第13話 薬草採取?
俺は森へ足を踏み入れた。前に何度か母と来た事があるため、入口付近は問題ない。
日本のような急に斜面になっているような山ではなく、外国とかにありそうな傾斜の少ない、なだらかな丘のような地形に木が生えたイメージだと思う。
森の浅いところは、日々冒険者たちも足を踏み入れる為に、獣道のようなものが至る所に作られていた。
昼前だと言うのに、高さ5~10mくらいの木々に覆われた森の中は、若干薄暗い。
獣道のような所を通っても、薬草などは採り尽くされているだろうから、それ以外の所を目指したいけど、足元には場所によって50cm弱の草が生えていて容易に進めそうにもない。
俺の身長は典型的な5歳児くらいだと思うので、せいぜい110cmくらいだろうか? 身長の半分くらいの草が生える森を進むのは容易では無いのだ。……普通ならね。
世間には知られていないが、【無属性魔法】のレベルを上げると、とても便利な魔法が色々と使えるようになる。
「『浮遊』!」
俺が魔法を使うと、体がフワリと浮き上がる。よく考えたら、魔法を口に出す必要無いけど、つい勢いで叫んでしまった。
さて、この『浮遊』と言う魔法だが、体を少しだけ、およそ50cm程度浮き上がらせる事ができるのだ。まさに今回にピッタリな魔法である。
ただ、一つだけ問題があり、この魔法は浮き上がるだけの魔法なのだ。通常ならその場に止まることしか出来ない。そこで俺は無い知恵を絞って考えた。浮いたまま動くことは出来ないのかと。
試行錯誤の末に思いついたのは、『浮遊』で浮き上がった状態の俺に、【生活魔法】の一つである『送風』魔法を使うことにより動かす方法だ。
通常は2つの魔法を同時に発動する事はできない為、その様な発想にはならないのだが、俺は色々と試している内に【並列魔法】のスキルをゲットしてしまった。ゲットできてしまったのだ。【スキル早熟】恐ろしい子っ。
自由に飛べる魔法が使えたら、そんな事考える必要も無いのかも知れないけど、今のところ俺は空を自由に飛べる魔法に出会えていない。仕方なく考え出したのがこの方法である。『送風』をどのように当てたら上手く進むか最初は手探りで、部屋の中で何度も壁に激突したのは、良い思い出……ではないかな。
【生活魔法】と言うのは属性魔法の劣化版の様な魔法も多いが、この様に応用したら様々な事が出来ることも分かった。今後も暇を見つけて、色々と試して見たいと思っている。ただ、魔力を込めすぎると、昨日の『発火』のように『火炎放射』の魔法と間違えられるレベルになってしまうので、注意が必要だ。
本当の『火炎放射』の魔法とか、俺が本気で使うとどうなるか、気になるところではあるけど、さすがに森の中で試し撃ちをする訳にもいかない。威力の調節が出来そうなのは体感的に分かっているけど、実際にどの程度調節が出来るのかは試してみるしかない。
ここまで独学で色々とやってきたけど、そろそろ魔法の先生みたいな人を探した方が良いのかな? まあ、魔法の威力を試して見てからでも良いか。
と言うか、森の中で少し浮かんで進む子供。側から見たら怪奇現象だね。
そんな事を考えながら、森を進む事10分。悪い足場を無視して飛んでいたので、結構進めたと思う。【地図】のスキルによると森の入口から3kmくらいは入っているようだ。木を避けながらだったけど、時速20km弱は出てたのかな?
近場なら、はぐれの魔物しか出ないって話だったけど、そもそもどのくらいが近場なんだろう? ここはまだ近場だよね??
一応、薬草が生えてそうな場所の条件は聞いてきたけど、この辺りはそこそこ当てはまりそうだから、ちょっと探してみようかな?
対象を植物に絞って……、見えてる範囲に一気に【鑑定】!
《【鑑定】結果を整理しました。傷薬草が12本、魔力草が6本、その他の薬草が4本ありました。【地図】にマーキングしました》
あったあった。少し珍しい薬草も生えてるみたいだね。
通常なら一つの対象しか【鑑定】する事は出来ないが、こちらも色々試している間に、見えている範囲を全て同時に【鑑定】できるようになった。やろうと思わなかっただけで、元々【鑑定】レベルが高いと出来たのかも知れない。
更には自動分類して【地図】にマーキングまでできるようになった。その結果を【アナウンス】が教えてくれる。何か色々とチートだけど、もう細かい事は気にしない事にした。
因みに、傷薬草は怪我などの回復ポーションに、魔力草は魔力ポーションの材料になるらしい。どちらも冒険者には必需品で常に不足気味だそうだ。
その後30分程かけて、かなりの量の薬草類を手に入れた。因みに採り方は一応ギルドにあったパンフレットで確認していたが、試しに薬草に手を触れて【収納】を使ったら、キズもなく完璧な形で採取できた。こちらも色々とチート過ぎてヤバい。これは最早、薬草採取では無いかな。薬草収納?
森の中を【鑑定】して、薬草を【収納】する簡単なお仕事です。
さて、十分に集まったから、そろそろ戻ろうかな? 採取しながら結構森の奥の方まで来てしまったみたいだ。ちょっと【地図】で確認してみるか。
ガサっ
ん? 後ろの方から草を踏むような音が聞こえた。何の音だろうと思いつつ振り返る。
「あっ……」
思わず声に出してしまったけど、振り向いた先には如何にもゴブリンと言った感じの魔物がいた。身長は俺より大きく、布の服を着て棍棒を手に持っている。
ここまで接近されるまで気付けないとか、本気で探知系のスキルを早く覚えないと……。ゴブリン程度なら気付かずに攻撃されても、ステータス差で問題ないかも知れないけど、危険は危険だからね。
それにしても、この世界のゴブリンは思ったより大きいんだな。もう二回りくらい小さいのをイメージしていた。
ただ大きさに関係なく、俺のやる事は変わらないけどね。剣を抜き、一気に距離を詰めるとゴブリンの首をはねる。それと同時に死体を【収納】する。血が飛び散って、他の魔物が寄ってきても嫌だからね。
因みに、昨日の教訓を活かして『身体強化』と『思考速度強化』は常時発動している。
《ゴブリンジェネラルを倒して経験値を獲得しました》
……あるぇ? ゴブリンじゃなかった。ちょっと大きいと思ったのは、ジェネラルだったからか。そう言えば【鑑定】してなかったな。でもジェネラルってもっと豪華な服や武器を持ってたりしないんだろうか?
そもそも、森の中に居るゴブリンが豪華な服とか武器とか入手手段ないよね。普通のゴブリンは裸に素手とかなのかな?
まあ、その辺りのことは追々学んで行けばいいや。とりあえず帰ろうかな。
と、その前に試してみることがあったんだ。俺は【収納】からさっき収納したゴブリンジェネラルの魔石だけを取り出すようイメージしてみる。
「おっ、出来た!」
すると、予定通り俺の手の中にはゴブリンジェネラルの魔石が握られていた。これでどれだけ乱獲しても、魔石回収に苦労することは無くなったな。
ついでに剣も一度【収納】して、ゴブリンジェネラルの血や脂を除くイメージで取り出す。こちらも成功して、汚れが一切ない状態で剣が取り出せた。【収納】のスキル万能過ぎないか? ま、汚れくらいなら【生活魔法】の『洗浄』で十分かも知れないけどね。
帰りは周りの魔物の気配を探りながら、行きの半分くらいのスピードで進んでいたら、【気配察知】のスキルを覚えた。もっと早く覚えておけば良かったなぁ。スキルで何匹かゴブリンっぽいのを見かけたけど、時間も無いのでスルーする事にした。
無事に森を出たら、一度家で昼食をとってから、ギルドに報告と依頼を受けに向かう事にしよう。




