従話 ポチの冒険(7)
今、我輩の前には大きな扉があるのだ。
豪華な装飾と共にハンマーの絵が描かれている。これは間違いなく階層主の部屋なのだ。
「殿! 待っていたで……ござ……る?」
「ん? どうしたのだ? ジロジロと我輩をみて。歯切れが悪いのだ」
「……いや、何でもないでござる」
おかしなアドランなのだ。
「トビラの発見、お疲れなのだ。後は我輩が何とかするからアドランは休んでるのだ」
「ダメでござるよ! また前みたいに1人で突入して1日以上出られなかったら、配下のみんなが心配するでござる」
前みたいに、と言うのは1年くらい前の悪魔5人衆の事なのだ。あの時は相手がこちらの平均レベルまで強化される特殊な部屋で、5人とも我輩と同じレベルになってとても苦戦したのだ。だけど、さすがに同じギミックは芸がなし、作らないと思うのだ。
「とにかく、何人かお供を連れていくでござる! もちろん拙者も行くでござる」
「アドランは心配性なのだ。でも我輩も成長してるのだ。仲間に心配かけるわけにはいかないので、ちゃんと皆で行くのだ」
「はーい! ボクも行くよー!」
そう言いながら現れたのは、魔エルフのマルフなのだ。我輩の【転移】を【トレース】のスキルで追ってきたのだと思われるのだ。ふざけた奴だけど、色々と優秀なのだ。
「ワタシも行くわよぉ」
グリモンまで来たのだ。悪魔たちは【影移動】というスキルを持っていて、短距離で影がある場所なら【転移】と同等の移動を可能とするのだ。我輩、頑張って【転移】を手に入れたのにこんな簡単に付いて来られたらちょっと凹むのだ。
「それじゃあ、我輩、アドラン、マルフ、グリモンの4人で入るのだ」
我輩は他の直轄配下に階層主の部屋を攻略に行くと【念話】を送ると返事を待たずトビラを開ける。
部屋に入ると、お決まりでトビラは自動的に閉まる。部屋の大きさは20m四方ほどで他の階層主の部屋より少し小さめ。そしていつも通り部屋の中央で魔法陣光り輝き、光が収まるとその中心に階層主が現れたのだ。
体長は2m程、筋肉粒々で髭を生やし背中には大きな金属のハンマーを背負っているのだ。
「永かった……永かったぞ……。いつかこの階層に客人が来ることを夢見て、自己研鑽すること幾百年。
ようこそ、待ちに待った挑戦者の諸君……ん? んん?」
階層主は我輩をみると目が点になっている。ものすごく凝視されているのだ。
「げ、芸術だ! ワシの求めていた芸術がここに!!」
な、何を言い出すのだ。この階層主は……。とりあえず【鑑定】しておくのだ。
【基本情報】
種族:魔ドワーフ
名前:なし
年齢:1132歳
レベル:111
レベルが中々高いのだ。我輩のレベルをコピーした悪魔たちを除くと、過去最大なのだ。後、年齢もヤバいのだ。
続けてスキルも【鑑定】しようとしたら失敗してしまった。基本情報だけ確認できて詳細確認ができなかったのは初めてのパターンなのだ。
「フハハハ。そこの芸術ワンコ。ワシが【鑑定】できなくて驚いているな?」
「な、何故ばれたのだ!? って芸術って何なのだ!」
「我輩は詳細な【鑑定】を防ぐ魔道具を装備しているのでな。誰に【鑑定】されたかもわかるぞ。ワシの自信作じゃ。
して、芸術の定義も知らぬのか?」
「いや、芸術は知っているのだ。そうじゃなくて、何で我輩が芸術なのだ!?」
我輩がそう言うと、魔ドワーフと配下の3人が顔を見合わせる。一体なんなのだ!?
「自分でやっておいて何だけど、どうみても芸術よねぇ」
「うんうん。ボクも会心の出来だと思うよ!」
「拙者、殿の趣味をとやかく言うことはしないでござる。思う存分こすぷれ? をしたらいいでござるよ」
そこで、ハッと気付いた。
我輩……色々と飾られたままなのだ! ピンクのリボンなのだ! カラフルな毛並みなのだ!
「……お邪魔したのだ。我輩、帰るのだ」
「待て待て、この部屋に入ったからには、簡単に出られないことは知っておるじゃろう?
初めての客人だ。ワシを楽しませてくれ」
ですよねなのだ……。
こうなったら一刻も早く、このフロアをクリアして外に出るしかないのだ!
「ワシ自身は戦闘職ではないのでな。ワシが創ったコイツが相手をするぞ」
魔ドワーフが丸いボールのような物を取り出すと、目の前に投げる。
ボールは地面に当たると同時に眩い閃光と共に大きく膨らんだのだ。まっ、眩しいのだ。
「しまった! 目潰しなのだ!?」
「いやいや、そんな姑息な事はせん。ワシの力作。究極の戦闘兵器ガルムじゃ!」
何と、光が収まるとカッコいいオオカミ型ロボットが現れたのだ! ボールから変形する変形ロボなのだ! カッケーのだ! 我輩も欲しいのだ!
「今までだーれもこの階層まで来なくてな。あまりに暇で改造に改造を重ねたら、レベル150相当まで強化されてしまったのじゃ。すまぬが、簡単には勝たせてやれぬぞ」
レベル150相当!? それはやば……くはないのだ。この1年で我輩のレベルは160まで上がっている。配下のみんななら多少苦戦はするかもしれないけど、我輩なら問題ないのだ。
「ここは我輩一人で大丈夫なのだ。みんなはそこです見ていてくれなのだ」
そう言って、我輩は1歩前に出る。
「良いのか? 全員まとめてでも良いのじゃぞ?」
「問題ないのだ」
我輩はいつでも戦闘が開始できる態勢を取る。
「そうか、後悔して知らぬぞ……。
行けガルム。ワシの技術の結晶よ!」
魔ドワーフのその言葉と同時にオオカミロボのガルムが突っ込んで来た。むむ。思ったより早いのだ。
予想外の速さに戸惑いながらも、辛うじて回避に成功したのだ。リボンが邪魔で動きにくいのだ!
どうやらレベル150相当と言いつつも、速度特化型のようなのだ。
「フハハ、驚いたか? 伊達にオオカミ型ではないと言うことだ。良く避けられたな」
「速いけど、見切れないレベルではないのだ。今度はこちらから行くのだ!」
我輩は、一気にトップスピードまで上げながらガルムに迫る。ガルムが避けようとするが、それは我輩が許さないのだ。ガルムに最も接近したところで、前足で大きく切り裂く。
「キャイン!!」
ガルムはギリギリかわし切れず、我輩の爪によって切り裂かれ大きく転がる。ロボットなのに声もオオカミの様だったのだ。凝ってるのだ。
「なっ! スピード特化のガルムに攻撃を当てるとは……やりおるな、芸術ワンコ!」
「我輩、ポチという名前があるのだ! 芸術ワンコではないのだ!」
「おお、それはすまなかったな。しかしポチ殿、まだまだ戦闘は終わりではないぞ?」
切り裂いた感覚で何となくは分かっていたけど、やはりそう簡単にやらせてはくれないようなのだ。スピード特化ではあるが、金属の体で耐久力も高そうなのだ。ガルムは既に立ち上がり、身構えている。
「ねぇ、ボスぅ。私が相手に速度低下のデバフでもかけましょうかぁ?」
「いや、まだ大丈夫なのだ。やばそうになったらこちらからお願いするから、まだ待って欲しいのだ」
グリモンは回復魔法とデバフ魔法(相手に悪い効果を与える魔法)が得意なのだ。とりあえず回復してもらわないとヤバい状況になるまでは、我輩一人でやってみたいのだ。
「ヤバそうなら早めに言ってねぇ」
「分かってるのだ。それにしても、予想以上に頑丈なのだ」
「硬いのは当然。ワシが鍛えたオリハルコンを惜しみなく使っているからの!」
さりげなく伝説の金属とか! 通りで硬い訳なのだ。
「それでも、我輩の敵ではないのだ!」
我輩はガルムの攻撃を避けつつ、少しずつダメージを与えていく。
「キャイィン!」
5分程経った頃には、遂に起き上がって来なくなったのだ。
《個体名ガルム1号を倒して経験値を獲得しました。
マスターのスキル効果により追加で経験値を獲得しました。
従魔契約により、経験値の一部をマスターに譲渡しました。
レベルが上がりました。
レベルが161になりました》
倒したのだ。ロボットでも経験値が貰えたのだ。しかもレベルが上がったのだ!
そして気になるのは名前がガルム1号だったのだ。そういえば【鑑定】するの忘れてたのだ。
「フハハ! 見事、見事だぞ! まさかワシの最高傑作の1体が倒されるとはな! 愉快! 愉快!」
「楽しんで貰えたようで、何よりなのだ。けど、その口振りだと、まだまだ居るのだ?」
「ああ、勿論じゃ! 今のはウォーミングアップじゃぞ?」
すると、魔ドワーフはまた懐に手を入れ、今度は合計8個のボールを投げたのだ。
閃光と共に現れるガルムの群れ。そして、それに呼応するかの様にまた立ち上がったガルム1号。
「なっ! 復活とかズルいのだ!」
「フハハ、殺し合いに卑怯もクソも無いじゃろう? コイツらは群れの中で体力を分け合う事ができるのじゃ。例え倒れても、また立ち上がるぞ?」
「な、何だってーなのだ!」
あれ? ……これ、上手く立ち回れば、経験値稼ぎ放題なのだ!?
「グリモン、今回はさすがにデバフをお願いするのだ!」
〈それと、定期的に敵に【回復魔法】をお願いなのだ〉
「分かったわぁ」
我輩の意図を理解してくれたのか、グリモンは定期的にあまり体力の減っていないガルムを回復してくれる。それから数時間、結構経験値を稼がせて貰ったのだ。
《個体名ガルム8号を倒して経験値を獲得しました。
マスターのスキル効果により追加で経験値を獲得しました。
従魔契約により、経験値の一部をマスターに譲渡しました。
レベルが上がりました。
レベルが162になりました》
レベルも上がったのだ。
「そろそろ止めてくれないかのぉ。ワシの作品が壊されるのを見続けるのも辛くなってきたぞ」
そう言われると、ちょっと罪悪感なのだ。ガルム達ごめんなのだ。
「それにしても、ワシの作品を経験値の無限回路に変えてしまうとは、何と恐ろしい発想力じゃ! 見た目の芸術性と言い、お主と共に居たら新しいインスピレーションがわいてきそうだ。
この階層に縛られて居なければ、ワシも連れて行って欲しいくらいだが、無理な相談じゃな」
「ん? そんな事ないのだ」
「えぇ、ボスにかかれば階層主の呪縛なんてちょちょいのチョイよ!」
「それより、拙者今回出番なしでござるか!?」
「大丈夫、ボクも出番ないから」
何か戦闘モードから急にマッタリモードになってしまったのだ。ただ、1つ言えることは、そんなこんなで魔ドワーフが配下に加わることになったのだ。
☆
「ワシの名前……ゴブ・リーンじゃとっ!?」
「今までの流れだと、マドワフとかかと思ったのだ。ご主人も成長してるのだ? けどゴブリンってどうなのだ?」
「違うぞ! ゴブリンではない。ゴブ・リーンじゃ! 何と素晴らしい名前だ!」
あ、本人が気に入っているなら問題ないのだ。
「ところで我輩、配下のユニークスキル【スキル共有】でレジェンドスキル【万物創造】を取得したらしいのだ。何なのだ?」
「それはワシのスキルじゃ。【スキル共有】はレベル1しかないので、ワシの持っているスキルの中で最も強力なスキルが1つだけ共有されたのじゃ。
【万物創造】とは生産スキルの集大成。【鍛冶】【調合】【錬金術】【付与】等。全ての生産スキルが使える究極の生産スキルなのだ。ガルムもこのスキルで創ったのじゃ」
魔ドワーフ優秀なのだ。どこかの魔エルフとはけた違いなのだ……っ!
「むむ、何かボク馬鹿にされたような気がするよ? 気のせいかな?
でもボクはまだ若いからね。伸びしろがいっぱいなんだ」
むむ、マルフは我輩の心を読めるのだ!? エスパーなのだ!?
「ああ、四天王が五天王になり、ついには六天王になったでござる。拙者の夢が遠いていくでござる」
ポチ四天王。まだあきらめてなかったのだ!?
……拝啓、ご主人。こちらは今日も平和なのだ。




