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私立・神楽椿学園探偵部の事件ノート  作者: サトル
3.神楽椿学園帰りに寄り道を
30/71

3-9


「あの、キミはどうしてボクが殺される、なんて思ったんですか? 超能力とか――」

「――“ゾディアック・BBS”を見たから、だよね? お嬢さん」


 アレンさんが恐る恐る口を開いたその時。

 私の後ろから聞き覚えのある声が聞こえました。優し気な青年の声。それは――


「雲雀くうん!」


 声に気付くと同時にアレンさんはクイックなターンを決め、両手を広げて宙を舞います。

 目の前にいる私もろとも押し倒されてしまいそう、そう思った瞬間でした。慣れた様子の雲雀さんは私の背中に手を添えて庇うように押すと、そのまま屈みこんでアレンさんをかわしたのでした。


「ゾディアック、びー……?」


 顔面から床にダイビングしてしまわれたアレンさんが少し心配でもありますが……それより、私たちは雲雀さんの仰った言葉が気になりました。

 “BBS”……つまり電子世界上の掲示板のこと。インターネットでの通信が盛んになりつつあるこのご時世、個人のホームページと並ぶ新たな交流ツールとして一部界隈で人気になり始めている物です。

 でも、ゾディアックということは――


「そう。“平成のゾディアック・キラー”に(アヤカ)った名前だろうね」

「つまり“殺人鬼の掲示板”――」


 雲雀さんがこくりと頷く。


「……正確には、“殺人依頼の掲示板”だね。……依頼者は殺してほしい相手の詳細を書き込む。本当に“ゾディアック・キラー”がその書き込みを見ているかは分からない、だけど」

「模倣犯、あるいはそういった願望を持った人間の目に留まれば“依頼が成立してしまう”ということですわね」


 現実世界で“殺せ”なんて口にしたら罪に問われます。ですが、まだ――この進化著しい電子の世界には法律が追い付いていないのが現状です。

 BBSの多くは匿名で誰でも利用ができる。仮面をつけたまま、気軽に“死ね”といえる世界ということなのでしょう。


「――つまり、ボクはそこに書かれていた、って事をキミは教えに来てくれたんですか」


 鼻を押さえたままのアレンさんが起き上がります。

 アレンさんの問いかけに、初めて少女は小さな声を絞り……そして頷きました。

 ティッシュを欲していらっしゃるようなので私が常備品を差し出すと、アレンさんは“洗って返すね”と笑いました。

 ……まあ、お気持ちだけ。


「最初は、どんな人なのかなっていう単純な興味でした。すごい書かれ方だったので。本当にそんな人間が実在するのかと思いまして。だけど、ご本人を見ていたら……別にそうでもない、というか。“殺されるほどの悪い人”には思えなくって」


 聞けば、少女は私の推理通り“用事”のためにこの王司駅を訪れたそうです。そして、空き時間を利用し、元々知っていたBBSの情報をもとにアレンさんに会いに行った。殺そうということではなく興味本位だったと。

 ですが、うまくもないマジックを眺めているうちに情のようなものが湧いたようです。そしてあの忠告に至ったと――


「……貴方は正しいことをしたと思います。だけど、一つだけ」


 ――聞き終わり。私は少女に向かい立ちました。どうしても一言、伝える必要があったのです。


「確かにアレンさんが匿名の書き込みによって殺される道理はありません。ですがそれ以前に……仮に彼が“悪い人”であったとしても。“だから殺されてもいい”というわけではないですわ。人を裁くのは人ではなく、法であるべきなのですから」


 少女が口にした“殺されるほどの悪い人とは思えない”という言葉が私には“悪い人は殺されてもいい”とも聞こえたのです。

 でも、それは少し違うと思うのです。更生の道を行き贖罪(ショクザイ)をするか、あるいは命を持って償うべき罪も存在はするでしょう。ですが、それらを決めるのは人ではなく法であるべきだと。綺麗事なのかもしれませんが……。


「――申し遅れました。私の名前は、水瀬(ミナセ) (メグミ)です。……貴女は」

「風見 楓李ですわ」


 駅のホームからは次の電車の発車時刻を知らせるアナウンスが聞こえる。


「……ありがとう。きっと、そのお名前忘れません、私」


 恵と名乗った少女は頭を下げるとふっと微笑み、そして改札へと向かっていきました。

 興味本位でBBSを覗いていただけの少女からはこれ以上聞き出す事もないでしょう。そう思い、見送る私たちの横で――

 ――雲雀さんだけがどこか訝し気な顔をしていたことを、この時の私たちは誰も気が付かなかった。



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