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私立・神楽椿学園探偵部の事件ノート  作者: サトル
6.神楽椿学園探偵部と鳴かないカナリア
55/71

6-4

 

「やほー。連れてきたよ」


 ――繁華街を通り過ぎ、私たちがやってきたのは駅の裏手に当たる場所。表通りの商店街より少し静かな通りには催し物の会場として用いられる貸しホールなどが入る多目的ビルが立ち並んでおります。そこは表通りの華やかさとは対照的で静かなビル街の一角。お兄さんが私たちを連れてきたのは広い舞台と、百人ほど入りそうな客席が並ぶホールのようでした。


「……伊月、来るときは事前に連絡をくれって。集中が切れる」

「まあ、いいじゃん。連れてきたぜ」


 客席は真っ暗。もちろん客の姿もありません。

 対照的にステージ上には赤々と照明が灯り、その中央には何やら演技をしている風であった男女の姿がありました。お兄さんが声をかけると、手を止め私たちの元へと歩み寄ってきました。


「――紹介するよ。こっちは “カナリア座”って劇団の座長で、(ツカ)君」

「……って言っても小さな劇団だけど。よろしく」


 なるほど。ステージ上で練習なさっていたのは舞台稽古ということでしょう。

 お兄さんに紹介された男性は丁寧にお辞儀をしてくださったので、つられるようにして私たちも頭を下げました。


「私はカナリア座で役者をやっている高橋よ。他にあと二人、井上君と平田さんっていう劇団員がいるのだけど、今ここにいないから……」


 女性の方は高橋さんとおっしゃる様子。役者というだけあってか、心なしか聞き取りやすい綺麗な声をしていらっしゃる気がします。

 座長の塚さんと合わせてもたったの二人。この心許ない人数で稽古をなさっていたということでしょうか……?

 確かに塚さんは“小さな劇団”と揶揄しておりましたが、それにしても少なすぎる気がいたしますね。ある程度の規模であるこの場所で公演なさるというおつもりならば、役者が足りない気が。……あ。


「もしかして、仕事って」


 同じ答えにたどり着いたご様子で、華澄さんがお兄さんを睨みます。

 すると、様子を眺めていた塚さんは切り出しにくそうに言いよどみ、頭を掻いていらっしゃいました。


「実は、来月舞台本番を控えている今回の脚本は、オリジナルのもの……うちの団員だった松尾という女が書いてくれたものだが……」

「だった、というのは……」

「先日、自殺してしまったんだよ」


 それだけじゃない、と座長は続けます。


「やろうとしている脚本の主要キャストだけど。まず主人公の“(ワタル)”という男と、いわゆるヒロインの女、“(ナギ)”……それと、その弟で“(レン)”。計三人の役者が必要だ。後はモブ役数人が役者として予定されている。だが……」


 脚本家の自殺に続くかのように、その翌日、続けざまに弟役を予定していた“平田”という女性が稽古中に、舞台上から足を滑らせたことにより客席へと落下……。こちらは幸い大事には至らなかったそうですが足を捻挫し、大事をとって現在は通院中との事。


「モブ役として、知り合いをつてに応援に来てもらう予定だったんだが……こうも事故が続くと、みんな不安になってしまったらしい。主役級の役をやってくれる人がいたらよかったんだけど……状況に怯えてしまってね。ほとんどが辞退してしまった」


 ――不幸事が立て続けに起こってしまうと、人はその事象に関連を見出すことで不安を和らげようとするものでございます。例えば“呪い”などと言う名前を付けて。


「平田さんの完治を待っている時間は無いし、動ける役者は私と井上君だけになってしまったの。ストーリー上、弟役を削る事が出来なくて……」

「ふむ、それで“役者”をこのあほに頼んだという事か」

「かすみん連れないなあ」


 舞台というものには全体を取りまとめる演出家――映画で言うところの監督のような存在と、主人公とヒロインが必須と言えましょう。

 座長が演出を務め、主人公とヒロインは残っている劇団員で担当できるようでございますが……。

 どうやら、座長の塚さんはお兄さんに“それ以外の主要キャストを探してくれないか”と頼んでいたようです。

 多少は謝礼金も出るようですし確かにお仕事とも呼べると思いますが……。お兄さんを介すと別の話に聞こえてきますよね。


「面白いじゃないか。……よかろう。この依頼、名探偵……水野 華澄とその手下共で引き受ける」


 ……少し、いやかなり意外でした。

 それは、ほとんど間を置かずに華澄さんが二つ返事でご承諾なさったからです。

 引き受ける、という言葉に高橋さんが安堵の表情を浮かべていらっしゃいます。そんな彼女をしり目に真琴さんは華澄さんの肩を引くと声を潜めていらっしゃいました。


「ちょ、ちょっとお前……」

「良いか、良く聞け。私達は役者のフリをしながら犯人を捕まえる。そうすれば事件も解決して、お金も手に入る。メリットしかないじゃないか」

「の……呪い相手にどうするっていうんだよ」

「呪い? 違うな、これは生きた人間が起こした事件だ」


 どうやら真琴さんは“呪い”の仕業であると思われる方であったようです。否定的な彼の言葉を一蹴し、華澄さんは鼻で笑いました。


「近いグループ内で立て続けに起きているんだ。間違いなく怨恨による犯行だ、これは」


 しかし、舞台のお手伝い……しかも役者など、やった事もないのに本当に大丈夫なのでしょうか?

 私の不安をよそに、高橋さんがいそいそと台本を人数分ご用意してくださいました。


 考えていても始まりませんね。まずはどのような話であるのか目を通すことにいたしましょう。


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