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私立・神楽椿学園探偵部の事件ノート  作者: サトル
1.神楽椿学園にようこそ
6/71

1-5

 

 ――結局、“何をワケ分からん事言っとるんだ”と山田先生に一喝され、つまみ出された俺達は教室に連れ戻された。もうすぐ仕切り直しのホームルームが始まるようだ。

 まあそうなるわな。俺が山田先生だったとしても同じことを言う。人が一人死にかけているっていうのに楽しそうに笑いだしたんだから。“この女は馬鹿なんじゃないか”ってな。


「一つ聞いていい?」

「なんだ」


 運の悪いことに、俺のすぐ後ろの席はこの女の席だったようだ。

 あいうえお順で並べられる事を……この“燈村(ヒムラ)”とかいう珍しい苗字を今日ほど恨んだことはない。不服そうに頬杖をついている水野の横顔に、俺は先ほどからずっと抱いていた疑問をぶつける事にしてみた。


「さっきさ、なんで“殺人事件の可能性がある”……なんて言ったんだ? 例えば自殺したくって飛び降りたのかもしれないし、足を滑らせた事故かもしれない」


 ――そう。それは、先ほどから気にかかっていた水野の行動だ。

 最初は探偵ごっこがしたいだけのちょっと変わった女だと思っていた。だが……だんだんと“ごっこ”で片付けるには目に余るというのか。度が過ぎる行動ではないかと思い始めていた。

 “不謹慎の塊”とでも表現してしまおうか、まるで事件を楽しんでいるかのようなこの女の一挙手一投足を。


「事件だ、って水野が思いたいだけだったら、俺は――」


 この国の警察はしっかりと仕事をしてくれる。探偵など出る幕もない、そうフィクションの中だけの存在だ。この女にはそのフィクションと現実がごちゃ混ぜになってしまっているのではないか?

 変わった女、というより頭がおかしい奴なのではないか? 頭のネジが数本外れてしまったような。


「そんな事か。……端的にいえば時間稼ぎだ」

「時間稼ぎ……って」

「警察に片付けさせてしまうには勿体ない……少なくとも死に至った経緯を“あいつ”が握っているはず。だが、断定できる材料に欠けるのだ」

「あいつ、って誰だよ……っていうか、本気でそれ言ってる?」


 そろそろ教師が来る頃だろうか。廊下の方からかすかに足音が聞こえた。

 ――俺が目をそらしたその時。


「ああ本気だ。私は真相を突き止めたい。……その為には真琴、お前が必要なんだ」


 ふと、先ほどの“女子特有のいい匂い”が鼻に蘇る。鼻先が触れてしまいそうなほどのすぐ目前には水野の綺麗な顔が迫っていた。


「ばっ……そういうのやめろ!?」


 ――言動こそ大分危ないが、顔は可愛いんだ。お察しの通り、女に慣れていない俺は気が動転してしまってついつい大声を出し飛び上がってしまっていた。

 斜め前に座る丸眼鏡が“ここはいちゃつくところじゃなくって勉強しに来るとこなんだけど”とでも言いたげに眼鏡を両手で押し上げている。違う、そうじゃない。そんな目で見てくるな。


「きょっ協力っていったって、もう、今頃は警察が現場検証とかそういうのやってさ、片付けちゃったんじゃねえの? 今更、俺に何を求めるんだよ」

「心配は無用だ。現場の状況はもう()()()()。犯人の目星もついているから、後は証拠を集めるくらいのものだ。私は別働で調べたいことがある。……後はどうすればいいのか、探偵助手なら分かるな?」

「…………いや、探偵助手じゃないから分かんねーよ?」



 ―――



 結局、この日は簡単なホームルームのみで放課後を迎える形になった。

 臨時でやってきたと思われる教員が青ざめた顔で以下のような説明をしていった。


 ――今回事故に遭われた教員、小川先生という小太りの男性教員が俺達の担任となる予定だったらしい。命に別状はない、とのことであったがこの分では当面の間復職も難しいだろうとのこと。

 ちなみに、小川先生に代わり担任を勤める教員はまだ決まっていないらしい。……まあ、予期せぬ事態ってやつなんだろうから、これから決まるということなのだろう。


「……で? 俺達は何をしろって事? ……綾城、お前はなんか聞いてる?」


 先生の説明をちゃんと聞いていたのかすら怪しい水野は、終礼となるなり教室を飛び出していった。その一方で、俺と綾城は放課後で人もまばらになってしまった教室に取り残されていた。


「……大丈夫、僕の傍にいてくれたらいい、と思う……行こう」

「何それ」


 この後どうすればいいのか、綾城には分かっているらしい。そういえばこいつと水野はどういう関係なんだろうか。最初は恋人同士なのかとも思ったが……あまり喋らない綾城の反応を見る限りは“パシリと親分”という関係の方が近しいようだ。

 震えながら紡ぎだされたイケメンっぽいセリフは似合わなさ過ぎて、少し笑えた。


 ――帰り支度もそこそこに、教室を出た綾城はその足で職員室へと向かった。……職員室、ということは聞き込みでもやろうということだろうか。

 え、お前が? さっきまで人の背中で震えていたわかめみたいな頭のオタクが?


 俺がよほど不安げな顔でもしていたのだろう。職員室の戸を叩く直前、振り向いた綾城は颯爽と眼鏡を外して見せるとぱっちりとした目を細めて“大丈夫”と微笑んだ……が、扉の端で早速肩をぶつけている。ちゃんと見えていないなら眼鏡を外すなよ……俺はお前が心配だよ。



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