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私立・神楽椿学園探偵部の事件ノート  作者: サトル
4.神楽椿学園で青春を
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4-9


 ……全てがつながった。

 犯人の男は、まず遅くに帰る部活生などの女を見繕った。

 歩道もない狭く、街灯もない薄暗い道に差し掛かると、犯人はターゲットのすぐ傍へ車を寄せる。

 そして、扉を開け、強引に女を引き込む。中には澪のように車自体と接触してしまう者もいたのだろう。だから運転席側にだけ、無数の擦り傷、軽度のへこみが見えていたんだ。


 そして首を絞め、女が抵抗すら敵わなくなったころ合いを見計らい――


「ここ、旧用具倉庫に連れ込み、行為に及び……そして殺害を繰り返していたということだな」


 人気のない時間帯に、倉庫内から聞こえていた“男の呻くような声”の正体は、まさにその時行為に及んでいる最中だったということなんだ……。



 ――到着した警察官たちの手により、男の身柄は確保された。

 あくまで、今まで水野が立てた推理は推論の域を出ないらしい。だが、少なくとも澪への傷害容疑だけはこの場にある事実。……と、いう趣旨で風見は通報していたらしい。澪が目覚めたら、改めて証言も出来るであろうと。抜け目がない。

 そう、被害者本人による“連れ去られそうになった”という証言は水野の証言を裏付ける何よりの力になるんだ……って、あれ。そういえば。


「……もしかして。水野、お前がこの前小学生を恐喝してたのって――」


 “恐喝とは失礼な”と水野が眉間にしわを寄せて怒りを露にしている。だけど怯える小学生の女児を追い込んでいる風の水野の姿はどう見ても恐喝しているようにしか見えなかったから仕方ない。

 ……しかし、恐喝の方がまだ可愛げがあったのではないだろうか。嫌な汗が背中を伝う。

 対する水野は妙に得意げな顔で口角を吊り上げていた。


「部活や塾で帰りが遅い日があり、ここ半年の間に学校を一定期間休んだ“疾患持ちではない”健康な未成年の女。その中でも特に大人しい性格をした者を風見楓李に洗い出させ、該当しそうな女を私が直々に問いただしたのだよ」


 “教育委員会と、あと医師会にも伝手がございましたから”なんて風見が言いよどんでいる。そんなことはどうでもいい。そうか、あの時の小学生が怯えていたのは水野に対してじゃない。


「いや、そういう事じゃなくって……それ、セカンドレ……」


 水野によって無理矢理に想起させられた“トラウマ”に。きっと忘れてしまいたいであろう“犯人の記憶”に怯えていたんだ。


「真琴は馬鹿なのか? 話したら殺すと脅されていたのだから犯人を捕まえてしまえばもう殺されることもないだろう。だから話せば良いんだ」

「いやいやいや、話すことでトラウマが蘇ることとかさ、もっと配慮ってものを」


 そういえば、俺が声をかけた瞬間、女児は特に怯え切っていた。それはきっと俺が、犯人と同じ男だから。……俺も無神経にあの子を傷つけてしまった、それは反省したいけど……水野も同じくらい反省すべきだろう!?


 風見が“落ち着いてください”と俺の腕を引く。だけどこれが落ち着いていられるか? 俺には無理だ。だって、いくら水野が“謎だけを解きたい”のだとしても、その行為によって傷つく人がいちゃいけない。


「くだらない」

「は……!?」

「トラウマが何だ。殺されたものはトラウマを乗り越える機会すら奪われたんだ。それだけじゃない。“トラウマだ何だ”とそいつをちやほやしている間にもトラウマを負いながら死んでいく女が増えていく。それは構わないのか?」

「それは……」


 ――言い返す言葉が見つけられないでいた俺の背中を、また誰かが摩り始める。……綾城が、俺を慰めようとしたらしい。


「……だけど、水野のやり方には賛同できない。……いつか、水野は、誰かの恨みを、悪意を買うと思うんだ……」


 俺に背を向けると、水野は風見に何かを言い残して立ち去っていく。

 やっぱり、謎を解いた段階であいつの中では事件は完了していたんだろう。救急車へと運ばれていく澪には目もくれず闇の中へ消えていった。



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