7-2☆挿絵アリ
「――ああ、いたいた。……大変なことになっちゃったわね」
野次馬、もとい帰宅部の生徒たちが帰っていくのと入れ替わるようにして、教室に入ってきたのは探偵部の顧問、春宮先生だった。
当然ながら既に今回の事も知っている様子で俺達に微笑みかけている。
「……そっすね。でも、逮捕とかそういうんじゃないんすよね?」
「ええ。あくまで参考人として……被害者の方と親しかった人や、当日に会った人から話を聞いているらしいわよ」
どうやら先生は警察の方とも少し話をしたらしい。劇団の関係者、出演者から先に話を聞いている最中だと言っていたから……澪や花鶏さんもその中に含まれているのかもしれない。花鶏さんはまあ疑われそうな男代表って感じだったし、仕方ないとして。澪は先日の事と良い、事件に巻き込まれてばかりだよな……。
「で、ね? こんな時だから……って、一応断りは入れたんだけど~」
「ん?」
と、軽く両手を合わせて謝ると、先生は廊下の方から誰かを呼び寄せている。
……どうやら、司を気遣って様子を見にきた、というだけではなかったみたいだな。
「……失礼します。僕、大宮 晃太と申しまして……普通科の二年生です。あの、探偵部の皆さんに依頼したくって」
教室に入ってきたのは、どうやら俺達と同じ普通科の先輩らしい。大宮先輩は外国の血でも入っているんだろうか、明るいブロンドの髪色もさることながら、彫りが深くていかにも女子に受けそうな顔をしている。
しかし……よりにもよって、こんなタイミングで初めての依頼が舞い込んでくるなんてな。水野が居たら“ついに私の実力が世間に知れ渡り始めたのだな”とか良く分からない自信をみなぎらせていそうだ。
司が俺の背中に隠れる。いや気持ちは分かるけどこの場にいる探偵部はお前だけなんだ、しっかりしろ。
「で、えと……依頼というのは? すみません、内容によってはお受けしかねると思います」
このまま隠れたままでは話が進まないと悟ったらしい。意を決した様子で司が先輩に問いかける。俺を盾にしたままとはいえ、まあ頑張った方だろう。恐らく先輩にこいつのか細い声が届いてはいないようだから通訳くらいしてやるよ。
「人を探してほしいんです。その……僕は会ったこともない人なんだけど」
――先輩と俺達を引き合わせるなり、春宮先生はさっさと教室を出て行ってしまった。基本的に放任主義なんだよな、あの先生……。
まあ、立ち話もなんだ。既に帰宅したクラスメートの椅子を拝借して座るよう促すと、先輩は語り始めた。
「……あの、お二人は“羅主徒”っていう暴走族のグループをご存じですか?」
“知らない”と司が首を振っている。まあ、俺も知らないんだけど……。
「この辺りを支配している不良達のグループです。街中でも見かけることはありますが、主に港の辺りに屯している危険な集団です」
確かにこの辺りの不良どもってどのグループもタチが悪いんだよな。夜は改造したバイクで警察と追いかけっこ、明るい時間は言いがかりつけてはカツアゲ、喧嘩三昧……。正直治安がいいとは言えない地域でもあるんだ。先輩が言うに、その複数存在する不良集団のうちの一つ、それが“羅主徒”なんだそうだ。
「実は、お恥ずかしい話ですが……僕、中学の頃からそのグループの末端の人たちからいじめを受けていまして……」
僕は父方の方にドイツの血が混ざっている、いわゆるクォーターというもので。
この髪色も地毛なんですが……染めていても目立ってしまうからか、何かにつけて暴力を受けていました。高校に進学し、不良グループとは別れたけど、それでも学校帰りに待ち伏せをされたり、家に電話がかかってきたりと心が休まることは無くて。
「それに、僕の趣味も……彼らから見たらちょっと子供っぽくて気持ち悪かったのかもしれません。しょっちゅうグッズを取り上げられては捨てられていましたから……」
……ああ、確かに大宮先輩って少し司と系統が似ているとでもいうのか。男の俺が言うのもなんだけど顔は良い方だと思うんだけど、頼りなさそうではあるよな。
そもそも、年下の俺達にも敬語を使ってるくらいだし。優しそうといえば聞こえはいいけど、体のいいパシリにされそうな雰囲気。
「キチョウナオハナシ、アリガトウゴザイマシタ」
「急に片言」
――なんて俺が冷静に分析してる後ろから、不意に司が顔を出した。
「だ、だって、話の流れ的に総長的な人を探せっていうんじゃないですか? そんなの無理!」
ああうん、やっぱりそうだろうな。誰かの手を借りてでも不良達から逃れたいって気持ちは分からなくはない。だけど今回ばかりは司に賛成だな……。
「ち、違います……!」
そう頷いていると、俺達の言葉を遮るようにして先輩が立ち上がった。
“誤解が生じている”? 先輩は焦ったような表情を顔に張り付けたまま言葉を続けた。
「そ、その……いじめは辛かったです。でも、そんな僕にとって……心の支えになってくれる相手がいたんですよ」




