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私立・神楽椿学園探偵部の事件ノート  作者: サトル
6.神楽椿学園探偵部と鳴かないカナリア
57/71

6-6★挿絵アリ

 

「――で、風見。調べた内容はどうであった?」

「ええ。お亡くなりになった脚本家の松尾さんでございますね。この方は座長とヒロイン役の高橋さんと、三人で劇団を立ち上げた、いわば中核メンバーだったようですわ」

「座長、脚本家、役者……男一人に女二人か。異性関係のトラブルが起きてもおかしくない組み合わせだが、そのあたりは?」


 私たち探偵部はそれぞれに担当を決めての調査を始めておりました。

 本件は怨恨の犯行である可能性が高い。となれば、まず洗い出すべきはそれぞれの交友関係についてでしょう。


「……それは無い、と思う。高橋さんは座長に対しては尊敬はしているけど恋愛事を持ち込みたくはないみたいで。……とはいえ、俺が話していたのは高橋さんだけだから、亡くなった松尾さんがどう思っていたかまでは分かんねえけど」


 私と真琴さん、そして学校に残っている司君との三人で手分けをしてそれぞれ亡くなってしまった劇団員も含めて交友関係を探り、華澄さんは事件発生現場を中心に探る。

 ……どうして司君だけ学校に残しているのかって? 理由は簡単です。彼の声は風の音にも負けてしまうほどに小さい……つまり、こういった大声が飛び交う場においてはあまり役に立たない。……あ、これは本人には内緒です。


「真琴が言うんだから、少なくとも高橋の言葉は偽りもなかろう。トラブルの要因は無いようだな」

「うん、なんで俺が聞き込みの手伝いさせられてるのか分かんねえけどな」


 ――松尾さん。彼女は劇団の“座付き作家”のような存在だったようです。最後に目撃されたのは脚本を仕上げたその日。座長である塚さんにまず目を通してもらうために郊外の喫茶店で会ったのを最後に、彼女は帰らぬ人となってしまいました。


「特に仲が良かったらしい元弟役の平田さんがおっしゃるには……松尾さんはご自身の家族の事で悩みを抱えていたようです。ご自宅のパソコンには“もう無理です”なんて遺書めいた文章が残っていたこともあり、警察は早々に自殺だと断定なさったようです」


 パソコンに、というのが少々引っかかる。そう呟くと華澄さんはまた黙り込んでしまいます。

 ……直筆の文書であればいざ知らず、パソコン上に打ち込んだ文章など後からいくらでも偽装できますものね。ですが、警察が早々に自殺であると断定したことでも分かる通り“それだけで事件性があると言えない”のが現実というもの。

 もう少し証拠がないか、探る必要がありますわね。


「その次の被害者……元弟役の方はどうだ?」

「はい。司君によると……弟役の予定だった女性、平田さんは座長がスカウトしたような形のようです。先ほども申しましたが、この方は亡くなられた脚本家の松尾さんとプライベートでも一緒に食事に行くなど交流があったようです」


 こちらはこちらで調べを進めていきましょう。次は幸い軽症で済んだ、元弟役の女性です。


「そっちはトラブルは無かったのか?」

「ええと、なくはないと申しますか……。どうやら平田さんは、普段は気の良いさっぱりとした方らしいのですが、手を抜かない性格でもあるようで。舞台の事となると、少々きつい物言いになることもあったようで、恨まれていてもおかしくはない、という事らしいですわ」


 ……平素接する分には温和で友好的な人という印象を与える人であっても、舞台上においては話が別であるという事が多々あるみたいですね。

 教科書のような正解がない世界においては自分が信じた美学こそがその人自身の正解となりうる。

 正解が役者の数だけ存在するわけですから、自分の正解を守るために衝突するという事も起こって然るべきなのかもしれません。


「という事は亡くなった脚本家とももめたりしていたんだろうな」

「それは無いと思うけど。主役の……井上さんが言ってたけど、松尾さんの方は“的確な指摘をくれる”という事で信頼もしていたらしいし」


 真琴さんがそう補足してくださいました。こういう聞き込み作業において、真琴さんが持ち込んでくださる情報は精度が高くて信頼できるでしょうね。だって相手がいくら取り繕ったところで真琴さんには“その裏の本音”が見えているのですから。


挿絵(By みてみん)


「“どうして? どうしてお前は僕から全部を奪うんだ……姉さんも、僕自身の命も……”」

「――ストップ! 空木さん、そのセリフは客席側を向いて言ってもらえるかな」

「……なんで?」


 それぞれ、台本を持たずに立ち稽古をし始めた頃。

 座長の塚さんが演出として見守る中、私もまた客席からその様子を見守っておりました。

 まだそれほど日にちも経っていないというのに、澪さんはもう男性役に馴染んでいらっしゃるご様子。……ところで、髪型が違うと雰囲気が変わると申しますか……誰かに似ているような気がするのは私の考え過ぎでしょうか。


「ついつい動いている人の方を振り返りたくなっちゃうよね。でもね、基本的には役者が客席に完全な背中を向けるってタブーなのよ」

「意図的に演出に取り入れる演出家もいるにはいるんだけどね。顔が見えないし、初心者となると特に声も届きにくくなるからね……あれは上級者向け」

「なるほど。敵に最後まで背中を向けない武士みたいなもんだね」

「うん……うん?」


 座長を始め、ヒロイン役も主人公役も……もちろん弟役の澪さんだって、怪我をしたり危険な目に遭うといった事はなく。今のところは恙なくことは運んでおります。


「でもさ、背中でセリフを聞くって……相手がどこに立ってるか分からなくなりそうなんだけど」

「大丈夫だよ。立ち位置が重要になるシーンや照明が関係してくる場面はね、立ち位置を決めて目印の蓄光テープをステージ上に貼っているから」


 ですが、こうしている間にも犯人は次の誰かの首を狙っているかもしれない――


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