従話 ポチの冒険(3)
なんだかんだで、ご主人の従魔が今や200匹を超えた。ご主人は全ての従魔に名前を付けてくれているのだ。その全てが我輩の配下扱いになっているので、名前を覚えるだけでも一苦労なのだ。
我輩直轄の配下は4匹だけなのでまだいいけど、その4匹の配下達にはそれぞれ50匹近い配下が居るので管理も大変そうなのだ。いや、基本的に配下の皆んなには、自由にやって貰っているからそんなに大変でもないのだ?
こちらに転生して、すぐにご主人を探しに出ようとしたけど、何故かダンジョンの上に上がる道は全て、途中から進めなくなっていた。なので、仕方なくダンジョン攻略を進めているのだ。
今日は我輩とアースドラゴンのアドランの二人 (2匹)で行動している。二人ともこの五年で何度か進化し、体長も大きくなったが、ダンジョンの中で大きな体は不利になるので、スキルを使用して小型化しているのだ。
なので我輩もアドランも、最初に出会った頃の大きさのままである。
「殿! 拙者の部下から【念話】連絡があり、優秀な魔物を見つけたので拙者に従魔選定をして欲しいとの事でござる。少し席を外させて頂くでござる」
その言葉と共に、アドランの姿は一瞬で消え去る。殿って呼ぶくらいなら我輩を一人にしないで欲しいのだ。ご主人と離れて早五年、我輩寂しいのだ。
そうそう、我輩も【念話】というスキルを覚えたので、配下の従魔との会話も困らないのだ。ご主人とも【念話】出来ないかと思ったけど【アナウンス】さんが、実際に会ったこと無いのでダメって言ってたのだ。無念なのだ。
そんな事を考えながら、エンカウントした敵は視界に捉え瞬間にサーチアンドデストロイしながら進む。
《間も無く目的地周辺です》
暫く進んだら、我輩の目の前に高さ20mはある、大きな扉が現れた。見た目はゴテゴテとした装飾がされていて、とても豪華なのだ。
やっと発見したのだ。これはダンジョンの階層主がいる部屋の入口なのだ。この階層に足を踏み入れてから20日は経っている。【地図】と【アナウンス】、それに探知系のスキルを組み合わせてナビゲーションしても、これだけ掛かったと言う事は、普通に攻略しようと思ったら、どれだけ時間がかかるか分からないのだ。
それにしても、今までの扉よりかなり豪華な作りをしているのだ。でも階層主といっても、その強さは今までも高くてレベル80くらいなので、我輩一人でも問題はないのだ。
我輩、既にレベルは140なのだ! (ドヤァ
我輩が軽く触れると、扉は自動的に開いていく。このダンジョンの階層主の扉は条件さえ満たしていたら、勝手に開いてくれるのだ。逆に、条件を満たしていないと、どれだけ力を込めても開かない。不思議仕様なのだ。
〈扉を発見したので、ちょっと階層主を倒してくるのだ〉
〈殿! 一人は危……〉
直属の4人の配下に【念話】で連絡して、我輩はそのまま扉をくぐる。階層主の部屋は外界から完全に隔離されるので、連絡が取れなくなるのだ。
扉をくぐる前に何か聞こえた気がするけど、多分気のせいなのだ。
我輩が扉をくぐり終えると、扉はゆっくりと閉まっていく。これで、この扉は階層主を倒すか、我輩が倒れるまで開く事はないのだ。
中は半径100mくらいのドーム状の部屋になっていた。いつもよりかなり広いのだ。そして、その中心に大きな魔法陣が現れる。この演出はいつも通りだけど、これもいつもより大きいのだ。
暫く待つと、光る魔法陣の中にカゲが現れる。魔法陣の大きさの割にはカゲは小さいのだ。と、思っていたらカゲは5つに増えた。複数の階層主とは新しいパターンなのだ。
魔法陣の光が消えたところから現れたのは、身長2~3mくらいの人型の魔物? だった。5人がそれぞれ、違う色の全身タイツのような物を着ている。人型とは、これも新しいパターンなのだ。
「さて、とても久しぶりのお客様ですが……、まさかそこの小さな犬っころが1匹だけ……ですか?」
真ん中に立っていた赤い奴が話始めた。意思疎通の出来そうな階層主は、これまたはじめてなのだ。
《【鑑定】をレジストしました》
「レッド、こいつ【鑑定】をレジストしやしたぜ」
黄色の奴が我輩を鑑定した様なのだ。ふふふ、我輩に【鑑定】は効かないのだ。我輩が勝ち誇っていると、黄色が何やら赤に耳打ちしている。
「おっと、失礼。この部屋に入る資格があっただけの事はあって、かなりの実力をお持ちのようですね。てっきり入口の扉が経年劣化で壊れたのかと思いましたよ」
目には目を。我輩も【鑑定】するのだ。
《【鑑定】がレジストされました》×5
なっ! コイツら全員【鑑定】が出来ないのだ!
「ヒッヒッヒ。 どうやら、私達が【鑑定】出来なくて驚いている様ですね。脈が少し早くなったようですよ?」
この距離で我輩の脈拍まで心配してくれるとは、結構いい奴なのだ。……んな訳あるかーいなのだ。
「折角ですから、教えて上げましょう。私達は全員悪魔です。悪魔は生まれつき【鑑定不可】と言うスキルを持っています。許可した相手以外からの【鑑定】はレベル関係なくレジストします」
種族特性という奴なのだ? たまに種族皆んな同じスキルを持っている事があるのだ。
「ついでに私達の強さも教えましょうか? 貴方と同じレベル140です」
「な、【鑑定】はレジストしたのに、何で我輩のレベルが分かるのだ!?」
あ、そう言えば言って無かったけど、我輩成長して普通に話せるのだ。
「さて、何ででしょうね? まあ、これから死ぬ貴方には関係のない事ですよ」
「ヒャッヒャッヒャッ! レッド、そんな事言わないで教えて上げましょうよぉ? 冥土の土産ってやつー?」
何かちょっとイラッとする喋り方をしたのは、ピンク色の奴だ。
「ふむ、まあ良いでしょう。ピンクに免じて教えて上げましょう。
この部屋は私達の主が創った特殊な部屋です。侵入者のレベルが私達より高かった場合、私達のレベルは侵入者の平均レベルまで引き上げられます。
貴方は一人、そして私達のレベルが140になっている。つまり、貴方はレベル140と言う事です。分かりましたか?」
「そうそう、レベル140なんて初めての体験よぉ。力がみなぎってるわぁ。貴方も直ぐに肉塊にして食べて上げるわね~」
「ええ、本当に。ブッチギリで歴代最高ですよ。どんな生き方をしたら、そんなレベルになるんですかね? 普段の私達はレベル90台ですし、ここの扉の開放条件はレベル80です。過剰レベルにも程があります」
ご主人の従魔として生きたらこうなったのだ。口には出さないけど。
「兎に角、貴方にはここで死んで頂きましょう」
「冥土の土産にもう一つ教えて欲しいのだ」
「ん? 何ですか? 内容によっては答えて上げなくもないですよ?」
やっぱりこいつ意外と優しいのだ?
「ここが最下層なのか? なのだ」
「ヒッヒッヒ! そんな訳ないでしょう? ここは中間地点、まだまだ最下層は遠いですよ? 但し、ここは侵入者に応じて、こちらも強くなる仕様なので、難易度は最高ランクですが、ねっ!」
そう言いながらレッドは腰に差していた剣を引き抜き、見えない斬撃を飛ばして来た。だけど、我輩は豊富な探知スキルでソレが見えているのだ。最小限の動きで回避するのだ。
「開戦、という事なのだ? ではこちらからも行くのだ」
我輩はそう言うと、一歩を踏み出す。そしてその一歩で10m以上離れていたピンクの目前に迫る。我輩、食べられたくないから、まずはコイツなのだ。
「なっ! こいつ早……」
ピンクが反応する前に、我輩の爪が袈裟がけに一閃する。爪が通過した後、暫くしてピンクの体が我輩の爪が通過した部分からズレてポロリと落ちる。
その時には我輩は元の場所に戻っている。泣き別れた上半身と下半身からは青い血が噴き出している。それを見て、常時笑顔を浮かべていた残りの4人からも笑顔が消えたのだ。
《アークデーモン、個体名ピンクを倒して経験値を獲得しました。
マスターのスキル効果により追加で経験値を獲得しました。
従魔契約により、経験値の一部をマスターに譲渡しました。
レベルが上がりました。
レベルが上がりました。
レベルが142になりました》
うわっ! 2レベルも上がったのだ。140レベルの経験値半端ないのだ。そしてピンクが正式名称だったのだ? ネーミングセンス……。はっ、このネタはブーメランでご主人に帰ってくるのだ。止めておくのだ。
「なっ! 同じレベルの相手をこうもあっさり……。どう言う事です!?」
「さっきのお礼を兼ねて、冥土の土産におしえてやるのだ。
我輩、従魔補正だけでもステータス3倍なのだ。そこに【身体強化】とか重ねがけなのだ。スキルもいっぱい持ってるのだ」
さあ、ここから一方的な蹂躙が始まるのだ。




