第17話 師匠
俺はとりあえず、この自称・・・、いや本当に天才だし可愛いから、天才美少女魔道士でいいか。天才美少女魔道士のリーナさんに色々と手の内を披露して貰う事にした。
「残念ですが、空を飛ぶくらいなら僕にも出来ますよ」
そう言って、無詠唱で『浮遊』を発動すると、俺の体が50センチほど浮き上がる。浮く事しか出来ないけど、ばれないよね。
「な、何ですって!? 私は人類みんなの空を飛ぶと言う夢を、唯一叶えた美少女だったはずなのにっ!」
うん。まあ叶えた美少女は貴女だけかもですね。俺は男の子だし。
「きーっ! こうなったら取っておきを見せてあげるわ!」
さっきも思ったけど、声に出してきーって叫ぶ人、ホントに居るんだね。
「この魔法は本当に危険だから、人に向けて使いたくなかったけど、貴方なら大丈夫でしょ。
下手に動いたら逆に危ないわよ?」
そう言い、杖を俺の方に向けて来た。どんな魔法だろう? じっくり見せてもらおう。
カキンっ
「え?」
リーナさんの杖の先端が一瞬だけ光ったと思ったら、次の瞬間に俺の持っていた剣が根元から折れた。これはヤバい。何が起きたのか、全く見えなかった。しれっと無詠唱だし。
「ふふっ、どうかしら? 収束させた光を対象に向けて発射するオリジナル魔法よ。次は貴方に当てるわ。降参するなら今の内よ?」
ちょっ、それレーザーじゃ無いですか!? さすがに光の速さには対応できないぞ。リーナさん、予想以上だ・・・。
問題は人外レベルのステータスを持つ俺に、どこまで効くのか・・・。もしかしたら皮膚で止まるかも知れないし、体を貫通するかも知れない。ちょっと怖くて試せないな。
「降参はしません。順番で行けば、次は僕の番ですよね?」
「え? ええ、そうね。さっきから順番に行動してるわね」
相変わらずチョロい人だ。さて、これ以上長引かせると危険なので、次の一手で終わらせたいな。
倒すだけなら何とでもなりそうだけど、出来るだけ穏便に、且つ負けを認めてもらえる様な方法でないと、後でイチャモン付けられそうだし。難易度高いなあ。仕方ない、即興だけど少し試してみよう。
「右手から『粘着』、左手から『水生成』。合成魔法『鳥黐』」
説明しよう! 合成魔法『鳥黐』とは、【生活魔法】の『水生成』で生み出した水に、物を貼り合わせる【生活魔法】『粘着』を付与したネバネバが相手を襲う魔法である!
言ってみたかっただけで、ただ【重複魔法】で2つ同時に使っただけなのは秘密です。『水操作』ともう1つ使ったので実質4つだけど。
「えっ! 何この水。いやっ! ベトベトじゃない!? うわっ!」
首から下を鳥黐でグルグル巻きにされたリーナさんが、そのままパタンと横に倒れる。
「さあ、どうですか? 降参したら拘束を解きますよ」
「うーっ! 動けないわ。でもこんな物、私の『浄化』で・・・。あれ? 取れない!」
「すみません。その鳥黐には『魔力吸収』も追加で付与しましたので、今の貴女は魔法を使えません」
チェックメイトかな。
「魔法を使えないとか、これじゃあ私はタダの天才美少女じゃないのっ!
負けは認めたくない。認めたくないけど、何も出来ないわ・・・。悔しいっ!」
タダの天才美少女って何だろうね。
「降参しますか? それともトドメをさした方が良いですか?」
そう言いながら、また手の平の上に『発火』を出してみる。
「ううっ、参った。降参よ。私の負け」
「そこまでです! 勝者リョーマ君!」
パチパチパチ。
後ろから拍手が聞こえたので振り返ると、そこにはレミが立っていた。試合中に来たのかな。
「さすがサーシャ様のご子息だね! どこの馬の骨とも分からない女じゃ勝負にならないわ」
そうだった、この子はママンの事が大好きっ子だった。
「うきーっ! 何なの貴女! 私が誰だと思ってるの!? 私は・・・」
「リーナさん。そこまでです。貴女は冒険者のリーナ。タダのリーナさんでしょ?」
何だろう、この茶番は。と思ってしまうのは、俺がリーナさんを【鑑定】してしまったからだろうなぁ。
「うー、そうね。私はタダの天才美少女魔道士リーナよ。
それより、この鳥黐? 取ってくれないかしら」
「ああ、すみません。今取ります。『浄化』」
俺が『浄化』を使うと、鳥黐はきれいさっぱり消えて無くなる。元々が水だからね。
鳥黐が消えて動けるようになったところで、リーナさんに手を差し伸べる。
「ありがとう。貴方ちっさいのに凄いわね。まさかこの私が負けるなんて、夢にも思ってなかったわ」
「いえ、あの光る攻撃を剣ではなくて、僕に当てられていたら負けたのは僕だったかも知れません。僕が勝ったのは偶々ですよ」
「そうね。私が優し過ぎたのよね。最初から貴方を狙えば良かったわ」
まあ、俺に当たったところで効くかどうかは、また別問題ですけどね。とは言えないな。
「でも、約束は約束。仕方ないから、依頼は諦めるし、貴方の師匠になって上げるわ」
「え? 師匠!?」
「だって、貴方私に教えを請いたいんでしょ? つまり、弟子入りよね?
私こんなんだから、友達も居ないのよ。なのに弟子なんて、ああ! 楽しみね!」
こんなんだからって、自覚はあるのか・・・。まあでも、オリジナル魔法は魅力的だし、教えて貰えるんだったら弟子入りもやぶさかではないかな。覚えるまでの短い間だけ。
「それでは、よろしくお願いします、師匠! 僕はリョーマ・グレイブです」
「あら、私とした事が、きちんと自己紹介してなかったわね。さっきも少し言ったけど、私は天才美少女魔道士のリーナよ。冒険者ランクはB。よろしくね。
で、グレイブって事は、もしかして、ここの大神官の息子かしら? そう言えば、さっきサーシャさんの息子って聞こえたし」
「ええ、その通りです。父はここの大神官、母は元神殿騎士のサーシャです。昔は疾風迅雷とか呼ばれていたそうです」
「やっぱりね。とりあえず、今日は依頼を受けたり忙しいと思うから、また声を掛けるわね。年始で学校も休みで、しばらくこの街で活動する予定だから」
そう言うと、リーナさん改め、師匠は一人去って行った。何か勢いで弟子入りしてしまったけど、魔法の事を色々知ってそうだし、結果オーライなのかも知れない。
「ふふっ、良かったですね、リョーマ君。貴方は魔法が独学だから、先生が欲しかったんじゃないですか?」
シーラ様はエスパーか! 昨日の事もあるし、全部この人が仕組んでるんじゃないかと、勘繰ってしまうな。さすがにそれはないか。
「では、先程の部屋に戻って、依頼の話をしましょうか」
シーラ様に連れられて応接室に戻る。向かいの席にシーラ様とレミが座っている。因みに、俺がレミを呼び捨てにしているのは、本人からそう呼べと言われたからで、特に他意はない。
「さて、レミ貴女から説明してあげてくれますか?」
「はい、シーラ様。
私が授かった神託は、東の森にある古い遺跡の奥まで行き、祈りを捧げろと言うものでした。
その時に条件があり、護衛として連れて入って良いのは、年齢が半分以下の異性のみです」
何度聞いても、俺を狙い撃ちにした条件だよなぁ。シーラ様もそれが分かっているから、色々と画策してくれたんだろうけど。
「すみません、森の入口に住んでいながら、勉強不足で申し訳ありませんが、そこは何の遺跡なんでしょうか?」
「かなり朽ちていて、詳しくは分かっていませんが、1000年以上は前のものと言われています。
冒険者ギルドにも資料があります。試練は3日後を考えていますので、それまでに一度見てみると良いと思います」
相当古い遺跡なんだな。何が待っているのか・・・。
「分かりました。3日後ですね。それまでに調べて準備をしておきます」
「よろしくお願いしますね。当日は朝にレミを連れて森の入口、リョーマ君のお家に行きますので」
その後、俺は2人と世間話などをしてから、帰り際にギルドに寄り、やっと長い新年初日を終えたのだった。




