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私立・神楽椿学園探偵部の事件ノート  作者: サトル
4.神楽椿学園で青春を
34/71

4-3☆挿絵アリ


 いつもより人数が少なかったせいで、すっかり遅くなってしまった。夏の初めだというのに日が落ちてしまい辺りは真っ暗。


「今日は風見、見当たらないな」


 部室から荷物を回収した俺は、裏庭を見渡してみる。ここのところは例の“幽霊”に関する調査を続けているらしい。

 ちょっとした世間話が俺のささやかな癒しになっていたのだが……薄暗い広場に風見の姿はない。流石にもう、風見も帰ってしまったのだろうか。


 静まり返った裏庭。その片隅にある倉庫……例の話を聞いたから、というわけではないがなんとなく嫌な感じはする。別に幽霊が怖いとかそういうのではなく。


「きょ、今日は(ケイ)さんのドラマ再放送があるんだった、よし早いとこ帰ろうそうしようそれが良い」


 ……べ、別に幽霊が怖いとかそういうのではないんだけど、そうだ。俺は早く帰りたいんだ。

 荷物を抱えなおした俺は足早に学校を後にした。



 いつもの帰り道を一人足早に歩いていく。

 俺の家は駅にほど近い、人通りの多い場所にあるが……その道中には車一台通るのがやっとの人気の少ない通りもある。くどいようだが別に幽霊が怖いとかそういうわけではない!


 街灯が弱々しい光を落としている通りに差し掛かった頃、俺は一人の女とすれ違う。真っ白な髪の毛がサラサラと肩のあたりまで垂れているから最初は老婆かと思った。だがその割には背筋が伸びているというか……女性にしては背も高い方だろうか。見るなという方が難しいような目を惹く人だ。いつもより遅い時間に帰っているからだろうが、今まで見たこともない人だった。


 すれ違いざまに女はポケットから小箱みたいなものを取り出したらしい。それと同時に携帯ストラップのようなものが落ちたのだが、彼女はどうやら気付いていないようだ。


「お、落としましたよ。あの!」


 とっさに俺は声をかけた。前に沙綾が言ってたけど、彼女が落としたストラップは“幸運を呼ぶ人形”とかいう流行りのものだったから。こういうの無くすと、運まで無くしたような気持ちになって余計にへこむって思ったから。


 振り向きざま、女は怪訝そうに眉をひそめていた。よく見ると、彼女は思った以上に若そうだ。そしてすごく整った可愛い顔をしてい……じゃなくって。いや可愛い顔をしているんだけど、そんな彼女の両耳を黒いヘッドホンが覆い隠していたんだ。


挿絵(By みてみん)


 先ほど取り出したと思しき小箱からは黒いコードが伸びている。ああ、これは最近流行りの携帯音楽プレーヤーってやつだ。俺が差し出した携帯ストラップに視線を落として、ようやく状況が飲み込めたらしい。女はプレーヤーを操作しながらヘッドホンを外していた。


「ああ、ありがと」


 ちょうどその時、一台の軽ワゴンが俺達の横を走り去っていく。狭い道で多少速度を落としているとはいえ、ぶつかったらケガをするくらいの速さだった。普段から乱暴な運転でもしているのだろう。運転席の扉には無数の擦り傷が見える。

 たまたま俺が呼び止めたから良かったものの……小さくはない俺の声が聞こえないほどの音量で両耳を塞いでいた彼女一人であれば怖い思いをしたかもしれない。そう思った俺は、気が付くと少しおせっかいを焼いてしまっていた。


「……あの、音楽を聴きながら歩くと、危ないと思いますよ」

「音楽じゃないよ。落語を聴いていたんだ。古典落語ってやつ」


 俺、結構しっかりと忠告したと思ったんだけどな。彼女は反論も謝罪もしないまま俺にヘッドホンを差し出してきた。“聴いてみるか?”とでも言いたげに。違う、そうじゃない。


「音がないと落ち着かないんだ。……誰かの話を聴いている間、私の頭はその人に支配される。自分の言葉を考えようとしなくて済む」


 俺が首を横に振ると、女はそう口をとがらせる。注意に対する反論のようなもの、なのだろうけど……その言葉は随分と抽象的だ。要するに“静かだと落ち着かない”ってことだろうか?



(新聞部メモ)

今でこそ当たり前のように音楽をデータや配信サービスで持ち歩けるけど、ちょっと前まではMD、CDとかカセットテープに録音して持ち歩いてたよ。

だけど耳を塞ぐヘッドホンなんかは防犯的にも危ないので良い子はマネしないでね的な!

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