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「ところで、お姿が見せませんでしたが、どちらに行っていらっしゃったんですか?」
「あ、ああ……えっと、ちょっと広間の方で梅田さんとお話を」
とりあえず全滅を避けられた。華澄達も少ししたら復活するかもしれない。……そうポジティブに考えるしかない。倒れてしまった椅子を元に戻していると楓李さんが首を傾げる。
ああ、そうそう。玄関の方で待機をしているであろう梅田さんにも状況を伝えておかないと……。
次に取るべき行動を思案していたその時――視界が薄闇に包まれた。
「て、停電……!?」
僕たちがいる食堂だけではないようだ。開け放されたままのトイレも、厨房も――
照明という照明すべてが消えてしまっていた。ホールの方から梅田さんの“あらま!”なんて声も聞こえてくる。……まあ、とはいえ窓の外からは穏やかな日の光が差し込んでいるのだから、まったく何も見えないというほどではないのだけど。
この展開は創作物でよく見るやつだよね……。明かりを消して、人々の注意をそらした隙に……なんていうお約束だ。だけど、いつの間に侵入したんだ……?
どうしよう。まさかどこにいるかも分からないアレンさんに“華澄と真琴がトイレから戻ってくるまで休戦で”なんて言えない。僕と楓李さんだけでどうにかするしか、ないのかな……?
「ブレーカーは隣の厨房です! ……アレンさんがまだそこにいるかもしれません。単独行動は悪手でしょう」
……っと、僕は考えもまとまらないままだったのに楓李さんはもう行動を決めたみたいだ。だけど、彼女の提案に異論はない。っていうか、僕一人でアレンさんと対峙しても多分何も出来ないし……。
楓李さんの後を追い、厨房へと引き返す。だけどそこにはもう人の姿は無いようだ。
壁に埋め込まれていた鉄の扉を開けると、楓李さんはブレーカーのスイッチを切り替える。冷蔵庫か何かのものと思われるモーター音が耳に付き、同時に光が戻ってきた。
そして、それと同時に――
――梅田さんの悲鳴が屋敷中に轟いた。
「――おっと、それ以上近づかないでくださいヨ」
その悲鳴は吹き抜けの広間から聞こえていた。恐らく梅田さんは僕が指示を出した後からその場を動いていなかったんだろう。
「それ以上近付くと、首をブシャっと……っていう設定デス」
……梅田さんのようにごく普通の女性を一人きり残してしまったのは迂闊だった。楓李さんの動きが止まる。――目の前には、首元にナイフ……の代わりだろうか? 果物ナイフほどの長さの鳥の羽が揺れていた。
「か、怪盗って、普通人の命とかは盗まないものじゃ」
でもこんな展開になるなんて想像もしていなかった。できるわけがないよ。
自分より弱い存在を盾にするなんて。怪盗っていうよりこれじゃ“強盗”だ。思わず僕が口走ってしまった言葉をアレンさんは聞き逃さなかったらしい。腑に落ちなかった様子で首を傾げている。
「んー? ……だって、誰も“怪盗”をやって、なんて言ってなかったですヨ」
あ。そういえば、そんな気がしてきた、ような……。
元々の雲雀さんの提案は“宝を盗むアレンさん”と“守る探偵部”って設定だったから、そういうことだと僕は思っていたけど……。でもみんな多分そういう認識だったよね?
僕の前に立っている楓李さんは振り向かないままだ。
「ボクは“宝を盗む”……奪えるものはすべてこの手に。自分が欲しいものを自分の思うがままに」
アレンさんが口角を吊り上げてにやりと笑う。真に迫っているというのだろうか……手にしているのはただの鳥の羽であるはずなのに、なんだか人を殺していそうな気さえして怖くなった。
「さあ……お嬢さん、この使用人の命が惜しければお宝、“乙女の微笑み”を持ってきてください。引き換えにこの方はお返ししますヨ」
相手はナイフを持っている。……僕と楓李さんがそれぞれ離れた場所に立っていたならば、片方が後ろに回りこむなどして注意をそらし人質を救出できたかもしれない。
だけどそうもいかない。目の前にいる楓李さんとすぐ後ろの僕……アレンさんのいる場所から一本の線で結んでしまったような位置関係では、一歩たりとも動くことが出来ない。
怪しい動きが見えた瞬間にアレンさんは梅田さんを手にかけるだろう。
かなり厳しい……どうあがいても負ける未来が見える。
「楓李さん……鍵、持ったままだよね? ……そのまま、逃げて」
「え……」
――だけど、あがくしかない。意を決して吐き出した言葉は、自分でも驚くほどスムーズなセリフとなって紡がれていた。




