従話 ミルクのミラクル大作戦
ミルクは今、リーナの実家、つまり王城に侵入しているの。この前も侵入したところなの。もちろん透明になってるの。
今回のミッションは1つ。おーさまを探し出す事なの。難しいミッションだけど、ミルクならきっとやり遂げられるの。何たって、成功報酬に新しいスイーツが貰えるの!
なぜこんな事になっているかと言えば、リョーマがダイダの街から帰ってきて、神殿に向かってから、みんなはずっと難しい話をしていたの。
ミルクは退屈だったからシルクとお菓子を食べながらお喋りしていたの。
シルクは大事な話をしているから、聞いていたいって言ってたけど、会えなかった1年間の積もる話がまだまだあるから、強引に付き合ってもらったの。
そして夜も更けて来た頃に、ミルクはリョーマに呼ばれたの。
そこで王城でおーさまと言う人を探して欲しいって言われたの。大人数で行ってもかえって邪魔になるから、ミルクが単独行動なの。
見つけたら、とりあえずこのポーションを飲ませろって、リョーマ謹製ポーションを貰ったの。
何でも、王城は色々と結界が張られていて、気配察知系のスキルが上手く働かないらしいの。仕方ないので、侵入して探すしかないんだけど、そこでミルクの【直感】スキルの出番なの。
「ミルクの【直感】は直感と言うより奇跡に近いからね。よろしくね。
上手く行ったら、お礼に今までにないスイーツを作ってあげるよ」
リョーマにそう言われた瞬間、ミルクは窓の外に飛び出していたの。少しでも早く、おーさまを探して連れてくるの!
とりあえず、前回太郎を拉致した部屋の近くまで来たの。王城の中では寂れた場所だけど、何となく【直感】でここに来いって言われたの。さて、おーさまはどこにいるの?
あっ! しまったの!
〈もしもし、リョーマ、リョーマ。大変なの〉
〈うん。何となく分かるけど、一応聞くよ。どうしたの?〉
大変な事に気付いてしまったので、リョーマに【念話】したらそんな事を言われたの。えっ、何となく分かるの?
〈ミルク、おーさまって誰か知らないの〉
〈そうだよね。説明の途中で行ってしまったから、てっきり知ってるのかと思ったけど、やっぱり知らないよね〉
リョーマにはバレてたの! 新しいスイーツに目が眩んで飛び出してしまったの。許して欲しいの。
〈王様はね。リーナのお父さんなんだ。毒を盛られてどこかで苦しんでるはずだから、助けて上げて欲しいんだ〉
おーさまはリーナのお父さんだったの! しかも苦しんでるらしいの! 早く探して助けるの。
だけど、どこに居るかさっぱりなの。困ったの。そう思ってたら、廊下の向こうから2人組がやってきたの。どことなくリーナに似ている2人組なの。
「親父がそろそろヤバいって? 本当だろうなミーナ姉」
「本当よ。今は奥の部屋に閉じ込めてるんだけど、見張りをしている部下から連絡があったわ。
まあ、行ってみたらわかるでしょう」
良く分からないけど、【直感】ではこの2人に付いて行くといい気がするの! そう思って、この2人の後をつける事にしたの。
「しかし、まだ一部しか掌握できてないのに親父を監禁したって聞いた時は早まったんじゃないかと思ったけど、結果的には良かったな。
今朝の演説もあって、完全に流れはミーナ姉に向いているし、後は親父が病気で死んだ事にして……」
「王が死ぬとか、あまり大きな声で話すんじゃないわよ。どこで誰が聞いてるかも分からないからね」
そう言われて、男の方が少し声のトーンが下がったの。ミルクが聞いてるの。けど、やっぱりこの2人はおーさまの所に向かってるみたいなの。ミルクの【直感】はよく当たるの!
「でも、変異した魔物はどうすんだ? 本当にあの勇者たちに討伐に行かせるのか?」
「当面は無理ね。勇者には城内の制圧に力を貸してもらうわ。魔物はしばらく冒険者とか兵士たちに任せましょう。リーナも冒険者として討伐に参加して、死んでくれたら良いんだけどね。
何か聞き捨てならない話が聞こえたの! リーナが死ねばいいとか聞こえたの! とりあえず殴っておくの!
「痛っ! ちょっと何するのよ!」
「えっ? 俺は何もしてないぞ?」
「他に誰もいないじゃないの。確かに後頭部に衝撃があったんだけど……。
まあいいわ。ここでケンカしてても仕方ないわね。着くわよ」
どうやら、着いたみたいなの。この部屋におーさまが居るの。ミーナって呼ばれていた女の方がトビラをノックするの。
「私よ。開けて頂戴」
ミーナがそう言うと、ギギっと音を立ててトビラが開いたの。2人が入るのに合わせて、ミルクも付いて入るの。
「状態はどう?」
「はい。御覧の通り、既に意識はありません。息を引き取るのも時間の問題かと思います」
少し狭い部屋の中にはベッドが置かれていて、憔悴しきった感じのおじさんが1人寝ていたの。はぁはぁと苦しそうな感じなの。
「確かに、これなら明日の朝には死にそうだな。
数日行方不明だった事は適当に理由をつけて、病気で死んだ事だけ強調しないとな」
「ええ、そうね。後は上手く王位継承権を貰うだけね。勇者と言う戦力で説得してね」
2人はそんな感じでしばらく話をすると、満足したのか部屋を出て行ったの。
さて、ここからはミルクのターンなの。まずこの見張りの男を魔法で眠らせるの。
「急に眠気が……。まだ見張りの交代まで時間がある……の……に……」
ふふ。上手くいったの。見張りはぐっすりなの。後はおーさまにこのポーションを飲ませるの。
口から少しこぼれたけど、無理やり瓶を口に突っ込んで飲ませたの。
「……うっ。ここはどこだ? むむ、ずっと重かった体が非常にスッキリしてるぞ?」
「ミルクがポーションを飲ませたの!」
透明化を解除して話しかけるの。
「な、何だ君は? よ、妖精!? 君が治してくれたのか……?」
「そうなの! 預かったポーションを飲ませただけだけど、ミルクが飲ませたの!」
エッヘン!
「そうか、ありがとう。あのまま死んでしまうんじゃないかと思ってたよ。しかし、君は一体……」
「あ、そうだったの。これを渡せって言われているの」
そう言うと、ポーションと一緒に預かっていた手紙をおーさまに渡すの。
「これは? ……リーナからの手紙?」
てっきりリョーマからの手紙かと思ったら、リーナからだったの。おーさまは手紙を読んでるの。
「……なるほど。そう言うことか。自分の目で確認は必要だが、今までの状況から言っても間違いはないんだろうな。
とりあえず、手紙を読んだら君を経由してリーナと話ができると書いてあったんだが、お願いできるかな?」
「分かったの! ミルクに任せるの!」
これでミッションコンプリートなの! 新作スイーツが今から楽しみなの。




