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私立・神楽椿学園探偵部の事件ノート  作者: サトル
7.神楽椿学園は曇りのち雨
62/71

7-1

 

 ――舞台公演の翌日、俺達はその事実を知ることとなる。


「ねえ、真琴……あんたさ、今週末“あの人”と会う日だったでしょ?」


 いつも通りの朝。今日は部活の朝練もないからのんびりと準備ができる、そうぼんやりと考えながら朝飯を食っていた俺の背中に母親が触れる。


「あーうん」


 ……珍しいな、母親が“面会”の事に口を出すなんて。

 俺の母親にとって“その人”に関する話はタブーだった。いつもは“話題にしないでほしい”って表情で拒否を示すんだから。


「まだあの人に相談もしてないけどさ、ちょっと、しばらく面会は……止めといた方がいいのかなって……」


 物事に感化されやすい俺を気遣ってくれて、普段はニュースの類ですら食卓では見ないようにしてくれている母親が珍しくテレビをつける。何か言いにくいことがあるみたいだ。どうしたんだろう?


「だって、今回の事件現場……あんたが昨日、劇見に行ったところの近くでしょ」

 母親が指さした先、テレビ画面に映されていたもの。それは

「な……」




 怯えたような眼差しのまま、パトカーが走り去っていく姿を見つめていた司の身体は真冬のように震えている。その気持ちは分かる。だって、俺も朝のニュースを見て、俺は正直震えが止まらなかったから。


「まさか……座長さんが殺されてしまうなんてな」


 ――昨夜遅く。帰宅途中であったとある会社員の女性が異変に気が付いた。いつになく野良猫達が騒いでいたらしい。

 猫が喧嘩でもして、怪我でもしたのだろうか、などと思いながら女性は声が聞こえたマンション建設途中の空き地へと向かう。


 すると、そこには――


「――座長さん、良い人そうに見えたのに。なんでそんな人が……」


 眼球をくり抜かれ、性器を切り取られ――惨たらしいことに、頭部には水が掛けられた形跡が残っていた。

 そう。“平成のゾディアック・キラー”の犯行だ。劇団カナリア座の座長さん――塚さんは変わり果てた姿となってしまったんだ。


「……公演の後、高橋さん達団員の皆さんで打ち上げを予定していたらしいんだけど……いつまで経っても座長さんと連絡が取れなかったんだって。で、調べているうちに……」


 あの公演の後、座長さんは他のメンバーを先に帰らせて会場側のスタッフとの事務手続きをやっていたそうだ。恐らく、その帰り……一人になったそのタイミングで何者かに襲われたのだろう。


「先日の一件で、公演の後に警察署に行った平田さんを除くとして、最後に被害者と会っていた二人が風見と水野だったってことだな」


 ろくに会話もしないまま……授業を終えると同時に、水野は教師に呼び出されてそのまま帰っていった。恐らく別のクラスの風見も同様だったんだろう。司が送った携帯メールには返信すら無いままだ。


 俺もドラマとかでしか見たことがないことだけど……授業が終わるまで待っててくれたわけだから、恐らくこれは“逮捕”とかじゃなくって“任意の事情聴取”ってやつだと思う。話が終わったら帰ってくるに決まっている。と、俺は思うんだけど――


「いや俺は部活が……部活……」


 しっかりと掴まれた俺の腕に自由は与えられていない。よほど不安なのか、司は“一人にしないで”と言わんばかりにぱっちりとした目に大粒の涙をため込んで俺を見つめていた。


「仕方無いなあもう! ど、どっちか戻ってくるまでだけだからな」


 こいつの力なんて大したことないし振り払ってしまうくらい簡単なんだけどな。今きつい事を言ったらさすがに可哀想というのか……舌でも嚙み切りそうな顔をしている。


 ……仕方ない。今日の部活は“授業が遅れてしまっているから”とでも言って休もう。



 走り去るパトカーを校舎の窓から眺めていたクラスメート達は思い思いに水野に対する推論を並べ立てている。やれ“やっぱり何か事件をやりそうな女だ”だの、“前科持ち”だの。……そりゃ、俺もあいつの事を全部知ってるわけじゃないけどさ。あんな凄惨な事件を起こすような人間とは思えな……。


「華澄、もう帰ってこれないかも……どうしよう、僕、探偵部なんてやっていけない……」


 ちょっと意外だった。俺よりずっと付き合いが長いであろうはずで、きっと水野の事だって信じていると思っていたのに。司は随分と悲観的にとらえているようすだった。声を震わせると俺の腕にしがみついてきている。……しわくちゃになった制服にももう慣れたよ。

 帰ってこれない、という言い方とその表情から察するに“水野がやった”とは思っていないようなのに……まるで別件逮捕でもされると言わんばかりだ。


「…………あいつがそんな事するわけ」


 “本当にそう思うか”――

 司の目が俺に問いかけてきている。

 そりゃあさ、確かに……初めて出会った時だって重体になっていた先生の傷跡をわくわくした顔で眺めたり、事件の被害者に対してもトラウマを掘り返すような無神経を極めるような奴だけど、だけど――


「しそうだもんな……帰ってくるかなあいつ」


 ――悪い。何もフォローできなかったぜ。


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