君とも会えるかも知れないよ?」
会えると断言はしてくれないのか。と言うか、サラッと封印って言っちゃってるし。
ポチに関して、何もアテのなかった今までに比べると、大きく前進したのは事実だ。でも、俺の結論は……
「今ここで、絶対に邪魔をしないと誓うことはできません。だけど、色々と情報をくれた事には感謝します」
「チッ……。うん。まあ、今回はソレでいいよ。そろそろ維持が厳しいから、これ以上説得できないしね。また力が貯まったら呼ぶよ」
自称神様がそう言うと、また俺の体が赤い光に包まれていく。
「……でも、腹いせに少し嫌がらせさせてもらおっと」
そんな不安を掻き立てるような自称神様の言葉と共に、またこの空間にきたときと同じ様な浮遊間に襲われる。
次の瞬間、俺はダンジョンに戻っていた。
だけど、最初に居た1階層の階層主の部屋では無さそうだ。……ここはどこだろう。




