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外から見えていた通り、この屋敷は二階建ての洋風建築。僕たちが今いる場所――広間は二階までの吹き抜けとなっているらしい。玄関の上に当たる二階部分には大きな窓があり、ちょうど差し込んできた光がスポットライトのように広間の中央に線を描いている。
「普段は左右対称になった階段のちょうど中央、食堂へと続く観音開きの扉の上に飾っておりましたが……予告状を受け、玄関から見て左にあります父の書斎もある金庫へと移しました」
「鍵は?」
「私が持っております。……中身を確認しておきましょうか?」
きょろきょろとあたりを見渡している真琴をよそに、華澄は淡々と話を進めていった。
――書斎に変わったところはない。ここにも庭が見える大きな窓が二か所ついているけど、内側から鍵をかけてあるらしい。机のわきにある小さな金庫を楓李さんがカギを用いて開けて見せる。中には確かに大きな卵みたいな形をした石が入っているのが見えた。
「何かお気づきの点はございますか?」
「……来た時から思ってたけど、この家、窓がでかくね? ほら、二階の玄関の上んとことかとくに。俺でも簡単に侵入できそうなんだけど」
金庫を再び閉じると、楓李さんは睨むような華澄の視線を受け取り微笑んだ。ここまでざっと見た限りになるけど……真琴が言う通り、この屋敷の窓はどれも大人一人くらい余裕でくぐり抜けられそうなほど大きいと思う。
「ガラスは大きいですが、窓枠は固定されております。全開にしても猫一匹通るのがやっとでございます。それに、ガラス自体も通常より強度に優れた素材を用いております。ちょっと叩いた程度では割れたりしませんし、割った時点で防犯装置が働きまして警備員が駆けつける仕様になっておりますわ」
……ああ、なるほど。見た目の通りに全開できるわけではないという事だね。
「……あ。警備員の方をご紹介しておきましょうか」
他に確認しておく箇所はあるだろうか? そう思考を巡らせていると、楓李さんは思いついたように手を叩く。何か思案している風の華澄と、屋敷内をきょろきょろと見まわしていた真琴を手招きすると、楓李さんは再び玄関の大きな扉を押し開けている。
……どうやら外を巡回している警備員と引き合わせようという事らしい。……自己紹介は苦手だから室内で待っていたいんだけど……だめだ、楓李さんに呼ばれてしまった。
「――高橋さん、茂木さん!」
「ああ、お嬢様。こちらがお話になっていた……」
「はい、探偵部の部長、華澄さんと副部長の司くん、そして同じ部員でいらっしゃる真琴さんですわ」
庭の隅にいた警備員さん達の元へいざなうと、楓李さんがそう紹介をしてくれる。良かった、名前を自分で言わなくて済むだけでも気が楽だ。だって頭を下げるだけで良いから……。
「……俺は部員じゃないっていうか」
「貴方が噂の真琴さん? お嬢様がいつも楽しそうにお話になってますから噂はかねがね」
「え? マジっすか、いやそんな照れるな」
茂木さんも高橋さんも、さほど若くは見えない。四十代くらいといったところだろうか?
だけど、スポーツでもやっているのかもしれない。日に焼けた黒い肌に白い歯が光っている。
そこに並んでも全くそん色のない真琴って中々に男らしい体格なんだな……。巨木の集まりがそこにあるようで、矮小な僕からすると少し羨ましく思う。
「おい。無駄話はもういい。食堂へ戻るぞ」
「あ、そうですわね……お仕事の手を止めて申し訳ありませんでした」
華澄は早く室内に戻りたいらしい。楓李さんの背中をつつくと、眉間にしわを寄せた。
「奥に扉が付いてるみたいだけど、ここはどうなってる?」
そうだ。僕も気にはなっていたんだ。
見取り図で見る限り、玄関から見て左奥の部屋に勝手口のような扉が付いている。隣に食堂があるということもあり、恐らくそこは台所……厨房と言った方が良いのだろうか。
「実際に行ってみましょうか。ついでにもう一人、中を見てもらっている使用人の紹介もしたいですし」
楓李さんに連れられ、僕たちは再び屋敷の中へと戻っていった。
「――いたいた。こちら、室内の清掃等を請け負っていただいている梅田さんでございます」
「あらー! べっぴんさんばっかりね~! お兄さん、モテモテじゃないっ」
「俺? いやいや水野は別に」
厨房の戸を開けると同時に、中からは女性の甲高い声が飛び出してきた。梅田さんはこの屋敷内の清掃や雑務を一手に担っているそうで、五十代程のふくよかな女性だ。……使用人、というよりは家政婦さんと呼ぶ方がイメージに近いような気がする。
こういう妙齢の女性特有のテンション、と言ってしまっていいのか……とにかく、これがまた苦手なんだ。真琴がいてくれて良かった。梅田さんと目があったけど、僕は真琴の影に身を潜めることで逃げださずに済んだ。
「……おい、多分司も“べっぴんさん”の方にカウントされてる。お前は良いのかそれで」
良くはないけど、戦う強さなんて持ってないからもうそれで良いです。




