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私立・神楽椿学園探偵部の事件ノート  作者: サトル
3.神楽椿学園帰りに寄り道を
26/71

3-5

 せめて持ち物や服装に特徴があれば、少しは特定できたかもしれませんが……髪が長い、という特徴以外は特筆すべきこともない、ごく普通の少女。

 流石にお手上げ状態で、渋い顔をした一同をしばしの沈黙が包み込みました。

 時計の音だけが耳を刺す中――ふと、沈黙を破り、雲雀さんが口を開いたのです。


「アレン、駅前にはずっといたんだよね? 昼ご飯で席を外したようだけど……何時から何時まで、とか思い出せるかい」

「十三時半くらいから、十四時まで。席を外したといっても、駅前のコンビニでおにぎりとパックジュースを買っただけで、ごはん自体は駅のロータリーで食べてましたし」


 さすがに半日も経過していないのですから、記憶は色あせていない様子。

 アレンさんが淡々と答える一方で、私たちは顔を見合わせて苦笑いを浮かべてしまいました。

 ……だって、あの絢爛な格好でコンビニに行って軽食を購入し――噴水が中央に据えられた風光明媚な広場の片隅でおにぎりを食べる青年の姿があまりにも不釣り合いで。


「なるほど。その三十分の間に女がやってきたという事は、その時間帯に駅に到着しているバス、電車を調べたら何か手掛かりがつかめるかもな」

「徒歩で来たっていう可能性もあるけど……まずは当たってみる価値くらいはあるんじゃないかな」


 私たちが余計な想像をしてしまっていたその頃、華澄さんだけは真剣に耳を傾けていらっしゃったようです。まるで導くかのような優しい眼差しを湛えていらっしゃる雲雀さんの方をまっすぐに見ると、華澄さんは手を叩きました。


「早速現場に……と、言いたいところだが」


 言葉とは裏腹、華澄さんは席を立とうとはいたしません。代わりに私の顔をじっと見つめています。


「……風見 楓李!」

「はい?」

「本件はお前に任せる」


 青天の霹靂(ヘキレキ)、とはこの事でしょうか。てっきり“とっとと行くぞ”と先陣を切って足を急がせるだろうと考えていた私はとっさに言葉を返せないでおりました。


「私は他に調べたいことがあるから。司は私の助手として手伝ってもらうつもりだし。お前しかいないだろう」


 司君がおろおろと私たちの顔を伺っているのが見えます。ですが、華澄さんが威嚇(イカク)するかのように一瞥すると……まるで蛇に睨まれた蛙のよう。肩を小さく丸めて俯いてしまいました。


 ――任せる、なんて聞こえのいい言葉を用いられておりましたが、その実“自分は何を調べようとしているのか”を聞かせようとはしていない。手の内を見せないように、そして体よく私を外へ出したいようにも。

 華澄さんはまだ“私を信用はしていない”ということなのでしょう。


「承知いたしましたわ。……ところで司君は助手として必要、とのことですが……私もどなたかにご協力を仰いでもよろしくて?」


 たとえその“真意”が何であれ。ここで真意を無理矢理聞き出すことはお互いの今後へも影響が出てしまうやもしれません。ならばせめて、と首を傾げてみると意外にも華澄さんは“任せる”と快諾なさったのでした。

 司君以外……まあ、この場合は――


「……俺か」

「はい」


 ちらりと表情を伺っただけで意図が丸ごと伝わったようです。真琴さんは大きなため息を落としておりました。




 ――黄昏時の王司駅前。橙色に染まる風景と赤煉瓦作りの駅舎がどこか寂し気に移ります。

 行きかう人々は家路へと急いでいるのでしょうか。夕日も、紅に染まる水面にも目もくれずに私たちの前を通り過ぎていきました。


「――で、何でお前までついてきたんだよ。遊びじゃないんだけど」

「ええやん! 面白そうだし! なあ、ふーりちゃんも女の子一人より二人の方が楽しない?」

「え、ええ……ええと」


 私の片腕を恋人同士のように絡めとってきたのは真琴さんの幼馴染、沙綾さん。

 華澄さんとしてはいてもいなくても関係のない部外者、という扱いだったようでしたが……どうやら当人の御意志で私たちと行動を共になさる様子。真琴さんの大きなため息が聞こえると、沙綾さんはまたカッカと笑われたのでした。


「あ、ここですう。ボクのホームポジションですヨ!」


 そして、もう一人。


「あんたもなんでついてきたんだよ。“命狙われている”っていうのに、張本人がのこのこと出てきちゃ駄目だろ」

「だいじょぶデス! いざとなったらボクを守ってください真琴くぅん」

「こいつ……殴りたい」


 “少女の特徴や自身の行動なんかを現地で説明します”との事で、本件渦中の人――殺害予告を受けた張本人のアレンさんまでも、私たちと一緒にやってきてしまいました。

 当人に及びかねない危険を鑑みると、雲雀さんたちの元で匿ってもらっていた方が良かったと思うのですが……。押し切られた格好です。

 万が一の事態が訪れてしまったら……正直、真琴さん一人でどうにかしのぎ切れるとも言い切れないでしょう。

 ――武道の心得はございませんが、護身用の武器は持ち歩いております。

 いざとなったら私も――

 ズシリと重い手提げ鞄の取っ手を握りしめると、駅前に広がる噴水広場を見渡しました。


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