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第5話 はじめてのお使い

 突然だが俺は今、街の中でナイフをチラつかせた怖いお兄さん達に囲まれている。メインストリートからは離れた裏通りであり、他に歩行者も見当たらない。俺、ピンチ?



 ───どうして、こんな事になっているのかと言えば、先日俺は5歳になった。そこで両親に一人で外出する許可が欲しいと訴えたんだ。


 その時に両親から、一人で街にお使いに行って無事に帰って来れたら認めてくれると言われ、今日がその試練の日なのである。


 そして今朝、俺は某はじめてのお使いをする有名な番組のBGMを脳内で再生しつつ、家を出た。ドーレミーファッソーラシードー♪


 俺の家は街から少し外れた郊外の丘の上にある。丘の下には街が広がり、後ろは森となっている。何軒か建物が建っていて、森から魔物が溢れないか監視する役目も担っているらしい。母が結婚の際に、自身のレベルの高さを活かしつつ、家に居ながらできる仕事という事で、ここに家を建てたらしい。父は毎朝通勤が大変そうだ。


 街は人口が2万人程と、俺の知識にある中世レベルの都市としてはかなり大きな部類だ。一応、この国の中核都市の一つで、王都に次ぐ人口を有しているらしい。


 王都と言う事で分かる通り、俺の生まれたこの国は国王が治める王国である。流石に両親も政治的なことまでは5歳児に説明してはくれないので、まだよく分かってはいないが、数百年は続いている国なので政治的には安定していると思っていいのかな? 多分。分からないけど。


 隣国などの情報もまだ分からないので、魔法の勉強ばかりではなく、将来旅に出る為にも世界の情勢を含めて学んでいく必要があると思う。


 兎に角、俺は意気揚々と街へ続く下り坂を降り、街の裏門的な所の詰所を通過して街中に入った。


 詰所については、たまに両親に連れられて街に行く時に顔を覚えられているので、基本顔パスである。珍しく、と言うか初めて一人で来たのに、普通に対応してくれたのは、両親から事前に根回しがされてたのだろう。5歳児が一人でとか普通は怪しいもんね。


 さて、話は戻って俺に課せられたお使いの内容だが、母親の報告書の提出だ。


 母親は冒険者ギルド経由、領主からの依頼で森の監視を行なっているらしい。週に一度、その内容を冒険者ギルドに報告する必要があり、俺も何度か同行した事がある。今回は特に直接報告する内容も無い、との事でいつもはメイドの誰かが行う仕事を俺のお使いとされた。


 そう、前にも少し触れたが、この世界にも冒険者ギルドと言う国を跨いだ組織があるそうだ。異世界ものの小説が好きだった俺としては、将来旅に出る前には是非登録しておきたい。


 また、人口の多い都市と言う事もあり、冒険者ギルドも複数の支店? 支部? がある。俺が向かうのは裏門から一番近くにある支店だ。


 何度か母親と一緒に行ったことのある俺は方角が分かっているので、大通りを経由しないで近道をする事にした。今思えば、この選択が間違っていたんだよな。


 イヤ、結果的には良かったかも知れない。俺が細い道を抜けて、少しだけ開けた場所を通りかかった時に、言い争うような声が聞こえてきたんだ。


「おいおい、坊ちゃんと嬢ちゃんよ。俺にぶつかっておいて、タダで済まされると、本気で思ってたんか? アァ!?」


「何よ? 私達はちゃんと謝ったでしょ? そもそも、あなたの方から弟にぶつかってきたんじゃない!」


 俺が、物陰から覗き込むと、良い服を着た10歳前後の女の子と、俺より少し年上くらいの男の子が壁を背に数人の怖いお兄さんに取り囲まれていた。当たり屋?


「ゴメンで済んだら警備隊はイラネェんだよ。分かるかオイ? 良い服着てんだから、金も持ってんだろ? それで手を打ってやるから早くだしな」


 はい、当たり屋ですね。


「あ、あなた達に渡す金なんて持ってないわ! 良いからそこをどいて頂戴!」


 女の子は威勢よく対応しているが、きっとコイツらには火に油なんじゃないかな?


「うるせぇな! 良いから黙って金を出しやがれ。お前の可愛い弟がどうなっても良いのか!?」


 そう言うと、仲間の一人がナイフを取り出して男の子の方に近づいて行く。


「ひいっ。お、お姉ちゃん……、怖いよぉ」


 男の子はそう言うと座り込んで泣き始めてしまった。ナイフを持った男はお構いなしに更に近づく。


「や、やめて! お金は本当に持っていないの。お願い、許して……」


「あー、もういい。おい、お前らこの二人を捕まえて縛り上げろ。良い服着てんだ、高く売れるだろ」


 すると仲間達が包囲を縮める。女の子は後退るが、後ろは壁の為、それ以上は下がれない。


 これは多分助けてほうが良いんだよね? そう思ってからの行動は早かった。とりあえず物陰から飛び出して、男の子にナイフをチラつかせていた男に向かって飛び蹴りをかます。叫びながらとか、バレそうな事はしない。無言でダッシュ&飛び蹴りだ。


「ぐはぁっ!」


 男はズシャシャーと効果音を付けながら転がり近くの壁にぶつかって動かなくなった。


「何だ貴様!?」


 男達がそう言いながら呆けている間に、俺は男達と子供達の間に立ち塞がる。子供達と言っても俺より大きいけど。


「人身売買を宣言する悪人に名乗る名はない!」


 とりあえずカッコつけてみた。


「何だと? 貴様。お前も良い服着てるじゃないか。お友達か? お前も一緒に売り飛ばしてやらうか?」


 男がそう言うと、路地から更に数人の怖いお兄さんがナイフ片手に出てきた。


 そして、話の冒頭に戻る。はじめてのお使い、早速ハプニングです。俺、ピンチです。


「二人とも、もう大丈夫だよ?」


 とりあえず、二人を振り返らず声だけかけておく。どう見ても弟より年下の子に大丈夫って言われても安心できないよね。分かります。


「俺様を無視するなよ? 痛い目に会いたいのか?」


 さて、どうしようか。俺は確かにレベルは高いが実戦経験はまだ無い。5歳になってから母親から剣術を習い始めたが、まだ数日。しかも今は得物を持っていない。


 魔法もいっぱい覚えたけど、使った事は無い。どんな威力の魔法が発動するかも分からない。下手したらお兄さん達死んじゃう。困った。


「あ、あの、助けてくれたのはありがたいけど、貴方どう見ても5歳くらいよね? この人数をどうにか出来るとは思えないわ。私は弟を置いて行くわけにはいかないけど、さっきの身体能力を見る限り、貴方だけなら逃げられるわ。貴方だけでも逃げて頂戴!」


 そう言われても、助けに来た手前、はいそうですかって逃げる訳にもいかないよね。


「うるせえ! もう遅いんだよ!」


 そう言いながら、血の気の多い怖いお兄さんが一人向かってくる。


「いやーっ!」


 女の子が叫んでる。どうしようか、とりあえず仕方ないから【無属性魔法】の『身体強化』と『思考速度強化』を発動する。


 途端に怖いお兄さんの動きがスローモーションになった。『思考速度強化』は【無属性魔法】のレベルが低いと、無いよりはマシ程度らしいが、レベル10にもなれば世界の進むスピードがとても遅く感じる。あくまでも、思考速度が上がるだけであり、頭が良くなるわけでは無い。残念。


「おい、そいつらは売り物だから殺すなよ!」


 最初に女の子とやり取りをしていた男が何か言っているが、もう心配無用だ。スローモーションの中でも俺は『身体強化』で普段通り行動出来る。


 まずは向かってくるお兄さんを【鑑定】。……レベル16。一般人に毛が生えた程度だ。問題ないかな。


 殺すなと言われているのに、馬鹿なのかナイフを胸に向けて突進して来たので、とりあえず二本の指で挟んでみる。一回やってみたかったんだ。多分大丈夫な気がする。あ、止まった。


「「「「……えっ!?」」」」


 一瞬の間の後、敵と味方がハモった。

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