第11話 入学
学力テストから2週間、いよいよ入学式の日がやってきた。この学園では保護者の参加はないらしい。ちょっと寂しい感じもするけど、遠い都市から入学する人もいる事から参加できない保護者も多く、平等性を持たせて新入生と教師、そして来賓のみで実施するスタイルになったそうだ。
ちなみに、実力テストの日は俺が新しいスキルを取得して師匠の話が上の空になった事から、話の続きはまた後日と言うことになって解散した。
年末年始を挟んだ事もあり、あの後まだ師匠とは話が出来ていない。去年はエナンの街に遠征してた師匠だが、今年は王都で色々と用事があるらしい。
この世界では年末年始を祝う風習はあまり無いため、俺も実家に帰ったりはしていない。入学準備をしたり、実力テストで知り合ったジョージと友好を深めたりしていた。
また、新しく取得した【万物創造】については全ての生産スキルを統合したものだった。入学して生活が落ち着いて来たら、是非色々と生産してみたいと思う。
「……であるからして、……新入生の諸君は……、勉学に励んで……」
そして現在、入学式で1番眠くなる時間。学園長の挨拶の真っ最中だ。学園長は初老のヒゲを生やしたお爺ちゃんだ。
隣ではジョージが舟を漕いでいる。
「おい、ジョージ、起きろって」
ヒジでツンツン突くが全く起きない。もう放置で良いや。
因みに、俺もジョージもAクラスだった。クラスはAからEまであり、先日の学力テストの結果が良い人がAクラス、次がBクラスと言った感じに割り振られた。Eクラスと言っても貴族や金持ちの子息が多いため、学園に入るまでにそれなりに家庭教師等に教わっていて、それなりの学力は有している。一般枠で入試を通過して入ってくるのは全体の2割程度らしいが、一般から選ばれるだけあって、AクラスBクラスが多いそうだ。
そしてボクちん君はどうやら来ていないようだ。ジョージの噂では実家で色々な不正が発覚して大変な事になっているらしい。南無南無。
そして式は在校生代表の挨拶となる。壇上に上がるのは……師匠だ。先日は私服だったので制服を着ている姿は初めて見る。
制服は前世の世界でもよく見た感じの紺色のブレザーだ。過去に転生が転移をした人が広めたんだろうか?
「新入生の皆さん、ようこそデグモ学園へ! 私は5年生のリーナ・フォン・デグモです。今年から生徒会長をする事になりました」
そんな感じで挨拶が始まった。この学園は6年制だが、師匠は他の生徒に祭り上げられて5年生だが生徒会長になったそうだ。
「正直、私がこの学園に入った時、私の人生はそんなに明るいものではありませんでした。
しかし、学園生活を送る中で、様々な出会いや様々な経験をし、今では多くの人に慕って頂けるまでになり、楽しい学園生活を送らせて頂いています」
てっきり師匠は、最初から今のような感じだと思っていたけど、記憶が戻るまでは結構苦労してたのかな。
「皆さんの中にも、これからの学園生活が不安な方、自信が持てない方が居ると思います。
しかし、この学園には素晴らしい教師の方、素晴らしい先輩たちが沢山います。
学園生活の中で、少しづつでも成長して頂けたら、私も嬉しく思います。
もちろん、これからの生活に希望を持っている方、大きな志を持って入学された方は更に素晴らしい生活となるよう、生徒会としてフォローして行きたいと思います」
「さすが、飛行姫リーナ様。素晴らしい挨拶だな」
「いや、ジョージはいつ起きたんだよ」
「何を言ってるんだ? 俺は寝てないぞ。ちょっと瞑想していただけだ」
完全に舟を漕いでいたけどね。
「それでは良く学び、良く遊び、素敵な学園生活を送って下さい」
───パチパチパチパチ。
そう言って、師匠の挨拶は終わった。師匠が降りると、司会が衝撃の一言を放った。
「それではここで、実力テスト学力の部と実技の部、それぞれ最優秀者を発表させて頂きます。それぞれの最優秀者は新入生を代表して挨拶して頂きます」
聞いてない! 聞いてないよ! どう考えても実技の部は俺ですよね!? 幸い、学力の部が先みたいなので少し考える猶予はあるか……。
「あ、どうやら学力の部、実技の部ともに最優秀者は同じ方のようです。リョーマ・グレイブさん。壇上にお上がり下さい」
「えっ!?」
猶予は無かった……。確かに算術と魔法論は満点だった自信がある……。む、師匠が笑ってる。知ってたな!
「え? リョーマ知らなかったのか? 毎年最優秀者は挨拶があるから、我こそはと思う人は挨拶を考えてくるらしいぞ」
そこから、入学式が終わるまであまり記憶に残っていない。相当緊張した事だけは覚えている。
後で聞いたら、かなりいい挨拶をしていたとジョージが言っていたけど、ジョージの感覚だからな……。
☆
入学式が終わったら、教室に入りホームルームだ。入学式は現地集合だったのでクラスメンバーが一堂に会するのはこれが初めてだ。
「皆さん、入学おめでとう。私が1-Aの担任になったジェームスだ。こちらは副担任の……」
「ジュリアです。教師2年目ですが、1年間よろしくお願いします。」
どうやらこの2人が担任らしい。ジェームス先生は40歳前後の体育会系な感じ、ジュリア先生は若い獣人で狐っぽい耳がついている。ちなみに、生徒の中にも獣人は居るが、そこまで多くない。
「実際の授業は、知っての通り来週からとなる。そしてこの週末は入学オリエンテーションも兼ねたキャンプである」
この学園は意外とスパルタで、入学してすぐにサバイバル形式のキャンプが行われる。クラスごとに決められた場所に赴き、2泊3日を過ごすらしい。クラスのレベルに応じて難易度が設定されていて、Eクラスは王都の外側の平地でキャンプ程度だが、Aクラスは毎年結構過酷らしい。今年はどこだろうか?
「このクラスの行き先であるが、王都ダンジョンだ」
「「「「おおー!」」」」
「「「「ええー!?」」」」
ダンジョンに行ける事を喜んでいるメンバーと、ダンジョンに行く事が心配なメンバーが半々くらいの反応だ。
「ダンジョンとは言え、王都のダンジョンは廃れて久しい。君たちレベルなら問題ないようなモンスターしか出没しないから安心してくれ。万が一に備えて、優秀な上級生もフォローにあたってくれる」
俺は喜んでいる派で、今から楽しみで仕方ない。やっぱり異世界に来たらダンジョンだよね!
しかし、まさかあんな事が起こるなんて、ダンジョンに行ける事になり浮かれていた今の俺には知る由もなかった。




