3-4★挿絵アリ
「はあ」
「はあ……って!!! いいんですか!? ボクですよ!? ボク! 守ってくださいよお! このままじゃ怖くて怖くて夜しか眠れないです!」
カウンター席の女性たちはすごすごとお会計へ向かってしまいました……。まあ、逃げたくもなるでしょうね、お可哀そうに。
「夜は眠れるならいいじゃないか」
ですが、妙に場慣れして見えると申しますか。
対する雲雀さんは相も変わらず涼やかなまま、テキパキと会計を済ませるとサービス券のようなものをお渡しになっているようです。
「……雲雀、困りごとか? 私達で力になれるなら話くらい聞くが」
私達だけが残された店内、見て見ぬふりをする方が難しいと言える空間で最初に声をかけたのは華澄さんです。
彼女にしては珍しく柔らかい言葉。それは同時に“連続殺人鬼の話題だけを避けようとした”とも言えるでしょうか。
「遠慮なさらず聞いてください! ボクはアレン! “イケメンマジシャン”として飛ぶ鳥を落とす勢いなんですヨ!」
華澄さんが口にした“話を聞く”という単語に我先にと食いついたのはアレンさんです。
カウンター奥の方から客席へと引き返してきた青年はドンと胸を叩くと手を広げています。
男性にしては少し顔付きが可愛らしく女性っぽい、というのが第一印象でしょうか。身長も雲雀さんや真琴さんよりは低く、司君と同じくらい。
……しかしこの方、何と表現する事が正しいのか。髪型は肩のあたりでシャギーの加えられた、いわゆる流行のウルフカット。ですがその髪色は麦の穂のような金色が毛先に向かうにつれて炎に染まったかのような朱色に姿を変えるという絢爛なもの。
朱色は毛先だけではなく、前髪の数カ所にも差し色として添えられていて、その……御着物、というより金魚か何かのように思ってしまいました。
「こんな夢に出てきそうなマジシャンがいたら記憶に残っていそうなものだが。誰か知っているか?」
「いんや、ウチは初めて見たで」
「俺も」
「私もですわ」
「“僕も”……て自分で言えっての」
因みに御召し物も、中国あたりの民族衣装をモチーフにしてあるのでしょうか。少なくともこの現代日本において街中で見かける服装ではないという事は確かでしょう。
「ボク、いつものように駅前の噴水広場で“スーパーイリュージョンショー”をやっていたんですけど」
「駅前」
「ロータリー……」
「スーパーイリュージョンショー!」
この辺りの駅、という事はあの和と洋を織り交ぜたレトロな駅舎の事をおっしゃっているのでしょうが……想像するに中々奇怪な光景です。もう想像せずに話に集中した方がよさそうです。
アレンさんは大げさであまり必要性のない身振り手振りを交えながら言葉を続けます。
――聞くに、彼はお昼ご飯を買う為に席を外した。そして広場に戻ってくると、そこには一人の女の子が来ていたとの事。……向こうは特別話しかけたり、何かをするでもなくただベンチに腰かけていた為、アレンさんも気にせずイリュージョンショーを始めた。少女も黙ってそれを見ていた。
そして――
「ボクが帰り支度を始めた頃……こう言ったんです」
“気を付けて、貴方を殺したいほど憎んでいる人がいる”
「怖いでしょ!? ボク、いつも駅前にいますけど誰にも迷惑かけたりしてません! ま、まあ散歩で通りかかるわんこには吠えられるケド」
「ワンちゃんもびっくりな頭やしなあ」
「犬は正当防衛だな」
動物は人とは違い、見えている色が違うと言われていますが……それでもこの方の存在感は犬にとって怪異なのかもしれませんね。
「……その声をかけてきた女とやら、気になるな」
一部始終を受け取ると、華澄さんがそう呟いて口元に手を当てています。
そう、華澄さんが仰った通り。それが単なる悪戯であれ、そうでなくとも……その少女こそが本件の鍵なのでしょう。
「特徴とか、分からないのか? ……ってこっちの黒わかめが」
「特徴……んー多分初めて見る子だったんですよね。すっごく髪が長くって、そうそう君たちよりも幼そうだったかもです」
「となると、小学生か中学生か……制服は?」
「ん、微妙なとこですね。小学校の高学年か中学生でしょうけど……私服でした。普通のTシャツにズボン、靴はスニーカーでした」
「じゃあ荷物は? ほら、カバンとかぁ、どこかのお店の紙袋とか」
「何も持ってなかったデス」
司君……の通訳となった真琴さん、続いて華澄さん……そして沙綾さんと代わる代わる質問を投げかけていきますが、アレンさんは首を傾げてばかりです。
つぎはぎのような情報を取りまとめるとすれば――
髪が長い小学校高学年から中学生ほどの少女、服装はラフな格好。特に目立った持ち物はなし。
「ノー手掛かりじゃん」
「オー……ボクはこのまま怯えてひきこもるしかないでしょうか……このカルムに身を潜めて。……あ、今日の晩御飯はオムライスが良いナ」
「さりげなく居候しようとしてるし。今日は“昨日のカレー”だよ」




