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私立・神楽椿学園探偵部の事件ノート  作者: サトル
7.神楽椿学園は曇りのち雨
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7-9★挿絵アリ


「――深刻な顔するから、何かと思ったよ」

「…………へ?」


 こらえきれない、と言わんばかりに澪は口元を押さえて笑いだす。


「言ってなかったっけ? 私、双子の兄さんがいるんだよ。兄さんから聞いて、知ってたんだ。皆会った事があると思うんだけど」


 緊張から解放された時のような安堵の表情、こともなげに語る澪の言葉には嘘なんて混ざっていないように思える。

 俺達、つまり俺と探偵部って意味だろうか。会った事があって、風見の家を知っている……双子、兄って――


「まさかアレンさん!?」

「そのまさかだよ。……まあ、二卵性だから言わなきゃ分からないかもね」


 言われてみれば、身長は同じくらいだ。どちらも年齢は聞けていないままだけど……顔は心なしか似ている気がする。その、俺は一卵性とか二卵性の違いはよく分からないんだけど。


「――それよりさ、真琴。電車降りちゃって大丈夫だったの? こんなラブホ街で待ち合わせ?」


 ふと我に返る。……俺の背後、電車の扉が閉まっていく、空気の音が聞こえていた。

 無意味だとは理解しつつも、気が動転してしまっていたのか、俺は走る。当然のことだけど、走り出した電車に追い付けるはずがない。……しまった、やってしまった。


「やっぱりウソだったんだね」

「う……半分は本当、だったよ。今日会う、っていうのは確かに、ウソだったけど」


 澪が呆れたようにため息をついている。

 うう、そりゃそうだよな。ノープランでここまで自分の事を追いかけてきているんだ、我ながらアホ丸出しだ。

 しかし、どうしよう。まだ終電ではないはずだし、引き返す電車を待って帰るか? いやまて。そもそも俺が買った切符はどこで精算すればいいんだっけ……


挿絵(By みてみん)


「折角ここまで来たんだし、行ってみる?」


 ふと、俺の手の平にひんやりと冷たい指先が触れた。


「行くってどこに?」


 俺の指と指の間に、絡めるようにして澪の細い指が潜り込む。これ、いわゆる恋人繋ぎとかいう……ドラマの中でしか見たことのない手の繋ぎ方では……?


「今日は真琴と一緒に居たいんだ」


 澪の言葉の意味、その表情――“感情”が、分かるはずなのに理解が追い付かない。

 そういう意味? 自分が都合よく解釈しているだけじゃないか? 本当に――

 戸惑う俺を見ようともしないまま、澪は繁華街へと歩き出していった。


「……で、本当に来てしまった」


 ……どうしよう。どうしよう。


 目の前には、丸いフォルムが印象的なダブルベッド。枕元、天井とそんなに何を見るんだよってくらいに張り巡らされた鏡。大きいテレビと、その横には電子レンジ、デジタル時計、他の階とつながる謎のパイプ――


「ここ、フロントとか緩いから気にしなくていいよ。私クーポン券持ってるし、顔も利くから」


 必要以上に沈むベッドの縁に座りこむ。……ここまで来る途中、いくらでも思いとどまるチャンスはあった。澪を説得して、引っ張ってでも帰れば良かった。

 だけど、いざ澪の顔を見ると……何も言えなくなってしまった。“これはこれでありかもしれない”なんて囁きかける俺の中の悪魔と戦っている間に、気が付いたらこんなギラギラした部屋の中に閉じこもってしまっていたんだ。


「コスプレも無料だし、一回プライベートで来てみたかったんだ」


 だ、だって仕方ないだろう? 俺だってもう高校生だし……そりゃ、それなりにそういう本を読んだりだとか、深夜のテレビ番組なんか見てるから“知識”くらいはある。もちろん興味だって……。


「……真琴、喋らないね。さっきから」


 澪が寄り添うように、俺の隣へ座る。澪の顔を見る事が出来ない。……これほど、俺は自分の体質が疎ましく思えたことはないだろう。だって、見てしまうと俺は“自分が相手をどう思っているか、どうしたいか”ではなくって“相手が俺をどう見ているか、どうしたいと思われているのか”ばかりが気になってしまうのだから。

 必要以上に沈み込むベッドフレーム、まるで山を下る土砂のように俺の身体も勾配に流されそうになっていった。


「嫌だったんなら、嫌だって言った方がいいよ」


 今までだってそうだった。沙綾が紹介してくれた女子からも同じことを言われた。


「あ……違う! そうじゃなくってさ――」


 澪と目が合う。……可愛い顔だ。その表情から読み取れる感情、自棄になっての強行だとか、その場のノリで……なんてものではなかった。だけど――


「……どうして、“最後の思い出に”なんて悲しい顔してるのかな、って」


 ――さっき澪を見かけたときから、薄々感じていたもの。表面で取り繕っていた感情の、その奥にはずっとその言葉がちらついている気がしたんだ。澪は目を見開き、驚いていた。その表情から、俺の直感のようなものが当たっているのか外れたのかは判断できない。ただ、澪は息をつくと立ち上がり――備え付けの冷蔵庫に手を伸ばしていた。


「真琴には隠し事出来ないね。……良いよ、話す。……ちょっと何か飲んでもいい?」



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