第4話 ピンチ!?
結論から言おう。
俺は盗賊相手に蹂躙出来なかった。俺の身に覚えは無いけど、この始まり方デジャブなのは何故だろうか。
俺たちの馬車は計画通り盗賊に遮られて停まった。そこまでは良かった。護衛に見えるのはウースとスラッシュの2人だけなので、油断しまくりの盗賊を、俺は魔法でサクッと無力化しようとした。
したけど、魔法が発動しなかったのだ。
原因は分かっている。かなりの確率でマップ上で白くマークされていた人物だ。今、目の前に居る。
「申し訳有りません。私、こんな事したく無いのですが、この首輪がある限り逆らえなくて……、ホントすみません」
ペコペコしながらそう言っているのはボサボサの黒髪でメガネをかけたオッサン。依頼主のゴメスさんより腰が低い。首には真っ黒な首輪をしている。噂に聞く、奴隷の首輪だろうか?
しかし、問題はそこじゃない。この人が着ている服はボロボロで原型をほぼ留めていないが、どこからどう見ても前世の世界のサラリーマンが着ていたようなスーツ#だ。よく考えたらメガネもこの世界に似つかわしくない作りだ。
慌てて【鑑定】したが、これも上手く発動しない。【マップ】で確認した時に、マークが赤じゃなかったから後回しにして【鑑定】しなかったけど、それが今となっては悔やまれる。
「ガッハッハ! どうだ? スキルが使えないだろう? コイツは数ヶ月前に森の中で行き倒れている所を拾ったんだが、近くに居るだけでスキルが使えなくなるんだ。
大人しく荷物を出しな。そしたら命だけは助けてやるぞ? 奴隷商人に売りつけるけどな。ガッハッハ!」
盗賊のカシラと思われる人物が説明してくれた。説明ゼリフありがとうございます。そしてどう見ても転移者です。これまた転移者特典みたいなスキルだろうか?
「ふんっ、お前らもスキルが使えなかったら条件は同じじゃないか?」
「ガッハッハ! そんな訳ないだろ? コイツに味方と認識させたらスキルは使える。何とも便利な奴だ」
「な、何だって!? 卑怯な!」
ウースと盗賊のカシラがやり合ってるけど、さてどうしたものか。この1年で更にレベルが上がった俺は「レベルを上げて物理で殴れば良い」を実行する事もできると思う。だけど何かスマートじゃないよね?
ん? そう言えば、常時かけている【身体強化】とかはかかったままだな……。あくまでも遮られるのはスキルの発動のみで、発動してしまったスキルは問題ないのか?
そうすると、1度この人のスキル? の射程外に出て魔法を使えばいいのかな? そうなると問題は射程か……。少しずつ遠ざかりながら確認するのも怪しいし、ここはストレートに聞いてみるか。
「《僕は貴方を助けたいのですが、そのスキルの射程がどのくらいか、教えて貰えますか?》」
俺は日本語で問いかける。
「《なっ! えっ? 君は……》」
「《いいから、早く!》」
「おい、何訳の分からない言葉を話してやがる!」
「《詳しく確認した事はないけど、多分20メートルくら……》」
「命令だ! 喋るな!」
途中で盗賊のカシラが止めてしまったが、必要な情報を引き出す事ができた。20メートル先から一気に全員を無力化となると、どうしようかな。
「何を話してたかは知らないが、そろそろ良いか? 抵抗せずに荷物をだしな!」
俺はゴメスさんに目配せする。数秒稼いでくれたら十分だ。
「わ、分かりました。抵抗はしません。荷物もすぐ出します。待ってください」
さすが優秀な捜査官? だ。俺の意図している事が伝わった。俺は余裕を取って25メートル程後ろに下がる。今のレベルと【身体強化】なら25メートルくらい1秒もかからない。我ながらヤバい身体能力だと思う。
既に余裕モードの盗賊達は、少し離れて警戒していた奴らも含めて全員出てきている。これなら一網打尽に出来そうだ。一瞬の事なので、まだ盗賊達は誰も反応していない。
どうするか少し迷ったけど、みんな眠ってもらう事にしよう。一瞬で魔力を練り上げ、広範囲に『誘眠』の魔法を発動する。この魔法は読んで字の如く、眠りに誘う魔法だ。本来なら成功率はそんなに高くない魔法であるが、そこはレベルと魔力ゴリ押し。
そして予想通り、範囲外からの魔法は問題無いようだ。離れた位置にいる盗賊達がバタバタと倒れていく。ゴメスさんともう1人の御者さん、そして冒険者の2人も倒れる。
あ、ウースさんが倒れた先に岩が。
あ、頭から突っ込んだ。……ごめんなさい。
と、兎に角、全員仲良くお昼寝したところで、俺はまた近づいて行く。
どうやら転移者のオッサンのスキルは睡眠中は発動しないようで、近づいても魔法が使えそうだ。
ウースさんにこっそり回復魔法をかけてから、味方を『覚醒』の魔法で起こす。この魔法は未知の能力が覚醒する! みたいなものではなく、単純に意識が覚醒する魔法だ。目覚まし魔法かな?
「おはようございます。すみません、広範囲の魔法で皆さんまで巻き込んでしまいました。とりあえず盗賊を縛り上げたいので手伝って下さい」
「あ、ああ……」
みんな広範囲の『誘眠』に驚愕しつつも、盗賊達をロープで縛り上げてくれた。そして丁度全部の盗賊を縛り終えた頃に兵士さん達がやってきた。
「すまない、待たせ……、え? 終わってる?」
「シン隊長、お疲れ様です。こちらの冒険者が一網打尽にしてくれましたよ」
どうやら、ゴメスさんとは知り合いのようだ。って同じ作戦に参加する仲間なら打ち合わせとかしてるか。
「この2人が……?」
「あ、いえ、この子です」
「はい?」
「えっと、この子が魔法でババーンと……」
「「……」」
あ、この沈黙久しぶり。
「と、とりあえず縛られている盗賊達を叩き起こせ! アジトの場所と他に仲間が居ないか聞き出すのだ」
隊長さん、考えるのを放棄して部下に指示を出し始めた。大丈夫、俺が逆の立場だったとしても信じられません。
「そこで一緒に寝てる奴隷の首輪をした男は?」
「ああ、盗賊に捕らえられてこき使われていたようなので、保護してもらえますか? ただ不思議なスキルを保有しているので気を付けて下さい」
このオッサンに詳しく話を聞きたいけど、この流れだとこのまま保護して連れて行かれてしまいそうだ。
とりあえず目覚める前に【鑑定】しておこう。
・基本情報
種族:人
名前:シュウジ・スズキ
年齢:42歳
レベル:3
鈴木さんらしい。因みにスキルも【鑑定】したが、レジェンドスキル【発動阻害】となっていた。スキルレベル1に付き5メートルの範囲までスキルの発動を阻害するスキルのようだ。どんなスキルも発動出来なくなる。レジェンドスキルだけあって破格の性能だ。
1度【鑑定】しておけば、【マップ】の範囲内なら居場所も分かる。どうやらこのまま盗賊達と共に王都に連れて行かれるようなので、また会う事も出来るだろう。その時に話をしよう。
特殊なスキルだからって、国に軟禁されたりとかしないよね?




