第21話 遺跡
ゴブリンの集団を殲滅した後は順調で、点在するゴブリンを避けながら、サクッと遺跡と思われる場所の入口に到着した。
森の中にあるものの、地面には石が敷き詰められている為、大きな木はそんなに生えていない。
建物などは既に崩れていて元の形を保っているものはなく、建物にはツタのような物が絡み付いている。
遺跡の大きさ的には奥行きが500メートルくらいはありそうで、かなり大規模である。遠くにマヤ文明などの写真で見た事のある三角の構造物っぽい物が見える。あそこがゴールかな?
「へえ、これが件の遺跡ね? じゃあ、私が一緒に行けるのはここまでかしら? どう? 遺跡の中に魔物の気配はある?」
【気配察知】をマックスまで広げてみるけど、そんなに反応はない。範囲ギリギリに少しかな。
「近くには反応ありませんが、100メートルくらい先に少し反応があります。その先はまだ分かりませんね」
「なるほど、森の中より過ごしやすいから、住みついている魔物も居ると思うわ。気を付けて行くのよ。
レミも気を付けて」
「ありがとうリーナ。ちょっと行ってくるね」
移動の間に、この2人もそこそこ仲良くなったみたいだ。何気に、リーナ師匠は初めての友達じゃないだろうか? それは言い過ぎかな。
とりあえず【収納】から机と、イスを3つ出してセットする。机の上には朝メイドに作ってもらった紅茶とクッキーを出した。
「挨拶したところで申し訳ありませんが、ちょっと休憩してから行きませんか? 淹れたてで美味しいですよ」
「え? 何であったかいのよ。
……いや、もう驚かないわ。いちいち驚くのも疲れてきたから」
「驚きついでに、お昼用のサンドイッチも出しますので、昼になっても僕達が戻って来なかったら、師匠1人で食べてて下さい」
「分かったわ。1人で食べるのは慣れてるから大丈夫」
サラッと悲しい事を言ってる気がするけど、スルーしておこう。
そんな感じで少し休憩をしたら、いよいよ出発だ。
「それではリーナ師匠、行ってきます。机とイスは置いて行くので、のんびりしてても良いですし、ヒマなら飛んで帰って貰っても良いですよ。
ゴブリンの集団は殲滅しましたし、何よりもうキングはいませんし、帰りは大丈夫です」
さすがに厄災級のゴブリンキングが複数いる事はないだろう。後はジェネラルクラスがどこまで居るかだけど、そこはもうギルドの調査に任せたらいい。
「ええ、いってらっしゃい。とりあえずのんびり待つ事にするわ。
2人とも気を付けてね」
「はい、行ってきます」
ギルドの資料によるといつから有るかは分からないが、最低でも千年以上前のものとの事だった。殆どの場所は調べ尽くされていて、お宝が残っているなんて事もなさそうである。
周囲を警戒、と言うか【気配察知】しながら進んでいく。基本的には大通り的な場所が奥の建物まで繋がっていて、その通りの左右に朽ちかけた建物が並んでいる。
「右手2つ先の建物に魔物の気配があります。気付いて襲ってくるようなら対処しますので、離れないで下さいね」
「ええ、大丈夫。さっきの奴らに比べたら大した事ない魔物でしょ?」
そりゃ、厄災級の魔物と比べたら、そこらにいる魔物なんて雑魚だけど。
「まあ、その通りだけど、それでも一般人は出会うと死んでしまう様な恐ろしい魔物もいます。気を引き締めて貰えると護衛としても助かります」
「分かった。そうだよね。最初の戦闘が余りに一方的だったから……。
油断大敵ね。肝に命じておくわ」
一応、そうは言ったけど、実際【気配察知】に引っかかる魔物はランクDとかEばかりなので、相当油断していなければ大丈夫だ。ただ、心構えは大事だからね?
建物の中に居た魔物は特に襲ってくる事も無かったので、注意しつつも先に進む。因みに、遺跡は所々崩壊していて段差もあるので『浮遊』は使わずに徒歩で移動している。
「大分進みましたね。あの奥に見えている大きな建造物が目的地でいいんですかね?」
勝手にあそこが目的地だと思って進んでたけど、よく考えたら確認してしてなかった。
「んー、私も具体的な【神託】を受けた訳じゃないから正確には分からないけど、イメージとしたらあそこが有力かな?」
「とりあえず、行ってみて確認するしかないって事ですね」
結局、魔物に襲われる事はなく大きな建造物の前までたどり着いた。
遠くから見えた第一印象の通り、マヤ文明とかにありそうな三角形の構造物だ。もしかしたらアステカ文明かも? 正直世界史は苦手だったのでうろ覚えだ。
ただ、そこまで大きくなく一辺が20メートル程度の四角形で、上に行くにつれて一辺が短くなっていく。中央には階段が付いていて、天辺には5メートル角くらいの広場がある。
所々崩れてはいるが、ここまで来る途中あった建造物よりは原型を留めているんじゃないかな?
「さて、どうします? とりあえず登ってみますか? 周りに魔物の気配は無さそうです」
「そうだね。遺跡の中で一番怪しいのはここだし、とりあえず行ってみようか」
「じゃあ念の為、僕が先に行きますので、レミは後ろから付いてきて下さい。探索され尽くしてるとの事ですので、罠とかは無いと思いますが、一応護衛なので」
そう言うと、俺は先行して階段を登る。数段遅れてレミが付いてくる形だ。何があるか分からないので慎重に歩を進める。
幸いにも、特に何も起こる事なく、天辺まで辿り着いた。そう、辿り着くまでは何も起きなかった。
ゴゴゴゴゴ……
2人が天辺に辿り着いた途端に、遺跡が揺れ始めた。
「レミ、こっちに!」
倒れる程の揺れでは無いけど、念の為『浮遊』で地面から離れる。この魔法はこんな時便利だ。
ガコン!
暫く揺れ続けた後、天辺の中央に台座と思われる出っ張りが出てきた。
「ここで祈りを捧げろって事ですかね?」
「そうかな? やってみるね」
レミが台座の前に膝立ちになり祈り始める。これだけ大掛かりなギミックで台座が出てきたから、これで間違いはないだろう。
……。
暫く待つが、特に何も起きない。レミの中では何か起こってるのかな?
「うーん、何も起きないね……」
起きていませんでした。
「ここではないんですかね?」
「いや、台座からとても神秘的な力を感じるから、ここで間違いは無いと思うんだけど……」
ここで間違いないけど、祈りを捧げても何も起きない。さて困った。
「【神託】の内容は、遺跡の奥で祈りを捧げろだったんですよね?」
「うん、正確には年齢が半分以下の異性と2人で遺跡に赴き最奥にて祈りを捧げよだったかな?」
「ん? それって2人で祈りを捧げよって事んじゃないですか?」
受け取り方次第だけど、言葉って難しいよね。
「なるほど、そう言う解釈もあるかな。リョーマ試しに一緒に祈りを捧げてみよう」
「そうですね。ものは試しでやってみましょう」
俺はレミの横に膝立ちになり、一緒に祈りを捧げる。祈りって言ってもどうしたらいいか分からないから見よう見真似で、胸の前で手を合わせてそれっぽくするだけだけど。
「きゃっ!」
その瞬間、目の前の台座が急に輝き始める。眩しくて目を開けていられないほどに輝きは増して行く。俺も思わず目をギュと閉じる。隣でレミが目がー! 目がー! とか言ってるけど、どこの大佐ですか。失明するほどではないと思うのでとりあえずスルーで。
数秒か数十秒か、よく分からない感覚が俺を襲い、徐々に光が収まっていく。
そして目を開くと、そこはいつか見た真っ白な空間が広がっていた。
5年前、この世界に転生する前に訪れた転生の女神様の空間である。
「お久しぶりです。リョーマさん。いえ、竜馬さん。ようこそ私の世界へ。そして名前のことは本当にごめんなさい」
目の前には、土下座をした転生の女神様が居た。




