第53話 封印解除
俺はガルム隊のリーダーであるコガルムに乗り、ダンジョンの中を高速で移動している。コガルムのレベル150相当は伊達じゃなく、自分で走るよりかなり早い。
【マップ】のデータも共有しているので、指示を出す必要すらなく最短距離を進んでいる。
出かける直前に本当に封印解除しても良いのかと少し論議にはなったが、紆余曲折あり最終的には解除する事になった。最終的にはポチから「万が一の事態の時は自分たちが何とかするのだ」と「変異した魔物たちは任せろとの」との【念話】を受けたからだ。
「すみませんリョーマ様。私が10階層に行った事があれば影移動ですぐだったのですが」
そう言いながらガルムの速度に付いてくるアクモンも中々の速さだ。まあ2人とも本気で移動すると俺も目で追い切れないからなぁ。
因みに、アクモンは空から降ってきたから10階層には行った事がない。行った事が有れば影移動できたそうだ。
「それを言ったら、ミルク達こそ転移系のスキルが有れば直ぐだったの。残念なの」
逆にダンジョンの10階層から来たミルクとシルク、そしてガルム隊は転移系のスキルが無い。世の中そうそう上手くは出来てないみたいだ。ミルクは俺の右肩に、シルクは俺の左肩に乗って付いてきている。
「それでも、コガルムの速度なら午後の早い内には着きそうだし、問題ないよ」
速すぎて、油断してると振り落とされてしまいそうだけどね。たまに休憩を挟まないと途中でこっちが力尽きそうだ。
「リョーマ殿、そろそろ着くであります!」
ああ、やっと着いたか。必死にしがみ付いてて、握力が無くなるところだったよ。途中で出た魔物はコガルムがすれ違いざまに全部切り裂いていた。一応変異した魔物だからそれなりにレベルが高いはずなんたけど、コガルム強すぎ!
「ありがとうコガルム。助かったよ」
「何のこれしきであります!」
俺は辺りを見渡す。そういえば、自分では9階層のボス部屋までしか行った事なかったから、10階層は初めてだ。
ボス部屋の奥を見ると確かにその先へと続く階段は見当たらない。完全に行き止まりになっている。ここで間違いなさそうだ。
〈リーナさん。リョーマです。10階層に到着しました。皆さんを呼び寄せたいので、準備が出来たら教えて頂けますか?〉
〈リョーマ? 早いわね……。5時間くらいしか経ってないわよ。いくら初心者用ダンジョンとは言え、1階層30分とかありえないわ〉
また1つ、リーナさんの常識を壊してしまったらしい。因みに去年俺が9階層に飛ばされた時は、1階層のボス部屋に戻るまでの8階層分の移動に10時間掛かったから、あの時の2倍以上の速さだった。
〈ああ、それで、こっちは準備出来てるからいつ呼んでもらっても平気よ。午後のティータイムをしてたの〉
くっ! 俺が必死にコガルムにしがみ付いてた時にティータイムとか羨ましい!
〈それじゃあ、順番に呼んで行きますね〉
俺はそう連絡すると腕輪との繋がりを意識して魔力を込める。そう言えば、突貫で作成したから試運転もしてなかったけど大丈夫かな? 大丈夫だよね?
「さあ、来い!」
でも、ちょっと心配だったから勇者のタクヤから呼んでみることにした。魔力を込めて数瞬後、目の前の空間が揺らぐとタクヤが現れた。
「良かった! 成功した!」
あっとつい思ったことが口に出てしまった。
「え? 俺実験台!?」
まあ、口に出してしまったけど、問題ない事が確認できたので、どんどん呼んでいく。勇者3人の後は、ジョージ、鈴木さん、ゼムスさんと続き、最後はリーナさんだ。
「よし、揃いましたね」
「すごいのぉ。本当に一瞬でダンジョンの10階層に着いてしまったわい」
「この魔道具量産したら大変な事になるんじゃないかしら?」
「いえ、この魔道具は結構魔力を消費するので量産しても使える人は限られちゃいます」
これがホイホイと使えたら、いきなり最前線に軍隊を送り込んだり、戦争の常識が変わってしまいそうだ。材料も材料だしね。オリハルコン。
「まあ、リョーマは他にも色々とヤバイから今更よね?」
はいはい、スルースルー。
「それで、ここでどうしたら良いのですか? 7個のボールが揃った時みたいに、出でよーとかやるんでしょうか?」
「んなわけだろ! 俺たちはそれぞれキーワードを教えられてるんだ。それをつなげると封印解除の呪文になるらしい」
お? それって禁則事項とやらで説明出来なかったらはずだけど、もうここまで来たら関係ないから口に出せるのかな?
「どうやら禁則事項が解除されたみたいね。それじゃあ、みんなのキーワードを順番に発表しましょう」
リーナさんがそう言うと、みんなそれぞれキーワードを発表する。1人1文字、合計7文字だ。
「7文字はわかりましたが、順番は聞いていますか?」
「私は聞いてないわね。誰か聞いてるかしら?」
6人が首を横に振る。……と言うことは、並び順を考えないと封印は解除出来ない訳か。
因みに、文字は順不同で「い」「ん」「ま」「ば」「い」「ざ」「か」だった。
「何か意味のある言葉になるんですかね? 意味のない文字の羅列だったらパターン多過ぎて面倒ですよ」
「僕、ずっと声が出なかったから1人で居ることが多くてクイズとかそんなのを良くやってたんです。意味のある言葉だったらすぐ解析出来ますよ!」
さすが太郎さん! お任せしよう。
「うーん……まんざいばかい? いや意味分からないですね。まいばんかいざ? 違うなあ。
……あ! まかいばんざい!」
おお! 何かそれっぽい。魔界ってアクモン達の出身地なんだっけ?
「それでは、その順番に並ぶとするかの」
あ、誰か代表で言うんじゃなくて、7人が順番に言う感じ?
早速みんなで横一列に並んで行く。
「よし、行くわよ」
「ま」
「か」
「い」
「ば」
「ん」
「ざ」
「い」
どうだ!? ……何も起きない?
違ったかな? と思ったら、少ししてから壁が光り始める。
「まっ、眩しっ!」
そしてそのまま目の前が光に包まれたのだった。




