5-9★挿絵アリ
い、意見の統一か……華澄と僕たち一般人との間での折衷案を見つけることが難しいんだけど、どうしたらいいんだろう。そうはいっても華澄の意見に同意も出来ないし。
と、今後の方向性が不安になってきたけど……今はそれより現状をどうにかしないと。
華澄が復活したくらいだ、真琴もそろそろ来てくれるんじゃないだろうか? それを待てばあるいは……いや駄目だ。華澄は待つつもりがないはずだ。
華澄は楓李さんを犠牲にしてアレンさんの身柄を押さえようと考えているはず。
楓李さんは? 最善を尽くすはずだ。状況の好転を見計らいつつも、華澄が動けば自分の意志で逃走を図るかもしれない。っていうか隣で何故か当たり前のように固唾をのんでいる梅田さんが先に動きそうなくらいだ。
――って、そうだ。
各々の動きを制御すること、僕にはそんなこと出来ないけど……どう動くかは一番わかっているんじゃないか……?
ならば、まだ道はある。
「梅田さん……ぼ、僕が動いたら、貴方は玄関に走ってください。出来そうだったら、そのまま外に出て」
「警察を呼ぶのね!」
「っていう設定で……本当に呼ばれたら困るので……」
「あらやだ、そうだったわ」
梅田さんは協力してくれる。
僕がアレンさんの元へ走ると同時に梅田さんは玄関へと走り出した。
「ええ!? ちょっ……! こっちには人質が」
「ふん! だから構うもんかと――」
僕が鍵を持ったまま突っ込む。それはつまり“華澄と同意見だ”という見える形の答えになる。
華澄は僕がどうなろうと構わない。ただ、僕が動いたことでアレンさんに動揺が見える……その瞬間を狙っているだけだ。
「――今だ! 楓李さん!」
そして、楓李さんは隙をついて自由を手にする。僕や華澄がナイフにやられてしまわないようにアレンさんの手からナイフを奪った。
「しまっ……」
「そこまでだよ! 大人しくお縄に付きな!!」
勝ちを確信した瞬間――
玄関の扉が開き、妙に威勢のいい年配女性の声が広間を駆け抜けていった。
「…………なんであのおばはん、一番ノリノリなんだよ」
華澄、それに関してはツッコミたくなる気持ち、分かるよ。
「……で、風見楓李。お前は何を“勝ちましたね”的な面してそこに座っている。お前も共犯者なのだろう?」
アレンさんは無事逮捕された……という設定でこの話は終わる。ここからはいつもの日常だ。梅田さんたちもちゃんと業務に戻ったみたいだ。
だけど、結局真琴はまだトイレから生還できていない。食堂に戻って真琴を待っていると、それまで不機嫌そうに頬杖をつき座っていた華澄が口を開いた
「華澄、どういうこと?」
「ふん。……司、お前にしては察しが悪いな。順を追って説明してやろう」
再び見取り図を広げて見せると、華澄はその上を指でなぞる。今日の行動を思い出しながら続けていく。
まず、訪ねてきた僕たちを楓李さんは屋敷内に招き入れた。宝の隠し場所が玄関から見て左側にある書斎の金庫の中と確認させた後、もう一度外へ出た。……“警備員を紹介する”と。
「この間、屋敷内へ正面から侵入するために必ず通らなくてはならない“庭”の警備ががら空きとなる。正面の玄関を楓李が空けたままにしているのだから……アレンは堂々と正面玄関から侵入が可能となる」
次に、屋敷内へ戻ると楓李さんは食堂から厨房へと誘い、使用人梅田さんを招き引き合わせた。
「この間、トイレ、もちろん二階にだって……いくらでも潜伏が可能な部屋があるが、一度停電をしている。厨房への移動を考えるとするなら、使用人室に潜んでいたと考えられるな」
そして、停電時も楓李さんは“僕と一緒に行動をしよう”と指示を出した。
「ここまでの風見楓李の行動、これは視線誘導だ」
視線誘導……古典的で雑な例えを出すとするなら、“あんなところにUFOが!”と空を指さして視線をそらした隙に都合の悪いものを隠す。
人は、目の前にある全てを見ているつもりになるが、実際はその全体を把握できはしない。
それが心理的に興味のないものであったりとか、逆に強い興味を抱く存在以外に対してはぞんざいな記憶となることがあるんだ。
もっとさり気ないところだと、例えば右手で指を鳴らし意識を向けさせた隙に左手でトランプを隠すとか……マジシャンが良く使う手法。
「はあい、ボクマジシャンです」
「……そういえばそうだったな」
「忘れてたんですか」
もちろん、全ての人がうまく誘導されるとは限らないわけで。これは博打的なトリックといえる。あえてそれを実行して見せた、というの? ……楓李さんは何も答えない。
「ふん、だんまりか。だがな、現に貴様は私と真琴に毒を盛った!!」
華澄が机を叩く。その姿はまるで熟練の刑事のようだ。
「これはもう言い逃れが出来まい! あの毒のせいで私はまだ口腔内がピリピリしている!」
堂々としている。完膚なきまでに論破したと言わんばかり、なんだけど……。
「か……華澄、あれは毒じゃなくて普通に楓李さんのもてなしだよ」
悪意の行為ではなく、あれは楓李さんの善意だったんだ。ただ、ちょっと。いや結構、かなり、相当味覚が、その人と違っているだけっていうか。そこだけは訂正してあげた方がいいよね……。
“あんなくそ不味い暗黒物質が?”なんて華澄は味を思い出した様子で眉間にしわを寄せていた。
「……華澄さん、その推理は全部外れですわ」
それまで口を閉ざしていた楓李さんが、ふと立ち上がった。
「前もって警備員さんや使用人の方に皆さんの名前だけはお伝えしておりました。ですがよくよく考えたら“顔も知っておいてもらった方が動きやすいんじゃないか”と後から考え直して、それでご紹介したのです」
それは反論だ。……目の前で“くそ不味い”と評されたことに傷付いたんじゃないかと心配をしたんだけど……。そうではなかったようで安心したような、懲りてほしかったような。
「私の家ですから仕切ることも、警備を強固にしておくことだって可能でした。ですが、あくまで全体の訓練。……あえて不完全なまま、お三方の意見を伺うことが重要だと考えたのです」
「し、しかし……だったら、なぜアレンは容易く屋敷に入りこめた!? あれが毒じゃなくて、わざとじゃなかったとするならアレンは偶然うまくいったということになる」
ど、どっちが正しいんだろう。ここまで聞く限り、僕は華澄の推論が自然だと思った。
確かに、今思うと楓李さんはあえて隙を作っていたような、と。だけど、矛盾もしているんだよね……。
「華澄……その推理、途中までは筋が通ってるんだけど、それだと最後は通らなくなるんだ」
「どういうことだ?」
そう。……梅田さんが人質に取られた時、楓李さんはアレンさんに鍵を渡すと見せかけて僕に投げた。
「本当に共犯だったら、“それを持って逃げて”なんて言えないと思うんだ」
共犯だったら、そのまま鍵を渡してしまえば簡単な話。途中に不自然があったとしても、あの時の楓李さんが確実に勝算を見出そうとしていたのは事実だ。
「じゃあ、私が考え過ぎたというのか? この私が?」
「アハハ、そういうときもありますヨ」
納得できていない様子の華澄が首を傾げている。そんな華澄の頭をアレンさんがポンポンと撫でるように叩いていた。
「――俺が舌のびりびりと戦ってる間になんか解決してる……?」
真琴がようやく生還したみたいだ。今回はただトイレに籠っているだけだったね……。
ともあれ、これで本当に一件落着、かな……。現実じゃないとはいえ、妙に緊迫していてなんだか疲れた。こんなことが現実で起こらないことをただ祈るばかりだ……。




