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私立・神楽椿学園探偵部の事件ノート  作者: サトル
5.神楽椿学園では事件が起きない
45/71

5-4☆挿絵アリ


 そうして、ようやく話しがまとまり……僕たちは模擬訓練に関するルールを以下の通り定めた。

 一つ、お互いに危害を加えない事。


「痛いのは嫌ですもん。例えばボクが“催涙スプレー”って言いながら何か噴射するそぶりを見せたら、皆さんは浴びたつもりになって行動をしてもらうってことですネ」


 一つ、破綻した設定を持ち込まないこと。


「模擬とはいえ、あくまで訓練でございます。現代の文明を超越した、想像上の装備品はもちろんことですが、今の私たちが所持することの叶わないような品を持ち込まない……と」


 あくまで今の自分自身が事件に遭遇したという設定で臨むという事。


「まあ、そうだよな。突然超人設定盛り込んで“ビーム撃てるぜ!”とか“バリア貼れる”とかガキな事言いだしたら、訓練じゃなくてごっこ遊びだ」


 そして何よりも大事な事は――


「周りの人に迷惑をかけない……」


 こちらは“設定”のつもりでも、周囲の人を巻き込んでしまっては、それは本当の“事件”になりかねない。ルールの範囲内で訓練をしないと。これが原因で廃部になっては本末転倒だ。


「でしたら、舞台として私の家を使いませんか?」

「あの阿木(アキ)町にあるお屋敷か。……確かに、あの豪邸ならば舞台にはうってつけやもしれんな」

「ええ。休日は家に人がおりませんし、物を壊したりしなければ問題ありません。……なぜ華澄さんが私の家をご存じでいらっしゃるのかは置いておくとして」


 当たり前みたいに部員然としているけど……この楓李さんは、元はと言えばこんな僕たちなんかとつるんでいていいような身分の人じゃない。名実ともに、折り紙付きのお嬢様なんだよね……。

 家を使わせてもらう、だなんて本当に怒られたりしないんだろうか?

 僕は不安でしかなかったけど、他の人は全然気にしていないようだ。


「おっけーですヨ! ではでは、あとは盗む品物と、あと間取り図もお貸しいただけたらボクも考えてきます!」


 僕の不安を置き去りに、話はまとまっていった。

 次の週末、土曜日……。半日の授業があるその日に決まったんだ。



「皆様、ようこそお越しくださいました。私がここの主、風見 楓李と申します」

「……早速役を作ってる」


 土曜日。

 僕と華澄、そしてなんだかんだで結局参加した真琴と。三人は風見家のインターホンを鳴らした。

 “役作りが必要ですから”と先に帰っていた楓李さんは――私服なのだろうか? それともこれも役の為? ……白いワンピースに淡い浅緑色のショールを纏った“いかにもなお嬢様ファッション”で出迎えると、僕たちを招き入れた。


 高い囲いの内側には、季節の花々と青々とした木々が整然と並んだ綺麗な庭が広がっている。

 僕はそこまで植物に詳しくはないけど……桜の木と、その隣には少し背の低い椿の木が。反対側には楓の木もあるみたいだ。中央にまっすぐ伸びている石畳の奥には堂々とした大きな玄関が見えた。


「これが予告状か」

「ええ、昨夜郵便受けに入っていました」

「郵便受け……そこの門、インターホンの下についていたあれか?」

「はい」


 学校帰り、そのままここへ来たから……僕たちは制服姿のままだ。この時点で真琴は楓李さんの本気度に気圧されてしまっているみたい。一方で、どんな格好をしていようとも華澄は堂々と役になり切っている。

 ……っていうか、あれは素かもしれない?

 楓李さんが広げて見せた予告状を、腕を組んだままの華澄が視線だけ落としている。華澄に倣って予告状――小さなポストカードのようなそれに目をやると、綺麗とは言えない丸い文字がそこには並んでいた。


「本日、宝石“乙女の微笑み”を頂戴する――」


 どうして怪盗が目を付けるお宝って“涙”とか、そういった類に例えられるのだろうか。……まあ、そんなことはどうでもいいけど。なんていうか……アレンさんも何気にしっかり役を作りこんで挑んでいるんだね。


「おい主。この“乙女の微笑み”とやらはどこにある」

「……こちらでございますわ。普段は吹き抜けの大広間に飾っているのですが……あ、見取り図があったほうが分かりやすいですわね」


 華澄がいつになく真剣に取り組んでいるような気がする……触発されたのだろうか。

 僕も、そして真琴もきっとまだ乗り切れていない。何となく気恥ずかしさがあるというか……。そんな僕たちの憂いなどどこ吹く風。楓李さんはこなれた様子で一枚の図面を広げ、華澄の手に託していた。


挿絵(By みてみん)


「この見取り図を見ていただけたら分かるかと思いますが、今私たちがいるのはこの一階中央。二階へと続く階段が奥にみえる吹き抜けの広間となっております」


 促されるがまま、僕たちは屋敷の玄関へと足を踏み入れる。円柱のような形で屋敷の中央、少しはみ出した形の玄関で靴を脱ぎながら楓李さんは図面を指さした。


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