第20話 ここは任せて先に行け!
剣のサビにしてやるとか言っておいてアレだけど、俺は魔法で無双していた。
森の中なので、【火魔法】はマズいと思って選んだのは【土魔法】と【風魔法】だ。
【土魔法】でゴブリンの足元に目前に落とし穴を掘り、体が穴に落ちて頭だけ見えているところに【風魔法】の『鎌鼬』を使って首を落としていく。これ他の冒険者に目撃されたら二つ名が首狩りリョーマとかになりそうだ。……ちょっと嫌だな。
落とし穴を掘るのはさすがに一瞬ではなく、多少時間がかかるが、無印ゴブリン程度なら反応される前に穴に落とすことができた。上位種にもなれば、穴には落ちてくれないんじゃないかな?
「何よ。援護する隙もないわね。圧倒的じゃない?
そのスピードで【土魔法】と【風魔法】を交互に使うとか、相変わらず人間離れしてるわ」
後ろの方でリーナ師匠が何か言ってる。また人を化け物みたいに……。
無印ゴブリンが半分くらいに減ったところで、ゴブリン達の足が止まる。やっと異変に気付いたらしい。気付いたら仲間が半分とか、悪夢だよね。
だけど、足が止まったゴブリンは恰好の的だ。次々に足元に落とし穴を掘って落としていく。ただ、案の定ソルジャー達は穴に反応して避けられた。落とし穴に反応はされたけど、『鎌鼬』を撃ったら身体が真っ二つになった。
「あれ? 穴に落とす必要なかった……?」
「いえ、そんな事ないわ。この数のゴブリンをどんどん倒してたら死体まみれで邪魔になるでしょ? 死体が土の中にあるだけでも意味はあるわ」
とりあえず、そんな感じで最初の攻撃は何とかなったが、問題はここからだ。ゴブリンの上位種達が控えている。
レベルで言えば、無印ゴブリンはレベル10台、ソルジャーやアーチャーは20台、メイジやプリースト、ナイトになると20台からたまに30台も混ざっている。そしてジェネラルは30台だ。
「ここからは私も加勢するわ。アーチャーやメイジも混ざってるのよね? 攻撃される前に倒さないとレミが危険だわ」
冒険者として数年やっている師匠が居てくれると、色々と分かっているから、精神的に楽になるな。戦力的にはまだ何もしていないどころか、敵を呼び寄せただけだけど。
そこからゴブリンの上位種達が波状攻撃を仕掛けて来たが、俺と師匠で危なげなく処理していく。
5分も掛からずにソルジャー、アーチャー、メイジを倒し切った。
「残りはどのくらい?」
「はい、ジェネラル2匹、ナイト2匹、プリースト2匹ですね」
【地図】で確認しながら位置関係も説明していく。
「じゃあ半分ずつ受け持ちましょう。……と言いたいところだけど、さすがの私もジェネラル、ナイト、プリーストを同時に相手にして戦えるかは分からないわね……」
まあ、そうだよね。多少規格外でも師匠はまだレベル41だしレベル30台の魔物が複数いたら分が悪いかも知れない。
どんな割り振りで戦おうかと考えていると、
更に【気配察知】に反応が現れた。
しかも、もの凄い速さでこちらに移動してくる。とりあえず【鑑定】だ。
・基本情報
種族:ゴブリンキング
ランク:S
レベル:55
ヤバいの来た……。
「師匠、敵の新手です。ランクSのゴブリンキングが来ます!」
「はあっ!? 何ですって! それ厄災級の魔物じゃないの。
私たちでどうこう出来る次元じゃないわ。逃げるわよ」
逃げると言っても『浮遊』での移動スピードより、ゴブリンキングの方が早そうなんだよね。
「ゴブリン達に気付かれてしまったのは私の落ち度だし、私がここで食い止めるわ。私1人なら、後で『飛翔』で追いかけるから大丈夫よ!」
「ダメです師匠! さすがにレベル差があり過ぎます。ジェネラル達も残ってるんです。足止めする前にやられてしまいます」
「じゃあ、どうするのよ!? みんな死んじゃうわよ!」
「僕が……、いや、俺がここで食い止めます。ここは俺に任せて、先に行って下さい!」
「ダメに決まってるでしょ! どこの世界に弟子を死地に残して逃げる師匠が居るのよ!」
「いいから師匠はレミを連れて逃げていて下さい! 俺が出来る限り時間を稼ぎます! むしろ……、別にアレを倒してしまっても構わないのでしょう?」
「ブフッ!」
あれ? 某有名なセリフをカッコよく言ったつもりなのに師匠が吹いた。
「リョーマ、貴方それ死亡フラグって言うのよ? と言うか、何で貴方そのセリフを知ってるの……?」
「え?」
「あ、いや、何でもないわ。もう、貴方が変な事言ってるから時間が無くなったじゃない! 来るわよ!」
師匠が何か気になる事を言った気がするけど、今はそれどころじゃない。
俺と師匠が言い争っている間に、ゴブリンキングは他のゴブリンと合流したらしく、お供を伴って悠然と姿を現した。
ジェネラルでも大きさは無印ゴブリンと、2回りくらいしか違わなかったのに対して、ゴブリンキングはとにかくデカい。多分、身長3メートルくらいはあるんじゃないかな? 手には大きな金棒を持っている。
「もう逃げる時間も無いわね……。こうなったら仕方ないわ。先手必勝!」
師匠はそう言うと、杖をゴブリンキングに向けてレーザーの魔法を放つ。
「ギャッ」
額に命中して痛そうな声は出したが、多少額を火傷した程度で、頭に風穴が空いたりはしなかった。
「やっぱり効かないわね……。さすがに厄災級の魔物ともなると皮膚が硬いわ」
こいつに効かないって事は、俺も大丈夫かな? この前の模擬戦の時の懸念が一つ晴れた。
しかし、その攻撃でゴブリンキングは怒り心頭のようだ。師匠を攻撃しようと金棒を振り上げる。師匠は反応出来ていないようだ。
「させません」
俺は師匠とゴブリンキングの間に割り込み、振り下ろされた金棒を剣で逸らす。
俺に逸らされて地面を強く叩きつけた金棒は、土埃を舞い上げた。かなり力も強いな。
ただ、この土埃は丁度いい目眩しだね。俺は土埃の中、ゴブリンキングの頭があった場所まで飛び上がり、剣を一閃する。気配もそのまま動いていない事は確認済みだ。
《ゴブリンキングを倒して経験値を獲得しました》
土埃が晴れた場所から出てきたのは、首から上の無くなったゴブリンキングであった。
因みに、頭は既に【収納】の中だ。まあ、厄災級とか言っても、レベルは2倍以上離れてるし、こんなもんか。
「首狩り……」
師匠が何か言いいかけているが、無視してキングの体も【収納】に入れる。
「さあ師匠、残党狩りをしますよ!」
「え、ええ。そうね」
師匠は呆然としていたように見えて、ちゃんと次弾を準備していたらしく、レーザーでサクッとジェネラルを1匹片付けた。ジェネラルくらいなら貫通するんだな。
残りの敵も俺と師匠でサクッと倒し、何とか【気配察知】の範囲内にいるゴブリンは倒し切ったのであった。
倒したゴブリン達はサクサクと【収納】してしまう。
「【収納】ってそんなに便利なの? 神殿にも【収納】スキルを持っている人が居たけど、ゴブリンがポンポンと何匹も入るようには見えなかったよ……」
「リョーマのスキルは規格外だから、これが普通だと思わない方が良いわよ?」
また、しれっとディスられてる気がする。まあ、開き直って見せてあげよう。
「ええ、規格外ついでにこんな事もできますよ?」
そう言いながら、さっき【収納】したゴブリンキングから魔石だけを取り出す。思った以上に大きく、ソフトボールくらいはありそうだ。
「え? それさっき【収納】したゴブリンキングの魔石だけを取り出したの!? と言うか、デカいわね」
「すごく……大きい」
いや、レミさんそのセリフはあかん。
「【収納】の使い方も規格外だったけど、その魔石も規格外ね。それを売るだけでひと財産よ?」
「大丈夫、リーナ師匠にもちゃんと分け前を渡します」
「いえ、私は何もしてないじゃない。私が倒したゴブリンの分だけで充分よ」
もっとガツガツ来るのかと思ったら、意外と謙虚な師匠だった。そう言えばさっきも、弟子なんだから先に逃げろとか言ってたし、強がってはいるけど、根は良い人なのかな?




