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私立・神楽椿学園探偵部の事件ノート  作者: サトル
4.神楽椿学園で青春を
36/71

4-5☆挿絵アリ


「なんや、最近まこちの肌ツヤよろしない?」


 俺の幼馴染でもあり、家も近所の沙綾と途中まで一緒に登校をしている。学校のやつらに見られると誤解が生まれるから、途中までだ。


「……沙綾が荒れてるだけだろ」

「しっつれいな~! ふーりんと同じ化粧水使いよんやで? むしろ最近はええほうや!」


 そういうと沙綾は自分のほっぺたを包み込むように両手で覆っている。悪いけど、お前の長くて原色の派手な爪に目が行ってしまって肌がどうとか良く分かんねえよ。っていうか。


「……いつの間に仲良くなってんだよ。っていうかお嬢様に悪影響を及ぼしかねないからお前は仲良くなるな」


 さり気に口をついて出た名前。聞き逃すところだった、危ない危ない。この馬鹿、いつの間にか風見の事を“ふーりん”呼ばわりし始めてたぞ?

 風見と言えば言わずと知れた生粋のお嬢様。清純でしとやかなお嬢様と下品でがさつな沙綾とじゃ月とスッポンだ。


「ほー? なんや、せっかくまこちの為にうちが気をつこーてんのに」

「どういうことだよ」

「あーいう清楚な可愛い子、まこちのタイプやん?」


 沙綾がにんまりと笑ってるときは大体下世話な事を考えているとき。これはもうわかりやすすぎて口にも出したくない。


「おま、そういう目で友達を見定めるなっつの!?」

「えーでもタイプやろ」

「ぐ……」


 流石に幼稚園からの付き合いだけあって、俺の事をよく知っている。俺の初恋から思春期を隣で見てきただけのことはあり、俺の好みを掌握してやがるんだ。

 ああそうだよ、確かに俺は女優の高良 京さんのように清楚で、奥ゆかしくも凛とした強さを持った女性に惹かれる。風見はまさにそういった意味で理想的な女だといえるだろう。


「最近肌ツヤがええんは、恋の力ってやつと違いますかあ? 最近うちが帰り誘っても一緒に帰りたがらんのは、よろしくやってるからと違いますかあ?」

「こ……いや、別にそういうんじゃ」


 下品な笑い声を含ませたまま、沙綾が俺の肘辺りをつつく。“恋の力”という言葉が妙に胸に刺さった。


 いや、これは風見に対して、というよりは――


「およ。あそこにいるのは……」

「え!?」


 ふと、俺の思考を遮るように沙綾がつぶやいた。噂をすれば何とやらという言葉がある。まさか……


「って。水野じゃん。脅かしやがって」


 沙綾の視線の先にいたのは“脳裏によぎった彼女の姿”ではなかったようで俺は胸をなでおろす。


「何してるんやろ」


 目の前には公園がある。ブランコと、よくわからないタコみたいな宇宙人みたいな滑り台と砂場と公衆トイレがあるごく普通の公園だ。公衆トイレのほど近くにはベンチもある。

 俺達と同様、学生は学校へと向かっている時間帯。そんな中、水野は何がしたいのかベンチの上に立ち――目の前で立ち尽くしている小学生と思しき女児を見下ろしていたんだ。


挿絵(By みてみん)


「……小学生を恐喝しているようにしか、俺には見えねえ」


 高校入学からの数か月というわずかな時間ながら、俺はもうすでに“水野 華澄”という女の危険さを十分に味わっていた。通訳とかクッション材とかそういうのがいないと、水野単体とはろくに会話も出来ないんだ。水野は口を開けば犯人扱いか部への勧誘かのどちらか、その上正義感のような感情は持ち合わせていないらしく“思い描いた推論をぶつけてしまえばそれで満足してしまう”という厄介極まりない性格。日常の世間話とか、娯楽的な会話が一切できないんだ。


「おい、水野。どう見てもこの子怯えてるけど何してんの」


 水野を見上げていた女児は明らかに震えていた。俺が割り込むと、女児は驚いたように肩を縮み上がらせた。その表情には“恐怖”が張り付いている。……可哀そうに。


 俺と目を合わせると同時に、女児はどこかへと走り去ってしまった。まあ、“ここにいたくない”って顔をしていたから……変に追い回して余計なトラウマを増やすよりそっとしておく方があの子の為か。


「……なんの用だ」

「いや、それこっちの台詞。水野……学校にも行かず何やってるんだよ」


 追いかけようとしていた水野を制していると、遠巻きに眺めていた沙綾が隣に並んだ。

 水野は“邪魔をされた”と言いたげに眉を吊り上げている。なんでこうも悪役然としているのか。


「ふん、真琴に話したところで事件は解決しない。お前の好奇心を満たしてやるほど私は暇ではないのだ。ではな」


 まるで“深入りされるよりは、引いた方がマシだ”とでも言いたげにため息を落とすと、水野は傍らに転がっていたカバンを拾って公園を後にした。


「何なんだあいつ……」

「さあ」


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