従話 ポチの冒険(13)
「本当に、申し訳ありませんでした!
そして、配下に加えて頂き誠にありがとうございます!」
我輩はポチである。前世ではご主人リョーマの飼い犬にして、今世では従魔なのだ。
我輩の目の前では、現在自称史上最強の悪魔、悪魔王グリモールがキレイな土下座をしているところなのだ。自称最強と言っても千年以上前の話らしいのだ。
「私は自分が強いと思い上がっておりました。数時間前までの私はどうにかしていたのです。
たかがこの程度で最強などと、おこがましいにも程があります」
どうしてここまで、卑屈な態度になっているのかと言えば、次のようなやりとりがあったからだ。
☆
「私はレベル140ですよ? この階層の魔物たちでも精々が110程度です。
次元が違うのですよ。次元が。そんな事も分からないのですか? たった140と言った事を後悔しますよ」
うーん。何て言うかちょっと可哀そうになってくるのだ。ここにいる我輩と6人の直属の配下の中で一番レベルが低いのはゴブ・リーンで120くらいなのだ。
だけど【従魔超強化】の恩恵があるので、通常のレベル140であるこの悪魔よりゴブの方がステータスが高いのだ。つまりゴブは援護職でレベルも悪魔より低いけど、それでもこの悪魔を倒せるだけの能力を持っているのだ。
要するに、現在この部屋の中で最弱はこの悪魔と言う事なのだ。
「ふふふ、私は優しいのです。全員まとめて相手して上げましょう。さあ、どこからでもかかってきてください」
悪魔は両手を広げてウェルカムみたいな感じで待っているのだ。
「その提案、とてもありがたいのだ。
だけど、そこまでする必要もないのだ。こちらも1匹でいいのだ。レベルの一番低いコイツが相手をするのだ」
そう言って、我輩はゴブを指さす。指というか腕をさす感じなのだ。
「ほう、ワシが1人でやっていいのかの? 他のメンバーには回らぬぞ?」
「もちろんなのだ。決して、ゴブに負けてもらって、よくぞワシを倒した。しかしワシはこの中でも最弱……とかやってもらいたい訳じゃないのだ」
そう、決して見たい訳じゃ……ない訳じゃないけど、ここはグッと我慢するのだ。
「うーむ。そう言われると、それをやらないといけない気になってくるのじゃが……。
別に倒してしまっても構わないのじゃろ?」
ゴブ、それもある意味フラグなのだ。
「何をごちゃごちゃと言っているのです。1人で十分? ふざけているのですか?
あまり私を怒らせない方が良いですよ?」
悪魔はそう言うと、炎を身に纏い怒りを表現したのだ。それカッコいいのだ。我輩もやりたいのだ。
「あれは、業火の炎。悪魔王グリモールが本気を出した時に纏う炎だと言い伝えられています。
ユニークスキルらしいですね」
アクモンがそう説明してくれる。説明セリフ感謝なのだ。でもユニークスキルじゃあ真似ができないのだ。残念無念なのだ。
「ほう、お主は炎を纏うのか。では、ワシは雷にしておこうかの?」
ゴブがそう言うと、ゴブの体が雷を纏ってバリバリなのだ。え? 何それなのだ。聞いてないのだ!
「ゴブ! それは何なのだ!? 我輩もそれやりたいのだ!」
「フハハハ! これは昔暇を持て余していた時に作った魔道具じゃよ。
後でポチ殿にも伝授してやろう」
やったのだ! 言ってみるもんなのだ。我輩も雷を纏ってバリバリするのだ。
「まあ、良いでしょう。1匹づつでも、全員同時でも死ぬのが早いか遅いか、それだけの違いです。
さあ、まずはそこのドワーフから殺してあげましょう」
【従魔超強化】があるとはいえ、意外といい勝負になったのだ。とは言え、終始ゴブは余裕を残していたので、安心して観ていられたのだ。
「あ、ぽっちん。さっきのお菓子お代わり」
「拙者はお酒をお代わりでござる」
我輩が途中でお菓子や飲み物を出したら、完全に観覧モードでみんな寛いでいたのだ。
「そ、そんな馬鹿な……。この私がたかがドワーフ1匹にこうも押されるとは……」
「フハハハ。錬金術師のワシが、この肉体のみで戦ってやっとるんじゃ。感謝して欲しいのぉ」
確かに、ガルムレベルのゴーレムを1体出すだけで完封できるのだ。残念ながらガルム隊はご主人の所に送り出したので居ないけど、他にも戦いが有利になる魔道具とか、もっとあったはずなのだ。
「こうなったら、せめて1匹でも道ずれにさせて頂きますよ!
そこの一番小さい犬っころ。貴方だけでも……!」
悪魔がそう言うと、ゴブの横を抜けてこっちに向かって来たのだ。と言うか、ゴブはわざと悪魔を見送ったのだ。きっと面倒になって我輩に終わらさせるつもりなのだ。
「にゃにゃ、よりによって、一番向かわない方がいい相手に向かって来たにゃ。ちょっと同情するにゃ」
「我輩、小さく見えるのは好きでこの格好に擬態しているからなのだ。本当の姿を見せてやるのだ」
そうして、ちょっとフルボッコにしたら命乞いしてきたので配下にしたのだ。
☆
「まさか、貴方のような存在がこのダンジョンに居るとは想像もしておりませんでした。
どうか今後は末永く、私を配下としてお使い下さい!」
「よろしく頼むのだ。でも勘違いしないで欲しいのだ。
我輩たちは全員、ご主人の従魔なのだ。そこを間違えないように頼むのだ」
「はい、もちろんでございます!」
さあ、このフロアも攻略したところで、ついにこのダンジョンの最終階層と思われる場所に向かうのだ。グリモールは自分を最後の番人と名乗っていたので、多分最終階層なのだ。




