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第3話 盗賊

 エナンの街の門は夜明けと共に開く。開門と同時に俺達は王都に向けて出発した。


 依頼者のゴメスさんが乗る馬車の後ろにもう1台付いてきている。合計2台で今回のオトリ捜査をするらしい。


 王都へは標準的な馬車で4日程の道程だ。途中に大きな街は無いが、ある程度の間隔で宿場町が作られている。野宿しなくても良いのは非常に助かる。


「盗賊が出没するのは、明日から通過する街道が森を横切る付近になります。今日は特に問題は起きないと思いますので、のんびりしていて良いですよ」


 この人、そこそこレベルも高いし戦闘力も高そうなんだけと、とても腰が低いな。


「僕はこの通り子供ですし、丁寧な言葉ではなくても大丈夫ですよ?」


「そう言ってくれるのは嬉しいですが、私はいつもこんなオトリ捜査紛いな事をしていて、客商売の真似事をしているのです。

 誰にでも丁寧な言葉遣いになってしまうのは、もはや癖ですね」


 この人はいつも危険な任務をして、これまで生きていると言う事は、やっぱり結構優秀なんだろうな。


 今日は特に何もなく、移動だけの予定との事なので、のんびり異世界の風景を楽しむ事にした。


 門を出てしばらくは左右に雄大な農耕地が続く。エナンは大きな街なので、その住人の食料を賄うには、街の外に大規模な農地が必要なのだ。


 そして左手は農地の先が湖、右手の農地の先には森が広がる。丁度、左手から朝日が昇ってきて湖を赤く染め上げている。


 12月ではあるが、この辺りは日本より暖かい気候なので、畑には一面に麦のようなモノが実っている。朝露に濡れた麦が光を浴び輝く様は、黄金の光のようだ。


「キレイだ……」


 前世では見たことのない雄大な景色に、つい声が出た。


「ええ、この辺りは領主様の計らいで冒険者の定期的な巡回もあって、魔物や盗賊の被害も少ないですからね」


 なるほど、エナンの街の領主様は中々出来た人なんだな。偏見かも知れないけど、ファンタジー世界の貴族って私腹を肥やす為に悪い事をしているイメージなんだよね。


 そんな感じで、景色を楽しみながら雑談をしつつ、1日目は何事もなく終了したのだった。



 ☆



 夕方前に辿り着いた宿場町で一晩を過ごした俺達は、翌日も日の出と共に出発した。


「今日の午後くらいから森に入ります。盗賊に襲われやすいように、付近の宿場町には私の同僚が、特別な荷物を積んだ馬車が通ると噂を流しています。

 上手く踊ってくれたら良いんですが……」


 森の入口辺りの街道から離れたところには盗賊を一網打尽にする為の兵士も配置されているらしい。


 これから通る森は、我が家の裏にある森ともつながっていて、とても広大なのでどこに盗賊のアジトがあるかは分からない。襲われたところを返り討ちにするしか退治する方法がないのだ。


 俺はこの1年で習得した探知系スキルをフル活用して盗賊の襲来に備える。この1年で【気配探知】と【魔力探知】がレベル10になり、更にレアスキルの【探知範囲強化】も取得してレベル10まで上がっている。【マップ】と組み合わせる事で、半径数kmを自動マッピングできる。


 また、【感情探知】なるスキルも取得し、対象の感情によってマッピングの色も変える事ができる。悪意は赤、恐怖は紫、特に無ければ白みたいな感じだ。まあ、感情の感じ方とか人によって千差万別なので、参考程度にしか使えないが。


 森の手前にある宿場町で少し早い昼食を取った後、いよいよ森へと入る。今日の夜は森の中の宿場町で、明日も森を通過する。これから丸一日が正念場だ。


「かなり慎重な盗賊団で、毎回襲撃場所を変えてきます。どこで襲ってくるか分からないので、十分警戒して下さい」


 ゴメスさんはこう言っているが、俺の【マップ】には既に盗賊の偵察隊と思われるマークが表示されていた。


 街道から100メートルから200メートル程、森に入った場所を馬車と並行して付いて来ている。何気に森の中を馬車に並走って身体能力高いな。


 さて、どうしたものかな? このまま襲撃を待つか、こちらから仕掛けるか。っと、よく考えたら盗賊団の殲滅が目的らしいから偵察隊を叩いてもあまり意味はないのかな? あ、でもアジトの在り処を吐かせればいいのか?


「ゴメスさん、100メートル程森に入ったところに盗賊と思われる反応があります。どうしますか?」


 困った時は人に振るに限る。1人で悩んでても仕方ないからね。


「えっ!? そんな事が分かるんですか! Aランクは伊達じゃないですね……。

 うーん。とりあえず泳がせましょう。少しスピードを落として、付いて来やすくしますね」


 そう言うとゴメスさんは、馬車のスピードを落とす。それと同時に、持っていた魔道具っぽい玉に魔力を流す。


「それは?」


「ああ、これは短距離なら色で連絡し合える魔道具ですよ。

 後ろの馬車と、離れて待機している兵に簡単な信号を送りました」


 なるほど、学園に入ったら魔道具についても勉強したいな。色々と便利そうだ。


 そうこうしている内に【マップ】の端の方に多くの赤いマークが現れ始めた。全部で20人くらいだろうか? 2キロ程前を別の馬車が走っていたが、そちらはスルーしたようだ。こちらの狙い通り、この馬車をターゲットにしてくれたと思われる。


 俺は他の護衛2人にも声を掛けて状況を伝える。


「この先1キロちょっとのところで、20人くらいで待ち構えているようです。レベルは殆どが20前後、数人30超えがいます。あと、関係なさそうな人が1人混ざっています」


 そう、赤いマークの中に白いマークが1人混ざっている。紫じゃなく白なのは、少し気になるところだけど。


「ちょ、何でそこまで分かるんだ!? 1キロ先なんてスキルや魔法でどうこうなる距離じゃないぞ?」


 そう言って驚いているのはモヒカンのウースだ。


「探知は得意なんですよ」


「得意ってレベルじゃねぇが……、まあ冒険者同士、深くは詮索しねぇよ」


 うーん。もう少し近づいてから報告するべきだったかな? でも、安全第一だよね。


「思ったより近くで待ち伏せて居ましたね。このまま進むと、兵達は間に合わないかも知れません。しかし、無関係な人が被害に遭っているかも知れないとなると、急ぐしか……」


「あ、このまま行って大丈夫です。あの程度の人数とレベルなら、問題なく無力化できますので」


「ええ!? レベル20から30が20人ですよね?」


「ああ、コイツは単独でゴブリンキングを倒すようなやつだ。心配するだけ無駄だぞ?」


 ギルドでは出来るだけ目立たないように、ゴブリンキング討伐は公にしないでって頼んでたけど、まあ無理ですよね。


「ホントですか! その若さでAランクってだけでも信じられないのに、ゴブリンキング単独討伐とかSランク並ですね……」


 そんな話をしながらも馬車は進んでいたので、もう盗賊までは目と鼻の先まで来た。とりあえず、サクッと蹂躙しちゃいましょうか。


 あれ、これってフラグだっけ?

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