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私立・神楽椿学園探偵部の事件ノート  作者: サトル
7.神楽椿学園は曇りのち雨
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7-8


「み、澪はさ、何のために働くの?」


 よし話を変えよう。……そういう仕事をするくらいだ。何か理由があるんだろう。やむにやまれぬ事情とか、家庭の事とか……もしかしたら夢でもあるのかもしれない。俺はまだ澪のことを知らない。むしろいい機会なのかもしれない。彼女の事を良く知る――


「お金を貯める為だけど」

「いやうん、そうだよな。質問が悪かった」


 “何を当たり前のことを聞いているんだろう”と言いたげに澪が首を傾げる。そうだよな、うん。えっとそうじゃなくってさ……。

 どう接したらいいんだろう。どう振舞うのが正解なんだろう……。ぐるぐるとまとまらない頭で考えているとアナウンスが聞こえてきた。


「……私、この電車に乗りたいんだけど」

「おっ……俺もちょうどこの電車に用事があるんだ」


 駅のホームは賑わっていたけど、乗り込んだ電車は意外と空いていたようだ。横並びの細長い座席に、俺と澪は隣り合って座る。


「真琴はどこに行くの? ……この電車は繫華街行きだけど」

「えっと……あ、そう、あの……父親に会いに」

「……?」

「父親っていうか、“元”がつく人。俺のとこさ、俺がガキだった頃に両親が離婚してさ」


 確かに元々めっちゃ喋る! ってタイプでもないけど……この日の澪は特に静かだったような気がした。一方的にプライベートの事を聞き出そうとしてしまったせいでもあるのかもしれない……。

 急に罪悪感が湧いてしまった俺はとっさに嘘を重ねる。


 本当は週末……明日の予定だった事。そもそも“物騒な世の中だから”つって流れる可能性が高い予定なんだ。真っ赤な嘘もいいとこだ。


「ありがちなんだけど父親がさ、変な女に引っかかって。家の金使い込んだんだって。俺が小学校に上がる前でお金がかかる時期に」


 だけど――これは本当。

 借金背負ってた父親と別れて、母親は毎日遅い時間まで働いてた。

 毎日しんどそうな顔をして、だけど“何も聞かないで”って言いたげな顔も本当の事。


「だからさ、その……きっと、何かの為にお金が必要なんだろうとは思うんだけど、その……何か手伝える事とかあればなって、ちょっと思っただけっていうか」


 横並びの座席で良かった。今、澪がどんな顔をしているのか見なくて済むのだから。

 ちょうど電車は発車したみたいで、俺の最後の言葉が聞こえていたのかも分からないけど……。



「……お金はね、あらかた貯まったんだ。だからもう仕事もやめるつもりだよ」

「そっか!」


 しばらく流れていく景色を眺めただろうか。電車が次の停車駅に停まると同時に、澪が俺の肩を叩く。


「……私は家を出たいんだ。お金を貯めたのは、その為」

「一人暮らしするっていう事?」

「まあ、そんなところ」


 ――そういえば、大事な娘さんが事件に巻き込まれて入院までしたっていうのに。俺達は誰も彼女の両親と会ったりしていない。それどころか、退院する日だって姿を現さなかった。

 複雑な家庭で育ったのだろうか。澪の顔を見つめてみる。だけど、“それ以上は聞かないでほしい”と言いたげな顔をしていた。


「……私の家はさ、貧乏なんだ。……楓李みたいなあんな大きい家に住みたいとか言わないけど、せめて人並みに。幸せになってみたいんだよ」


 澪の笑顔は少しだけ自嘲的にも思えた。……風見、か。そういえば前に一度だけ風見の家に行った事があるけど、庭も、玄関も、台所も何もかもがでっかくて。女子が憧れる気持ちは分か……?

 ……あれ?


「ちょっと」

「何?」


 ――なにか、違和感がある。きっと今までの俺だったら気にも留めない事。……ああ、きっと探偵部とかいうあいつらと関わり過ぎたせいで疑心暗鬼になっているんだ。


「俺の顔を見て、答えてほしいんだけど」


 ああそうだ、自然と疑う癖がついてしまっているんだ。勝手だとは思う、だけど安心できる答えが欲しい……。

 立ち上がり、迷わず電車を降りていく澪の後を追うと、俺はその手を取り引き留めた。何となくだけど、まるで“これが最後”のような気がして……嫌な予感がしていたのかもしれない。澪は“何か変な事言ったかな”と戸惑った顔をしていた。


「澪、風見の家に行ったこと無いよね。なんでそんな事まで知ってるのかな、って」


 ――風見って、ああいう良い家に住んでいたりしてさ、そりゃ時には世間の認識からしたらぶっ飛んだような金銭感覚を見せたりする事もあるけど。

 自分から“お金持ちだよ、良い家に住んでるよ”みたいな話をしたことはないと思うんだ。

 個人的にお呼ばれするほど仲良くも見えないし。と、いう事は――


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