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私立・神楽椿学園探偵部の事件ノート  作者: サトル
7.神楽椿学園は曇りのち雨
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7-7



「――ここで大丈夫です。わざわざ送ってくれて、ありがとうございます」


 “もう少し残って、話をする”と言っていた司をカルムに残し、家の方向が違う大宮先輩と別れたのち。俺は王司駅の改札前まで恵を送り届けた。

 しっかりとしているように見えるとは言え、小学生な事に変わりはない。


「恵って小学生だろ? ……こんな時間まで電車でうろうろしてて、大丈夫なわけ?」

「ああ、電車賃を出してくれるって意味ですか?」

「ちげえわ」


 こんな物騒なご時世だ。親だってきっと心配しているのではないか……そう心配してみたわけだけど。恵は首を横に振ると、財布の中から切符を一枚手に取った。


「……私、ちょっとわけがあって親戚の家で暮らしているんですよ。あまり育児に熱心な人たちじゃないので、私も好きにしてるだけです」


 恵の言葉からも、そのあまり変わらない表情からも、恨み節や悲しみ、怒りといったマイナスの感情は感じられない。ただ“事実を並べた”だけといった印象だった。

 ……だけど、逆にそれって痛ましい事なんじゃないだろうかと思った。だって、身近な大人に甘えたりわがままを言ってみたり――そういう子供の権利、みたいなものをこの子は奪われているって事だろう。奪われているのに、それにすら慣れてしまっているんだから。


「……なんですか?」

「あ、いや。……お前まだ小さいんだから、もうちょっと子供らしくわがまま言ったりしてもいいと思うよ」


 ……“また子ども扱いをした”と言わんばかりに恵が疎まし気な視線を突きつけている。だけど、それも事実じゃないか。小さい頭を撫でると、恵は“何がしたいのか分からない”と言いたげな表情でため息を落とした。


「あ、そうそう。さっきは大宮さんもいたから伏せていたんですけど」


 ――恵は改札をくぐると、ふと何か思い出したように振り返る。

 今の時刻は十九時少し前、ちょうど会社員たちの帰宅ラッシュ。立ち止まってしまうと人ごみに飲まれてしまう為、自動改札機が並ぶゲートから横に抜けた場所にある仕切りの前まで俺を呼び寄せると、恵はこう続けた。


「楓李さんの事、気にかけた方がいいかもしれません」

「……どういう事?」

「例の殺人依頼BBSの事を、ちょっと別件で調べているんですけど――」


 殺人依頼BBS――通称“ゾディアック・BBS”

 誰でも書き込めるネット上の掲示板で、匿名で“殺したい相手の名前を書き込める”というもの。以前、恵がアレンさんに対する殺害予告の投稿を見つけたという例のホームページだ。

 その件と、風見が何か関わりあるのか?


「――時間ですね、また明日にでもお話します」


 と、ちょうどその時。何か言いかけた恵の声を遮るようにして明るいメロディーが駅に鳴り響く。

 それほど緊急性のある話ではないので、と言い残すと恵はあっさりと人ごみの中へと消えていってしまったのだった。


「ええ、ちょ……なに、めっちゃ気になるとこで帰りやがった……」


 中途半端に聞いちゃった俺は非常に気になるんだけど……恵にとっては“緊急性が無い”としても俺にとっては緊急性がある話じゃないか?

 とは言え……俺は携帯電話も持っていない。つまり恵と直接やり取りする手段がないんだ。

 風見か。そういえば今週、一度も風見の姿を見かけていない。風見だって水野と同様で参考人として呼ばれていたりして忙しいのかもしれないとはいえ……?

 うーん、気にはなるけど……ここで考えたところで何も始まらない事だろうな。ひとまず帰ろう。帰って、母親に話して“面会”を――


「ん、澪……?」


 ――駅を離れようと、流れるような人波に逆らい歩き始めたちょうどその時。

 同じような服装をした会社員たちの中、良く目立つ“白い頭”が見えた気がした。


「……こんなところで会うなんて。何してるの?」

「それはこっちのセリフだよ」


 気が付いた時には適当な切符を片手に改札をくぐりぬけ、少女の手を掴んでいた。

 振り向いた澪は口にした言葉のまま、驚いた顔をしていた。少しオーバーサイズのパーカーを羽織り、チャックはしっかりと首元まで閉じてあるようだからどんな服を着ているのかは分からないけど、その足元には少し不釣り合いなピンヒールがギラギラと光って見えた。

 首元にはいつも身に着けていたヘッドフォンの姿もない。


「……もしかして、今から、バイト?」


 俺の中で一つ、答えが脳裏によぎっていた。ただ、直接的な言葉で問いかける勇気が無くって……俺はそう問いかける。微妙な表情でもしていたのだろうか、澪は何か察したみたいにこくりと頷いた。


「……軽蔑しただろ」

「べ、別にまさか! っていうか、なんていうか……悪いけど、その頭の色でやれる仕事だもんな、薄々分かってはいたっていうか」


 あれ? 薄々分かっていた、は失礼だったんじゃなかろうか。“お前ってそういう仕事してそうだよなって実は前々から思ってました”って言ってるようなもんなのでは?


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