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「僕が、あの人も助ける。……だから」
金庫の鍵を持っている楓李さんなら、動いたとしても“要求に従っただけだ”と思わせる事が出来る。うまくいけば、隙が生まれるかもしれない。
う、運動は苦手、だけど……隙が生まれた瞬間にぶつかっていけば、刺し違えてでも梅田さんくらいは助け出せるかもしれない。
「――いえ、そうはいきません!」
「はひ!?」
と、覚悟した瞬間。思ってもみなかった言葉と、小さな金属のようなものが額に跳ね返ってきた。思わず変な返事をしてしまい、とても恥ずかしくなる……。
「梅田さん、巻き込んでしまってごめんなさい! ……どうぞ、仕事に戻ってください」
額にぶつかってきた小さくて冷たい金属はチャリン、という音を立て床に落ちた。拾い上げると……それは金庫の鍵だった。
「逃がしませんヨ!」
僕に鍵を託した楓李さんはそのままアレンさんの元へ飛び込んでいたらしい。アレンさんが梅田さんの首を切るより少しだけ、楓李さんのアクションの方が速かった。羽を手にしたアレンさんの手首をつかむと、梅田さんの背中を押す。
……だけど、アレンさんもそのまま逃がしはしなかった。指先で弄ぶように羽を持ちなおすと、その羽先を楓李さんが掴んだままの腕に突きつける。
――そう、代わりに楓李さんが人質に取られた格好だ。
「ふ……」
「楓李様!! 私なんかの身代わりに……!」
解放された梅田さんが声を上げている。……さっきから思ってたけど、意外とこのおばさんノリノリだよね……。
「――どうやらこの勝負、ボクの勝ちのようですネ」
どうしてこうなってしまったのか。この状況になってはもう、どうあがいても勝機が見えない。
僕が一旦従うふりをして隙を伺い、何か行動を起こそうにも一人ではやれることが限られてくる。人質の身に危険が及ぶリスクの方が圧倒的に勝っているんだ。
「司君! ……分かってますよね。それを守りきること、それが貴方達探偵部の依頼内容のはずです」
分かっている。……楓李さんは、僕の身体能力を鑑みた上でこの選択をしたんだ。瞬発力に欠ける僕が“一瞬の隙をついて人質を救出する”なんて、現実的に難しいと判断した上で僕に鍵を託した。
「……屋敷の外に行けば、警備員の方がいる。警察を呼ぶ……という設定も使えます! だから……」
だけど――
「出来ない! ……確かに、依頼を……この宝を守ることは何よりも大事。でも、楓李さんの……探偵部の仲間の命の方が何よりも大事!」
誰かを犠牲にして、なんてそんな形での勝利なら僕は負けていい。
「主人公みたいなコト言いますネ。ですが、無謀デス。貴方一人で何ができるというのですか」
「――一人、ではないぞ」
その時、食堂の方向から声が聞こえた。
時に“うるさい”とさえ思ってしまう高い声。だけど、この時ほどこの声を心強いと思ったことはなかった。――華澄だ、復活したんだ!
アレンさんは僕の事を“主人公みたい”と言ったけど、今の華澄の方がよっぽど……。
「そ、それ以上近付かないで下さい! 近づいたら、あなた方の大事な仲間の首が飛び」
「致し方ない」
「え」
「私たち探偵部の本懐は“何に変えても依頼を完了させること”だろう。一人や二人犠牲が出ても致し方ないというもの。名誉の死というものだ」
……前言撤回しよう。
「…………最低でも部内では、意見は統一させておくことをお勧めしますヨ。ボクは」
華澄は華澄だよね、うん。




