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私立・神楽椿学園探偵部の事件ノート  作者: サトル
1.神楽椿学園にようこそ
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1-3☆挿絵アリ

 

 ……っていうか、この変な女がこんだけべらべら喋り倒しているというのに、女生徒どころか男子生徒、先生すら来やしない。

 そういえば廊下がにわかに騒がしいような? ……などと考えていると、不意に視界から女が消え、膝に触れる少し冷たい感触が俺の意識を強制送還させた。


「な!? な?」

「筋肉量低下に伴い自然と足が開いてしまう生理現象とは違うな。あえて足を広げて座る、この心理は“自分を大きく見せたい”とか“相手の気持ちを汲み取る事が苦手”といった……いわば威嚇(イカク)行為のようなものか?」

「は……」

「因みに自然と足が開いてしまう男の心理として“リラックスしている”場合もあるが……君は腕も組んでいる、しっかりと。これは“自分を守りたい”という、解釈の方が近しいだろう」


 水野は立ち上がり、俺のテーブルに両手をつく。

 めっちゃ自信満々な顔をしている。顔は可愛いので見つめてくるのはやめて頂きたい。


「以上から読み解くに、君は“緊張しているが、周りにはそう思われたくない。自分を強く見せておきたい”と思っているはずだ。……見た目は不良のようだが、実は真面目だったりしないか?」

「う」

「だから、そんな君が“トラブルの元となりうるような行動を取るだろうか”と考えたのだよ!」


 ――悔しいが、百点を上げたいくらいの回答だった。

 確かに勉強は全く駄目だ。だがその分真面目に部活に取り組んだんだ。だからこの高校の推薦を出してもらえたんだ。

 “ちょっと危険な方がモテる”と聞いて、悪い方に進んだ諸先輩を見習ってみたつもりなのに。

 こんなちんちくりんな女に言い当てられるなんて。


 丸眼鏡が“そうなの?”とでも言いたげにこちらを見てくる。

 うるせえ、仲間を見つけたような目で見るな。喋ってないけどつぶらな瞳がうるせえ。


「……はあ、もう分かったよ。水野だっけ、あんたはすごい。賢い。……だからそろそろ理由を教えてくれよ」

「ふふふん! その言葉を待っていたよ!」


 ――水野が片手を広げ、どこぞの紳士のようなしぐさでお辞儀をしたその時。

 外で聞こえていたざわめき声が教室の中へとなだれ込む。


 ざわめき声のほとんどは女生徒のものだったらしく、教室内は一気に華やかな女子のにおいに包まれた。

 天国が存在するとすればこのような光景か、と心音を高鳴らせていたのもつかの間――


「――いい加減に……眼鏡、返して……僕を、殺すつもりなの?」


挿絵(By みてみん)


 ざわめき声の先頭にいたのは女生徒に追いかけられていたと思しき一人の男……いや女?

 とにかく中性的でこれまた綺麗な顔をした生徒が小さな声で何かつぶやく。そして水野がかけていた眼鏡を奪い取ってそのまま背後へ隠れてしまったのだった。


「お帰り。相変わらず見事な“客寄せパンダ”っぷりだ。収穫はあったか?」

「死ぬ……無い……何もない、ただ僕がストレス性の何かで突然死するだけ……とりあえず、返して」

「ちっ役立たずめ」


 猫背気味ではあるが、それでも水野と比べると背が高く見える。

 ハーフなのか何なのか知らないけど顔の彫りも深いし、まつげも長く猫みたいにぱっちりとした目をしてやがる。身にまとっている真新しい制服は俺と同じデザイン。つまり同性ということだ。……こういうのを美少年というのだろうな、いかにもモテそうな顔をしやがって。


 水野から奪い返した眼鏡をかけると、ようやく美少年の震えが収まったようだ。

 不思議なもので水野が眼鏡をかけてた時は“知的美少女”って感じだったのに、こいつがかけると根暗なオタクの面構えになった。天然パーマなのか何なのか知らないけど、黒いわかめみたいな頭してるせいだろうか。


「――あれ? 今ここにイケメンがいた気がしたんだけど……」

「気配が消えた」


 “美少年だったもの”がオタクの面構えになった途端、取り囲んでいた女生徒は憑き物が取れたように霧散していく。うーむ、無常。

 ……もしや、この教室から女子が居なくなっていたのかこのオタクのせいだったのか?

 確かに同性ながらに目を惹く顔立ちだとは思ったが。少しずつ埋まっていくクラスメートたちの席を眺め、俺はそんな結論を導き出した。


「……そう、この男は眼鏡を外すと、アイドル顔負けの綺麗な顔で人を引き寄せてしまうのだよ、笛こそ持っていないが、“ハーメルンの笛吹き”のようにね」


 なるほど。確かに眼鏡を外していた時のこいつは華があるというか……どこかでアイドルをやっていてもおかしくないオーラがあった。


「華澄、誰と喋っ……人がいた!? もう無理はい死ぬ、今死んだ」


 ……喋るとダメだな、こいつ。



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