3-10
すっかり日が沈んでしまった。闇が支配するこの時間は私のもの。
今日は少しだけ機嫌がいい。
「――夜の駅舎、というのも趣がありますね」
……っと、誰かが来た。“聞き覚えのある声”に得も言われぬ後ろめたさを覚え、私はフードを目深にかぶりベンチの背もたれに身を隠す。
「貴方は駅舎と、目下に広がる噴水広場を行きかう人々を題材に写真を多く撮っているのですねえ」
「誰ですか」
「失礼。近くで喫茶店をやっているただの一般人です。ホームページを拝見しまして、ね」
「ああ……」
青年が誰かと話をしている……。その視線を辿ると、そこにはカメラを手にした男性の姿があった。
「青空を背景にレンガ造りの駅舎を見上げる写真、とても印象的ですよね」
「はは、いつも似たような構図ばかりでお恥ずかしい」
カメラから飛び出したレンズを外し、ケースに収める。男性は返事もそこそこに機材を丁寧に片づけている。
ただの世間話、だろうか。……ここで話さなくってもいいのに。はあ、今日は帰ろうかな……あと七人……だけど、焦る必要はないのだから。
「――この辺りにはいつも金と赤の髪をした派手な男がいる。ですが、貴方の撮った写真には全く写りこんでいないですよね」
「……あんた、あいつの知り合いか」
「まあ、そんなところです」
……とその時。青年の声色が変わった。
「……これは俺の推測です。貴方がいつも同じ構図ばかりなのは駅にいる彼をあえてフレームから外している。それはこの歴史ある駅舎と彼の風貌がマッチしないから、ではないですか?」
カメラ本体を丁寧にケースへ納め、さらに肩から提げたカバンへとしまい込む。男性の返事は返ってこない。
「青空と接写した構図の駅舎、黄昏時の噴水広場、曇天の広場――明るい日中に広場を撮影したものがないのは“彼が映り込んでしまうから”……彼は犬に吠えられては騒ぐ。美しい風景の真ん中でコンビニのおにぎりを食べる彼が――」
三脚を折りたたみ、カバンへと収めていく――かすかに、男性の手が震えているように見えた。
「自分で殺害したい、とまでは思わない。だけどもし、邪魔な彼が消えたら。誰かの手によってフレームの外へ追い出すことができたら……きっと、もっといい写真が撮れるでしょうね」
「……何を証拠に、そんなことを」
「ええ、ですから推測と最初に申し上げました」
探偵のように青年は凛とした言葉を紡ぐ。
「誰かが死んだわけではないし、仮に貴方がそういう書き込みをしたとしてもまだ罪ではありません。ですが……“死ねばいい”なんて呪詛はいつか自身にも帰ってきますよ」
海辺からの潮風が広場を通り抜け――青年の整った顔、その半分を覆い隠すほどの長い前髪が風に煽られ、弄ばれている。
青年はどこか寂し気に笑っていた。




